子育て勇者と魔王の子供・51
手紙には、双子を連れて神殿まで来なさい、と書かれている。
同行者も一緒に来るようにとも、書かれている。オーラとぽちも一味――仲間と思われているのだ。彼女は心配から同行してくれていて、ぽちは単なる乗騎なのだけれども、神殿にその言い訳は通じまい。なお、この件は誰にも――たとえ王にでも口外無用とまで書かれてある。
ユーヤは手紙に視線を落としたまま固まっていた。王に謁見して報告すべきだ、と、心の中でささやく声がする。
謁見してどうする? 王にまで口外無用と書かれているのに。
王はこの国の最高権力者だ。王に相談してしまえば誰も阻むことはできない、はず。
しかし、あの理解の深い王に、これ以上迷惑をかけたくない。王は双子の存在に目をつぶってくれている。ただでさえ、娘がアレで、嫁が魔物。心労を深めることもない。
ユーヤが、双子を連れて城を出ればそれで済む話なのだ。
魔王の死に関する調査は終わったと思っていいだろう。ユーヤが城に滞在する理由はない。
むしろ、今すぐにでも逃げよう。地の果てまでも逃げよう。
逃げるしかないそら走れすぐ走れ脱兎のごとく逃げるのだ! 双子の身の安全のためにも!! 逃げる理由しかないだろうむしろ。 姫とか姫とか姫とか美熟女の件で。
荷物をまとめておいたほうが良い。
神殿での話、その内容によっては、追われることもありえる。
……最悪、処刑だ。
それだけは避ける。誰がなんと言おうが、双子を護って逃げる。
神殿の人たち相手に戦うことは避けたい……ユーヤの祖父母に、神殿関係の友人がいるのだ。詳しいことは知らないが、若いころからの付き合いで、とても仲が良いらしい。
だから、ユーヤは神殿のひとたちを無条件で好いている。小さいころに幾度か会った、祖父母の友人が、とても優しかったから。
そういえば、あの人たちは今どうしているのだろう。
祖父の冒険者仲間だったらしい人たち。祖母との駆け落ちを手伝ったらしいとか、少ししか話を聞いていないけれども、胸躍るような話ばかりだった。
祖父は仲間に恵まれていた。そうでなければ祖母との駆け落ちも不可能だったと、笑って話してくれたことを覚えている。
頼りになる仲間……。
ユーヤの脳裏に思い出がよぎる。
………………いろいろと。
「……じいちゃん……俺、今、心底からじいちゃんが羨ましいかも」
魔王の城に一人で突入する羽目になったのは、仲間運に恵まれていなかったためである。多分。
賢者の卵を連れて行くわけにはいかなかったし、シスコン賢者は妹から目を離すことを嫌がってついてこなかったし、僧侶は勝手に成仏したし、戦士は事情があって最後までは一緒に来られなかったし、武闘家は転職を考えて悩んで悩んで商人になったし、魔法使いは――いや、キリがない。寂しくなるからやめておこう。
とにかくユーヤについてこれる相手がいなかったのだ。規格外に強すぎて、同行する相手が自信を無くすことが多かった。
しかも、ユーヤ自身はとにかく度を越した修行などをした覚えがない。
故郷で山を走り川で泳いで、祖父の剣を振り回し……鍛錬といえばそのくらいのものだ。
勇者と言うのは生まれ持った資質なのかな、と、賢者に言われたこともある。
とにかく、生まれつき頑丈だった。が、ユーヤの親兄弟姉妹、いとこに至るまでみんな頑丈だったので、ユーヤ自身は村を出るまでこれが普通だと思っていたのである。
世間の人ってひ弱なんだなぁと言ったら、お前が異常なんだと断言されて、納得がいかなかったこともある。
……閑話休題。
「……とにかく、行くだけは行って、話をしてみるか……」
この急な呼び出しが、ユーヤにとって双子にとってどういう意味を持つのか。
それを確認してからでも行動は遅くないだろう。
「……よし、行くか……!」
顔を上げ、神殿のほうへと歩き出す。
何があろうと、あの双子を護ると決めたのだから。
というわけで神殿へ。仲間に恵まれていない勇者です(笑)




