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子育て勇者と魔王の子供  作者: マオ
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外伝・ぽちの一日

ぽちの日常が見たいとリクエストがありましたので、ちょこっと書いてみました。ぽちが好き、面白いとコメントくださる方へ、ちとサービス。お楽しみいただけたら幸いです。

 朝、城の内庭のぽち小屋で起床。

 城の兵士たちの好意で作られたぽち専用の小屋である。見た目は完全に犬小屋。ただ、サイズは随分と大きい。大人数人を乗せられる巨体を仕舞い込める大きさは、作るのが大変だったに違いないと思われるが、実際はそうではない。兵士たちは何故か大変楽しそうに作っていた。

 兵士のひとり曰く「巨大生物は男のロマンだよな! 犬だけど、でかいことはいいことだ!」……意味が分からない。おそらくは特殊な性癖の持ち主だったのだろう。


 起きてしばらくは小屋の外で日光を浴びて伸びている。

「ぽちー、ごはんよー」

 城のメイドがご飯を持ってきてくれる。肉が多めがいいと言っているのに、情け容赦なく野菜が多い。前日の残り物が大半を占める。残飯処理。そんな言葉が良く似合うぽちだ。

「うぬ、肉がないぞ娘」

「あるわよ。探せば」

「探さなくては見つからんのか!? どっかり乗せて来い!」

「好き嫌いは駄目よ」

「吾輩は幼児ではないっ! その駄々っ子を見るような目は止めんかっ!」

「撫でて良い?」

「断る。吾輩は王子と姫の乗騎なのだ、お二方以外は……って聞けぃ! 撫でるな!」

「ぽちは毛並みが良いわねぇー。あたしもこんなおっきい犬欲しいわー。勇者様と子供たちが羨ましいわー」

「おのれ小娘、食ってやるぞ貴様!」

「あ~~、もふもふ~」

「顔をうずめるなぁっ!」

 ……可愛いメイドさんにわしわしと撫でられた上に、ぎゅっと抱きしめられて、目撃した城の兵士たちに羨ましがられながら朝食は終了。『いろんな』効果のある首輪のおかげで暴れられないぽちである。


 食後、乱れた毛並みを手入れする。猫かお前。犬じゃないのか。見かけた王宮魔術師がそんなことを思う午前中。


 日向が気持ち良い温度になってきたころ、内庭に勇者と双子が訪れる。今日は賢者の卵である少女は不在。また研究院に行っているようだ。

「おはよう、ぽち」

「ふん、朝から間抜けな顔を見せおって。王子と姫の面倒はちゃんと見ているのだろうな貴様? 吾輩がおらぬからといって怠けておったら承知せんぞ!」

 ……内庭から太陽にめがけて飛ぶぽち。双子の男の子のほうがよくやる仕打ちである。すでに毎日の時報のようなものとなっており、ぽちが空高く飛ぶと、「ああ、あの子らがぽちと遊んでいるんだなぁ」と城の面々は思うようになっている。最初のころはぽちが生きているのだろうかと心配した人もいたが、様子を見に行くとすぐに復活しているので、これは放っておいてよしと判断した。

 放置決定。まぁ、ぽちの扱いはそういうものである。

「今日もいい天気だなぁ。イリック、ぽちにごめんなさいは?」

「……………………ごめーん、ぽち」

 棒読み。誠意のない謝罪もまた、いつものことである。


 今日は三階の高さまで飛んだぽちは、地面に激突するなり勢いよく跳ね起きた。頑丈である。

「おおおお、王子、吾輩に詫びなど必要ありません! このような勇者の言うことを聞いていては立派な魔王にはなれませんぞ!」

「だって。にーちゃん」

「いやいやいや、悪いことをしたらきちんと謝りなさい。魔王になんてならなくていいから」

「イリック、ぽちよりおにーさんのいうことをきいたほうがいいです。ぽちのいうことはためになりません。そのうえしんようもできません」

「そーだな! ぽちはどーでもいいもんな!」

 酷い。


 毛皮を提供して、双子のベッドになってひなたぼっこ。ときおり双子は勇者が読書をしているのを読み聞かせてほしいとおねだりする。内庭に、穏やかに読み聞かせをする勇者の声。

 ほのぼのとした光景だが、その声を聞きつけて襲来する人間によってその光景は終わりを告げる。

「……おにーさん、おばあさんとひめがきます」

 双子の女の子のほうが呟くと、勇者はばっと立ち上がり、即座に双子を両腕に抱えて内庭から逃げ出した。それはもう、素晴らしい速度である。人間の限界を超えているような速度で逃げた。

 寝ていたぽちがあくびをして目を開けると、据わった目をした王妃――もと魔物――と姫がぽちをにらんでいる。 ぽちは即座に土下座した。

「……いませんわね」

「……逃げられたようね……日増しに気配に鋭くなっていくわ……さすがね」

 怖い。ぽちをガン無視して、彼女らは内庭を後にする。

「……あやつら……日ごとに化け物じみてきておるな……」

 呟いたぽちに、どこからか火柱が直撃した。王妃だろう。


 昼食。少し焦げた毛並みを、またメイドさんに撫でられる。なでなで。実は兵士たちにも人気の高いメイドさんなため、ぽちに対する兵士の殺意が上がる。理不尽。


 食後。乱れた毛並みを手入れする。犬? 猫? 謎は解けない(いや魔物だって)


 午後。賢者の卵が訪れる。茶色の物体が皿に乗っている。あれは一体何だろう。察したぽちは頭を低くして警戒態勢。対する賢者の卵は妙に空々しい笑顔。

「娘、貴様一体何を作り出した……また即死毒か? いい加減挑戦するのを止めろ。貴様に料理の才能はないっ!」

「そんなことないわよ。大丈夫大丈夫今回こそは」

「愚か者め、すでに異臭がしておるわ! 苦い! エグい! こら寄るなその皿を近づけるな!!」

「チョコレートケーキに挑戦してみたのようふふふふ」

「寄るなというのに!」

「ふせ」

「ふげっ」

 首輪の効果で強制的に「ふせ」をさせられる。そのまま動けないぽちに、賢者の卵はスプーンですくい上げた謎の物体を差し出した。

「はい、あーん」

「食えるわけがないだろうきさ」

 返答するために口を開けるなり、口の中に突っ込まれる。黙って口を閉じていれば食べさせられることもないと言うのに、学習しないぽちである。

 今回は、卒倒しなかった。悶え苦しんでのたうちまわっただけである。

「おおおおおげぇえええぇええ」

「……………………卒倒しなかったということは、少し進歩したってことよね?」

「うおおおおがぁああぁあああ」

「…………まぁ、まだ人に食べさせられるものじゃあないけど……」

「ひぃいいいげぇええぇえええ」

「……ま、練習を続けれたらもっとマシになるわよね、きっと!」

「おおおおおがぁああぁあああ」

「次もよろしくね、ぽち♪」


 午後。内庭は静かである。さすがに死んだのか? と心配した兵士が見に行くと、白目を剥いて舌を伸ばして倒れていた。

「おおおおい!? し、死んだのか!?」

「生きておるわ……痺れて動けんのだ……あの娘……作るたびに毒性が増しておるぞ……」

「お前……ほんとに頑丈なんだな……」

 あの物体を一口食べて生きているとは、本当にすごいと感心された。賢者の卵の作るものは、もはや料理ではないと城の人間も認識している。


 夕食。

「……味が分からん……」

「水飲んでもだめ?」

「分からん……こら貴様、撫でるなというのに」(叫ぶ元気もない)

「もふもふ~ああん、良い毛皮~」


 食後。毛並みの手入れもできずに小屋の中へ。賢者の卵の作り出す最終兵器(もはや料理ではなく兵器扱い)はとてつもない威力である。おそるべし。


 夜。力尽きて就寝。時折うなされる。味を思い出すらしい。気の毒である。

大概こんな感じでしょうかねぇ(笑)

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