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子育て勇者と魔王の子供  作者: マオ
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子育て勇者と魔王の子供・57

 実家の自分の部屋だった場所は、すでに物置になっていた。家を出た息子に対しての扱いなんてそんなものである。

 とりあえず、客間に寝ることになったユーヤだ。

 家族は帰宅を喜んでくれた。魔王退治に行くなんてなんで無謀な真似を、と、両親には怒られた。

 嫁に行った姉も飛んで帰ってきてくれて、無事を喜んでくれた。一回殴られたが。

 実家を継いで酪農をしている兄は、のほほんと牛の中で出迎えてくれた。

 もー。牛の鳴き声が聞こえる中で、ただ「おかえり」と笑顔で言ってくれたことが嬉しかった。


 家族。ありがたいな、と、ベッドの中で実感する。兄嫁が準備してくれたらしいベッドは、ひなたの臭いがした。今日は一日たくさんのことがあった。

 午前中は王宮にいたのに、神殿に出頭したら実家に飛ばされて、祖父母の出迎え。

 長い話を終えたころに田舎での知り合いが襲来。オーラと仲良くなる。

 仲良くなったのなら良いかと思っていたら祖父母の隣家夫婦、元魔王と死の化身である双子の両親が訪れ、いろいろあって、お母さん・死の化身の仕事が落ち着くまで、双子の子守役を頼まれた。

 そのあと、ユーヤの実家の牛が見たいとせがまれて、家族に顔を見せがてら牛見物に。


 ※※※


 もー。

「あれがうし!? でけー! あんなにでっかいのにまものじゃねーの!?」

「うし! もーっていってます! ほんとにもーってきこえます!」

 牛を見てはしゃぐイリックとイリア。初めて見るのだと言う。本でしか知らなかった、らしい。

「もー!」

「もー!」

 牛の鳴き声を真似して双子がもーもー言っていると、中の一匹が寄ってきた。

「わー、こっちきた!」

「なんですか、もーっていったのきにくわないですか? それともうしごでこっちおいでってきこえたですか?」

 驚く双子がユーヤの腕につかまる。牛がちょっと怖いようだ。可愛い。

「大丈夫だよ。ほら、こっち見てるだけで何もしない」

「んもー」

 牛が鳴く。

「……にーちゃん、んもーってどういういみ?」

「……いや、俺も牛の言葉は分からないな、さすがに……」

 酪農で生計を立てている家に生まれたが、牛語は理解できない。目を見たらなんとなーく、昔は理解できたのだが、今は無理だ。

 わいわいやってると、作業を終えた兄がやってきた。あいさつはすでに済ませて、子供たちに牛を見せてあげたいんだと言うと、快く了承してくれた子供好きである。

「この子ら、牛乳飲むかな? 今朝絞ったばかりの牛乳だよ」

 と、コップを二つ手にしている。

「ぎゅうにゅう? のむ! ありがと!」

「のみたいです。ありがとうございます、おにーさんのおにいさん」

 好き嫌いのない双子はにっこり笑ってコップを受け取り、牛を眺めながら飲みだした。


「もー」

「もー」

 まだ牛の鳴き声を真似ている子供たち。気に入ったのかもしれない。

「……可愛いな。じいさんとこの隣の子だって?」

「そう。まだ四歳」

「あー。可愛い盛りだ。いいなぁ。うちもそろそろ子供欲しいところだ」

 と、兄。結婚して三年、新婚さんを卒業しつつある。兄嫁との仲も順調で、親に孫の顔を見せてやりたくなってきたのだろう。

「はは、そうだね。俺も可愛い甥っ子か姪っ子欲しいよ。頑張って」

「おう。頑張る。で、お前のほうはどうよ」

「へ」

 兄は笑顔だ。

「魔王もいなくなったんだろ? せっかく帰ってきたんだし、そろそろ身を固めることを考えたらどうだ?」

 この年で!? と、ユーヤは焦った。兄とは七つ、姉とは五つ離れている末っ子。まだまだそんなことを考えたこともない。

「まだ早いよ」

「考えるのは早くないぞ。別にすぐ結婚しろって言ってるんじゃない。考えたらどうだって話さ」

 兄は軽く肩を叩いてきた。


「だってお前、魔王を倒してそれで終わりってわけじゃないぞ。勇者としての役割は終わったかもしれないが、ユーヤ自身の人生は終わりじゃない。まだまだ続くんだ。もちろん、結婚したって終わりじゃない。それからだって人生は続く」


 うん、と、うなずいてから、兄は続けた。

「あと、早いって言うならじいさんを思い出せ。お前の年にはもうばあさんとカケオチしてた」

「いや、じいちゃんばあちゃんは別格だろ」

「まぁそうだけど。じいさんの決断を見習ってもいいと思うぞ。田舎は結婚早いしなー。で、どうよ?」

「どうって何が」

 意味が分からず問い返すと、兄は楽しそうにニヤニヤし始めた。

「旅してたんだろ? 可愛い娘と出会ったり、なんかロマンスはなかったのか?」

「……いやー……あいにくと」

 苦笑するしかない。確かに一緒にオーラと戻ってきたが、彼女も王立研究院から飛ばされただけだ。単なる旅のツレである。

「そうか? なんか可愛い女の子連れて帰ってきたんだろ?」

「…………めちゃくちゃ情報が早い気がするんだけど、それどっから?」

「ん? 嫁から。ウチの嫁そういう情報ほんとに早いんだよな。どっから聞いてくんだろ?」

「義姉さん……相変わらずだね」

 なんでか兄嫁は情報収集が素早く正確なのである。どっから聞いてくるのか心底不思議だ。

 そんな嫁をもった兄は、にやにやしながら肩を組んできた。内緒話をするように小声で聞いてくる。

「で? その娘は恋人か? 兄ちゃん誰にも言わないから教えてくれ」

 この兄に隠し事は難しい。年が離れているせいもあるだろうが、兄自身の雰囲気もある。素直にユーヤは真実を継げた。

「残念ながら。子供を預かっちゃったから、俺の子育て能力を心配してついてきてくれただけ」

「…………ほんとにそうか?」

「そうだよ。本人がそう言ってた」

「……………………ほんとにそうか?」

「? そうだって」

 なんで二回も訊くのだろう。


「独身の女の子が、子供を預かっちゃったお前に、ずっとついてきてくれた、のか?」

「え、ああ、そうだよ」

 頷くと、兄は半眼になった。

「お前、それはお前に気があるんだろう」

「え?」

「ないわけないだろうが。大体子供連れの男だぞ? 魔王退治なんて気が遠くなるようなことをやってたような男、さらに子連れ! そんなもん厄介以外の何物でもない。それでも一緒に来てくれるなんて、絶対にお前に気がある!!」

 断・言。

 ユーヤは何も言えずに瞬いた。オーラが? えええ?

「だってそんなこと何も言ってなかったけど」

「お前……鈍感も過ぎれば罪だぞ……そういうお前の態度の陰でどんだけの女の子が泣いてたと思う」

「は?」

 兄が何を言っているのかちょっと理解できない。

「お前が兵士になるって村を出て、あまつさえ魔王退治に出てったと知れたとき、村の中の独身女性はお通夜ムードだった」

「はぁ!?」

 なんだそれは。


「いや、『はぁ?』は俺が言いたい。俺の弟はむやみやたらとモテてモテているというのに、なんでこんなに鈍感なんだ」

 兄も苦笑している。言われた弟は混乱中。

「ちょ、ま、えええ?」

「うん、まぁ、良く考えろ。お前の人生だし、相談にはいつでも乗るからな」

 がっしがしとユーヤの頭を乱暴に撫でて、兄は作業に戻って行った。

 ……呆然としたユーヤを置いて。


 ※※※


 そして、夜。ユーヤはベッドの中で考える。

 オーラが? そして村の知り合いだと思っていた女の子たちが? 自分のことを?

 まさか、と、思いたい。しかし言われてみれば確かにこんな無謀な男についてくる、あるいは帰りを待っているというのは、アレだ。

 ええええええ。

 俺、モテてたのか……? でも全然そんなつもりはなかったんだけど……なんで兄ちゃん分かったんだよ……すごいな既婚者。

 毛布をかぶって、目を閉じても、しばらく眠れそうになかった。


地味に兄、ぐっじょぶ。さすが既婚者(え)さーて女性陣の恋心に気が付いちゃったぞー。どーしよー(考えてない・笑)

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