子育て勇者と魔王の子供・5
簡単な料理は、魔王の子供たちである双子には新鮮だったようだ。
「おれこんなのくったことない。でもうめー」
「はじめてです。おいしいです」
イリックもイリアも抵抗なく、たいらげた。魔物でも食べるものは人間と大差ないと、一つ学習する勇者ユーヤである。
「にーちゃんすげー。りょうりもできるんだ。ゆーしゃってすげー」
イリックは変な角度で感心している。勇者=料理上手と間違って覚えてしまったら大変だ。
「いや、一人旅長かったから。これくらいはな。俺の仲間はもっと上手だったよ」
「おにいさん、なかま、いたですか?」
「いたよ。旅の途中で怪我をしたり、いろいろ事情があって別れることになったけれど」
長い旅だった。仲間がいたから耐えられた。仲間がいたから魔王城までたどり着けたのだ。
「きらわれたのか?」
「違うって。途中でこう……いろいろあったんだ」
イリックの言葉に苦笑して、言葉を濁す。
最初に仲間になってくれた戦士は、とある村を護るために戦い、負傷して動けなくなった。負傷の度合いが重く、戦えなくなった彼は、村に残ることを選んだ。教会のシスターに惚れたらしい。
風の便りに、シスターと結婚したと聞いた。
次に仲間になってくれた魔法使いは高齢で、隣の国にたどり着いたときにぎっくり腰を起こし、結局そこから動けなくなった。後日、そこで後進の魔法使いを育てる塾を開いたと聞いた。
僧侶も仲間になってくれたことがあった。魔物に全滅に追いやられた村の生き残りだったのだが、あまりの電波具合に、ユーヤのほうから連れて行けないといったのについてこられ……実はその僧侶が亡霊で、自分の使う神聖魔法で成仏したり。
賢者を目指す娘に出会ったこともあった。世界一の学問の街で学習すると言っていたので、そこまでの道中を共に歩いた。
後日、その娘の兄に会った。兄は本当に賢者だった。ユーヤが、可愛い妹としばらく旅をしていたと知った彼に、危うく消し炭にされそうになった。
……いろいろ、あったのだ。
「後から追いかけるって言ったヤツもいたな……あいつ今頃何してるんだろう……」
「にーちゃん、やっぱりきらわれてたのか……」
「いやだから違うって。ほら、片付けるぞ。片付けたらもう少し歩くからな」
食事の後片付けもしたことがないだろう双子は、ユーヤの指示に目を輝かせて楽しそうにちょこまか動いている。そういえば、食事の支度も面白そうに覗いていた。
魔王の子供としていたれりつくせりの生活だったのかもしれない。だとすれば、日常生活のこんな当たり前のことも珍しいのかもしれなかった。
「おにいさん。ひとざとはとおいですか?」
「そうだなぁ……今日は野宿かもしれないなぁ」
「のじゅく……わたし、はじめてです」
「おれもしたことない! すげー! たのしみー!」
「たのしみです」
「にーちゃん、おれ、いつでもたきぎもやすから、いってくれな!」
「おにいさん、わたし、いつでもみずだせますから、いってくださいね」
「ああ、うん。そのときは頼むよ」
大変だけど、反応がちょっと可愛いし、楽しいから、まぁいいか。