子育て勇者と魔王の子供・59
「おはようございます、おにーさん。けっこんしてください」
朝一で、幼女にプロポーズされました。
「……えーと、イリア? どうしたんだ急に」
朝ごはんを食べ終えて、兄の作業の手伝いをしていたら、双子が訪れて、開口一番イリアがそう言ったのだ。ユーヤは脳が停止する感覚をなんとか振り払って、問い返した。
「昨日変な夢でも見たのかい?」
「ちがいます。いろいろとイリックとけんとうしたけっか、おにーさんとけっこんしたほうがいいというけつろんにいたりました」
「イリアとにーちゃんがけっこんしたら、おれもにーちゃんときょうだいだよな! だから!」
いや何がどうなってそんな結論に。元魔王、子供たちに何か言ったのか。昨日祖父母宅を出たときにはまだ凍っていたけれども、腐っても魔王だった存在だ。復活して子供たちに何か吹き込んだか。
「……あー、えー、あのな? お父さんの真似はしなくていいんだよ?」
「おとーさんのまねはしません。だからいまからぷろぽーずしているのです。おとなになるまでまっててください」
つん、と、手を引っ張られた。小さな暖かい手。この村の中なら帽子もいらない。角も尻尾も隠す必要がない。村は平穏で、誰もが優しい。この村の中なら子供たちも普通に暮らせる。住処を探していたついこの間が嘘のようだ。こんなことならもっと早く帰ってくれば良かった。
……いかん。逃避するところだった。
「イリア。あのな、前にも言ったけど、君が大人になるころは俺はヨボヨボで、とてもじゃないが結婚相手には」
「だいじょうぶです。たぶん」
「たぶんだいじょーぶだよ、にーちゃん!」
双子は自信満々あいまいなことを言いきった。
「ぷろぽーずはしました。おぼえておいてくださいね」
イリアはにっこり可愛らしく笑って、イリックを置いてどこかへ歩いて行った。
「……女の子はませてるなぁ……」
もうそういうしかないユーヤである。まさか幼女からのプロポーズを本気にするほど変態ではない。来月辺りには、きっと村の中の同じ年頃の子供に「けっこんしたいです」とか言い出すだろう。
「あー、イリック。文字の勉強するか?」
「うん!」
とりあえず、今はイリックに勉強を教えよう。イリアも後で来るはずだ。この双子は一緒に行動することを好むから。
「ところでイリアはどこに行ったんだ?」
「ん? せんせんふこくしにいくって」
「どこの誰にだ……あ、ぽちか? ならいいか」
ユーヤは自己完結した。ぽちなら良い相手だ。すぐ復活するから。
「にーちゃん、『ぬ』がむずかしい」
「ん? じゃあ、ここからこうやって、ここでくるんとしたらどうかな」
「んー、ん! おー、かけた!」
木切れを薄く切ったものに、インクを付けたペンで文字の練習をする。イリックは『ぬ』を書くのが苦手のようだ。
「い、ぬ」
「そうそう。上手だよ」
上達が早い。賢いのだ。コツをつかむのも上手なのだろう。オーラの教え方も上手いのかもしれない。
「う、し。もー」
書きながら鳴き声の真似をしている。牛をかなり気に入ったらしい。あとでまた牛のところに連れて行ってあげようか。乳しぼりのお手伝いとかも喜ぶかもしれない。
農作物の収穫なども子供たちには楽しいだろうか。野菜や果物、祖父の畑ならなんでもなっているから、祖父に頼んで連れて行こうか。のんびり茶を飲みながら考えていると、イリックに袖を引かれた。
「にーちゃん、にーちゃん」
「ん?」
「にーちゃんおんなのひとってどんなのがこのみ?」
……危うく茶を吹き出すところだった。かろうじてこらえて、なんとか飲み干す。
「い、イリック、どこでそういうことを覚えてくるんだ?」
「え? ……んーと、るびーとかだいやもんど?」
四天王か。幼児になんてこと教えてやがる、あいつら。ハーレムを作ろうとしていた魔王の配下も、ろくでもない奴らだったようだ。倒して後悔しないくらいには、ろくでもない。
「あのな、そういうことはもっと大きくなってから考えなさい」
「えー、おっきくなるまでまってたら、なんかいろいろおそいきがする」
「遅くないから」
遅くない。断じて遅くない。
今激烈に元魔王を殴りたくなった。子供にどんな教育しとったんじゃ貴様。そしてろくでもない四天王を自分の子供に近づけてんじゃない。教育に悪すぎる。後で説教だ。決めた。
ややあって、イリアが戻ってきた。
「こんにちは、おにーさんいますか」
「おや、可愛いお客様」
と、義姉が応じる声が聞こえる。
「奥にいる。行くと良い」
「はい。おじゃまします」
うん、元魔王の子供とは思えないくらいに礼儀正しい。
イリアが駆け込んできた。笑顔全開でユーヤの隣に座る。
「イリック、おべんきょうちゅうですか。じゃあ、わたしもおべんきょうします、おにーさん」
「うん。じゃあイリアはこっちの板を使おうか。ペンは今持ってくるよ」
「はい。おねがいします」
立ち上がると、背中で双子の会話。
「イリア! おれ『ぬ』かけるようになった!」
「ほんとですか、すごいですイリック!」
可愛いなぁ。のほほんと思いながら、ユーヤはペンを取りに行った。
「……で、ねえちゃんたちは?」
「かたまってました。わたしがそうくるとはおもわなかったらしいです」
「そっか。ゆだん、ゆだん……なんだっけ?」
「ゆだんたいてき、です」
「それだ! ゆだんたいてきってやつだな!」
「そうです。ゆだんたいてきなのですよ」
双子は顔を突き合わせて笑っている。非常にかわいらしいのだが、黒い。
その様子を見ていた義姉は、笑いをこらえているようだった。戻ってきたユーヤが義姉の様子に首をひねる。
「義姉さん? どうしたんですか、そんなところで」
「うん、いや、可愛いなと思って。君もいろいろと大変だろうが、頑張りなさい、ユーヤくん」
「は? はぁ……」
訳が分からないが、とりあえず頷いた。
イリア、参・戦!? ……えー、ブログのストックが尽きました。ので、多少更新が遅くなるかもしれません。頑張って書かなくては……(汗)




