子育て勇者と魔王の子供・48
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真剣に逃亡を考え始めたころ、王に呼ばれた。
「魔王の死亡を疑う余地がなくなったようじゃ。魔物もめっきりおとなしくなったしのぉ。おぬし本当によくやってくれた」
調査が終了しつつあるのだろう。ユーヤは苦笑する。
「いえ、とくには何もしておりませんから」
魔王は勝手に病に倒れただけだ。あのやり取りを思い出すだけで微妙な気持ちになる。決戦を覚悟して謁見の間に駆け込んだのに、玉座で今にも息絶えそうな魔王。
四天王やらなにやらとの戦いが、ある意味で最終決戦だったと気づいたあのやるせなさ。
俺のやる気を返せ。そんな感じ。
微妙な笑顔になるユーヤに、王は大きく息を吐いて口を開いた。
「ところで、養子の話じゃが」
来た。
一瞬身が固くなる。美熟女が一生懸命に王をかき口説いているのだ。イリックを養子に欲しい、と。さてどうやって断ろう。美熟女=王妃からは逃げればそれで済んだが、ここは謁見の間。王に呼ばれてイキナリ逃げるのは無礼も極まりない。内心で困りつつ、王の言葉を待つ。
「何度も断っておるそうじゃな」
「……はい」
「そのまま断っておいてくれんか。わしのために」
「はい……は?」
思わず問い返す。王はコリコリと頬を掻いて、どこか引きつった笑顔になった。
「今更子供が増えるとな、いろいろ面倒くさいことになるんじゃよ。具体的には王位に関して」
ああなるほど。王位の継承やらなんやらが大変なことになるのだ。
「ほれ、あれじゃ。若い嫁をもらうとな、それだけでイロイロ面倒でなー。大臣どもを説き伏せるのがそれはもう面倒くさかった。この上養子となるとなぁ……正直な、わし、頭が痛い」
ぶっちゃけすぎな王様である。苦笑いを返すしかない。王は困ったような笑顔のまま、続ける。
「嫁に自然に子供ができたというなら良い。わしも男じゃ。そのくらいはなんとでもする。嫁が心底可愛いと思って子供に欲しいというのならば、それもなんとでもする。が、あの子供に関してはそうではない気がしてな」
……鋭い。
「あの……」
「いやいや、事情は言わんでもよい。魔物の嫁があそこまで執着する理由は聞かないほうがよさそうじゃ。おぬしも、そのほうが良かろう」
笑顔のままである。さすが一国の王。
「……恐れ入ります」
頭を下げるしかない。事情は聞かないと断言してくれた。こちらに言えない理由があることも察してくれており、その上で聞かないという選択をしてくれている。
魔王の子供。国を危うくする存在かもしれないのに。
「これでもな、わし、おぬしを信頼しておるのよ。自分で魔王を倒したと言えばいいものを、馬鹿正直に報告してくれた、その真っ正直さは愛おしいくらいじゃ」
いたずらっぽく王は笑う。
「実力も考えると、近衛の隊長にしたいくらいじゃが……それもしないほうが良さそうじゃな。なんせおぬし、これから子育てがあるからのぉ。しかも双子。苦労は倍」
きっぱりと言い切り、しかし王は楽しそうに続ける。
「だが、幸福は二乗四乗じゃろうな」
とても優しい瞳で。
謁見の間を退室したところに、オーラが走ってきた。
「ユーヤさん! 大丈夫でしたか?」
「え? ああ、うん。問題はないよ」
養子のことでつつかれたのかと心配したのかもしれない。オーラは小声で言ってきた。
「あの、私、お城から脱出するための道具を作ったんですけど……姿と音と気配を結界で消して移動できます。これならいつでも脱走できますよ!」
ついさっきまでユーヤが悩んでいることを知っていたからか。魔法的品物の天才開発者の彼女は、逃走するための道具を開発してくれたのだ。たぶん、城の備品と研究室を使いまくって。
「いや、脱走はしないよ」
もう、する必要がない。
「え?」
きょとんとするオーラに苦笑する。
「城を出るときは、堂々と王に報告してからにする」
あの王は、堂々と城を出ることを許してくれるだろうから。
王様、男前。さすが美熟女を嫁にするだけのことはあります(笑)




