子育て勇者と魔王の子供・50
ユーヤは硬直した。
手元には、厳重な封蝋がされている手紙。
封蝋の文様は、神殿の物だ。封蝋の下の署名は、最高位の大神官のものだった。
自分は一体何かしたのだろうか。ここ数日は双子の面倒を見つつ、鍛錬していただけである。大神官から手紙をもらうようなことをした覚えはない。
……いや、あると言えば、ある。
神のしもべからすればとんでもないことをしていると自覚がある。
……魔王の子供を育てていること、だ。
もしそれが知れたのなら――思い当たることなど腐るほどある。
発端は、王が美熟女であるシヴィーラと結婚したことだろう。彼女が魔族であることは周知の事実だ。そして、シヴィーラがイリックを養子に欲しがっていることも事実。
魔物である王妃が、ただの子供に執着するだろうか。
姫ならわかる。色々と特殊な姫なら、分かる。
が、イリックを養子に欲しがっている王妃は、一応常識人で通っているのだ。結婚するなり経済担当の大臣を税金関係でしかりつけたりしていたし、王と一緒に執務を行い、国の状態は上向きになってきているらしい。
そんな有能な美人でも、魔物だ。魔物が欲しがるイリックが、どういう存在なのか。
王はなんとなく感じ取っている。ならば周囲の人間が予想してもおかしくないわけで。
神殿の人間が感付いたら、ヘタをすれば双子を封印とか退治とか、そんな流れになってもおかしくはないのだ。
「……これは……王に伺って……よ、夜逃げするべきか……?」
ユーヤはこんらんしている!
オーラは固まった。彼女の目の前には、有能で仕方がないという評判の顧問魔術師。
女性なのに性格が男前で有名な、それ以上に腕前がとんでもなく有能で有名な魔術師が、目の前にいる。
見習いみたいなオーラに、とんでもなく偉い人が、一体何の用なのだろう?
思い当たることと言えば――一つしかない。
オーラはがくがく震えながら、懸命に考える。
なんとか、なんとかこの場から脱出して、ユーヤさんに知らせないと。
最悪、あの双子が実験材料にされてしまうかもしれない。オーラのことを毛嫌いしている双子でも、ユーヤは可愛がっているのだ。自分の立場も追いやって、あの子供たちを護ろうとしているのだ。
力になると決めたのだから、オーラも彼のためにできることをしなければ。
「だからだな、すごく強いんだ、魔王は。己の欲望の限りを尽くしてだな? 好きなことを好きなだけできるんだぞー? すごいんだぞ? なりたいだろ? な?」
「こいつまいにちまいにちうざいな」
「ふきとばしてもすぐもどってきます。あぶらむしよりしつこくてうざいです」
「にーちゃんたちにはみえてないんだよな?」
「そうみたいですね」
「……うざいな」
「……うざいです」
「ひまー。にーちゃんおうさまのところからはやくかえってこないかなぁ」
「ひまです。おにーさんはやくかえってきてあそんでほしいです」
「おーい、わしの話、聞いてる? ねぇ、聞いて。子供たち、聞いて」
「王子、姫、吾輩の背に乗って散歩しますか?」
「おまえしろのなかあるいちゃだめじゃん」
「ぽちはおとなしくそこに『ふせ』です」
「はい。うむ、美しい顔して容赦なし……相変わらず素敵ですぞ王子、姫……」
「話聞いてー、わし、大魔王なのよ? なんでこんな扱い?」
呼び出しです。まぁ、勇者には理由が分からないので、無駄に怯えております(笑)




