子育て勇者と魔王の子供・60
勉強がひと段落したので、ユーヤは休憩に双子を兄の牧場に連れて行った。
兄が作業しているのが見える。今は牛のえさになる草を一か所にまとめている。
「おにーさん、おにーさんのおにいさんはなにをしてるですか?」
「あれは牛のエサになる草で、一まとめにして後で片付けるんだよ」
双子はやはり興味津々。牧場の仕事も珍しいのだろう。酪農など魔王城で見られるものではないだろうし。
「うし、くさたべるんだ! どうやってたべるの? くちから?」
「そうだよ。口以外のどこから食べるんだ?」
「え、むねのところがばかっとあいたりしないの?」
「胸のところがバカッと開いたら、それはもう牛じゃないよ」
イリックが何を想像したのか、あまり聞きたくない。牛じゃなくて魔物レベルだ。
そこへ、存在をすっかり忘れていたぽちが駆けてきた。
「王子、姫ーー!」
ぶもー。
ぽちの勢いに牛が怯えて逃げ惑う。体格は牛よりでかいくらいだし、普通田舎の村にはいない魔物なのだから、牛には怖かろう。
――ユーヤは、空高く飛んでいくぽちを見上げながら、そんなことを思った。
「イリック……今のはなんでだ? ぽち、ただ走ってきただけだろ?」
「うしをこわがらせたからおしおきした!」
ごしゃっとぽちが地面に落ちる。多分、今までの最高高度を更新した気がするイリックの一撃。
そのまま、地面が盛り上がってぽちを埋める。はさむとかそういうレベルではない。あれはもう、埋めている。埋葬レベルだ。
「イリア、あれはなんでだ? ぽち、今落ちてきただけだろ?」
「うしがぽちをみてこわがってます。なのでかくしてみました! これでうし、こわくないです!」
自信満々、幼児と幼女は胸を張っている。ベクトルは確実に、牛>ぽち。
「そっかー……牛のためかー……優しいな、二人とも。その優しさを、もうちょっとだけぽちに向けられないか?」
「え、なんで?」
「どうしてですか?」
心底から不思議そうな双子である。
「うぐぉう……わ、吾輩に詫びることなどないですぞ、王子、姫……り、立派な魔王になるためには、このくらいの非道さが必要なのです……ぅう」
土まみれで、ぽちが這い出てくる。
「お前も大概タフだなぁ」
どうやればこいつは死ぬのだろう? あまり想像できない。もしかして不死身だったりするのだろうか。意外と熱湯をかけたら死ぬかもしれない。実行する気はないけれども。
「イリック、イリア、牛の乳搾りに挑戦してみるか?」
気を取り直して、先ほど勉強中に考えていたことを口にする。
「ちちしぼり?」
「って、なんですか?」
小首をかしげる双子が可愛い。ほのぼのしながら説明してやるユーヤだ。
「昨日、牛乳を飲んだだろ? あれは、牛のお乳だ。おなかの下に大きなおっぱいが見えるだろ? あそこからお乳が出る」
「ぎゅうにゅう、あそこからでんの!?」
「あんなところからぎゅうにゅうがでるですか……びっくりです」
イリックが大声を上げ、イリアは目を丸くしている。
「……えーっと、ちなみに、何が出ると思ってた?」
ちょっとした好奇心で聞いてみる。
「え、なんかどくとかほのおとか。でっかいし、つよそうだから」
「あそこから、ちいさいうしがたくさんでてくるとおもってたです」
斜め上の回答が返ってきた。元魔王、この子らにどういう教育を。やはり午後からは話し合いをしたほうが良さそうだ。日も上ってきたし、気温も上がってそろそろ半分くらいは溶けているころだろうから、イリックの魔力で溶かしてもらおう。少々焦げても文句は言わせない。
「残念ながら、牛乳しか出ないよ。絞ってみるか?」
「……うし、よってもこわくないですか?」
イリアが手を握ってきた。近寄るのはまだ少し怖いようだ。
「大丈夫だよ。俺も行くから」
「うーん、にーちゃんがいっしょにいるなら、ちょっとやってみたい!」
イリックももう片方の手を握ってくる。
「そうか。じゃあ、ちょっと挑戦してみような」
ほのぼのとそんなことを話している背後で、ずりずりとぽちが這って近寄ってくる。
「うぬぐぅ……わ、吾輩も行くぞ……」
「あ、お前は離れてろ。牛が怖がって寄ってこないから」
「そうだ。くんなよぽち」
「そこでばんけんしてなさい」
「鬼畜勇者め……ああ、王子と姫、素敵……」
……ちょっともう一度埋葬したほうが良いかもしれない、この魔物。
のほほん。あ、ぽちは通常運転です(笑)次回はオーラが来るかな?




