子育て勇者と魔王の子供・54
強制的な里帰り。祖父母にお茶をごちそうになって落ち着いた。とりあえずお隣に双子の実の両親がいるとのことなので、一度あいさつに伺おうと思う。父親=魔王のほうには言いたいことが山盛りあるし、母親=死の化身にも言いたいことがある。
双子を置いて家を出たこととかも、ちょっと叱りたい。
ユーヤはそう思い、祖父母にも告げたが、もう少し待ちなさいと止められた。
ちょっと困ったように微笑み、祖母が言う。
「多分、今、大魔王の魂をどうにかこうにかしているところのはずだから、もうちょっと待ったほうが良いわ」
どうにかこうにか。
もと魔王と現在進行中で死の化身のご夫婦が、どうにかこうにか。
……精神衛生的には、詳しく聞かないほうがよいだろう。それだけは理解できる。
「隣に行くのもいいが、お前、ちゃんと両親のところにも顔を出すんだぞ。みんな心配していたんだから」
と、祖父。
「あ……うん。そうだね。後で顔を出すよ」
今はまだ双子がいるから、後で、とユーヤは思ったのだが、
「にーちゃんのかぞく? おれもあいたい!」
「わたしもあいたいです」
イリックとイリアが元気よく手を挙げた。
「ご家族……ユーヤさん、あいさつに行かれたほうがいいんじゃないですか?」
オーラがなにやらもじもじしている。どうしたのだろう。
「そうだなー……でもイリックたちの両親にも話はしたいし……これからのことも含めてちゃんと話をしないと――」
と、言いかけたとき、ドンドンとドアがノックされた。
祖父が腰を上げ、返事をするよりも早く、ドアが勢いよく開かれる。
「ユーヤぁあぁああ!!」
仁王立ちしているのは、華奢な女性だった。
「聞いたわよ! 帰ってきたのは良いけど、女と子供連れで帰ってくるとはどういうつもりなわけ!?」
視線が厳しい。ユーヤは瞬いた。何を言っているのだこの女性は。
隣でオーラが背後に豪雪を背負っていることに気が付かず、ユーヤは口を開く。
「ネィナねえさん? どういうつもりって何が?」
「すっとぼけるのかこのトーヘンボク! いい度胸してるじゃないの……!」
びゅごごおおおおお。何か、猛吹雪の中にいる気がしてきた。なんだこれ。久しぶりに会ったし、無沙汰にしていたことは悪いと思っているが、なんだろう、このいたたまれなさ。理解できずにユーヤは状況において行かれている。
「……おにーさん」
くいくいとイリアに袖を引かれた。
「ん? どした?」
「このおねえさんはだれですか」
「ああ、イトコ。親戚だよ。小さいころからよく山の中一緒に駆け回って遊んでた相手」
「しんせき……」
オーラが呟く。その彼女に視線を向けて、ネィナと呼ばれた女性は獰猛な笑みを浮かべた。
「イトコって結婚できるのよ?」
びゅおおおぉおおおお。室内が凍えるようである。何だこれ。
かたり、と、オーラが小さな音を立てて立ち上がった。
「……ユーヤさん」
「え?」
「どなたかと将来を誓ったりしたことあります?」
「は? いや、ないけど……そんな年じゃないし。まだ考えたこともない」
「そうですか……ですよね。ふふふ、ですよねぇ……」
呟きながら、オーラはネィナに近寄っていく。仲良くなりたいのだろうか。女性の友人が欲しくなったのかもしれない。その割に視線が互いに険悪なような気もするが。
「ユーヤは相変わらずねぇ」
「そうだな」
祖父母はにこやかだ。確実にユーヤより状況を理解しているようだけれども、説明はしてくれないらしい。くいくいとイリックにも袖を引かれた。
「にーちゃん」
「ん?」
「あのさ、ほかにおんなのしりあいいる?」
ユーヤの交友関係が気になったらしい。しかし何故女性なのか。男性の友達もたくさんいるのにどうしてだろうと思いつつ、ユーヤは口を開く。
「え? えーと、そりゃあここが実家のある田舎だから、いるさ」
「……いるんだ。どんなひと?」
聞かれて頭によぎったのは、おとなしくて引っ込み思案な幼なじみとか、わがまま三昧な村長の娘とかだった。
「ん? あー、村長さんの娘さんとか、幼なじみとか? 何人かはいるよ?」
「そのうちなんにんがここにくるんだろーなぁ」
しみじみと言うイリックの横で、イリアが可愛らしい表情に苦いものを浮かべている。
「まだあとなんにんかはきそうです」
「だよな」
イリックも苦々しい表情だ。双子が何を懸念しているのか分からず、ユーヤは首をひねりつつ祖父母に視線をやった。
「……知り合いが多いとなんかマズイ?」
「いや、そんなことはないぞ」
祖父が苦笑している。祖母も苦笑いを浮かべていた。
ユーヤにはなんのことやらさっぱりわからない。オーラとネィナに視線をやると、肩を組んで何かひそひそと相談しているようだ。仲良くなったのだろう。良いことだ。
「いなかだからとあんしんできません。じっかまわりのほうがいじょうにきょうそうりつがたかいです。ゆだんできません」
「だな。とりあえず、みぢかなねえちゃんからけりおとすか」
「吾輩に命令して下されば排除いたしますぞ、王子、姫」
田舎にもフラグがっ!




