子育て勇者と魔王の子供・44
結局、しばらく城で暮らすことになって、一日目。
大変なことになった。
「まぁ……まぁ! そこの少年!! わたくしの婿になりなさい!!」
王女様が、イリックに目をつけたのである。
目が点になったユーヤである。王に結婚を打診された王女が、まさかもしや。
「王女殿下……あの、この子はその、見たまま、まだまだ子供で」
「分かっております!」
断言する王女の目は、野獣のようだった。育ちの良いお姫様なのに、獲物を見つけた狩人のように、鋭い目。怖い。
「あのぅ、申し訳ありませんが、この子は」
「そなた保護者ですか? 王家の婿となればこれ以上ない良縁! よもや断るなどという真似はしませんでしょ!?」
「いえ、お断りします」
即答したユーヤに、王女はしばし硬直し、それから鬼気迫る形相で睨みつけてきた。魔王直属の四天王より怖いかも、と、ちょっと思ったユーヤである。
「大体、年の差がありすぎるでしょう」
王女はユーヤと年のころが近い。イリックとは十以上離れているだろう。
「だから良いのでしょう! まだ年端も行かぬ少年を導くのが!!」
断言された。目が本気である。
薄々感じていたことが、核心に近付いていく。
「王女殿下……年下趣味ですか……」
ちょっと言葉をぼかしたが、意味は通じたらしい。王女は握りこぶしでこう答えたからだ。
「違います! これは純然たる先物買いです!」
いや青田買いだろう。しかもちょっとどころではなくまずい域の。
王がユーヤに王女との縁談を進めたのは、もしかして娘がまずいことをしでかす前にストッパー役を見つけたかったのではと、思った。
「ねえちゃん、おれ、むこにはなれないんだ」
王女の勢いに、ユーヤの腰の後ろに隠れていたイリックがひょこっと顔を出す。その仕草に胸を打ちぬかれたのか、王女は身悶えた。怖い。
「まぁ、何故? わたくし、良い妻ですわよ?」
自分で言いきった。さらに怖い。
「おれ、まおうになるから!」
イリックは言い切った。固まるユーヤだ。双子が魔王の子供という真実は、無論のこと内密にしてある。魔物の子供ということすら言っていない。ぽちだけは魔物だといってあるが、あれはどうでもいい。
「まぁ……!」
「まおうになって、せかいせいふ」
「こらこらこら!!」
あわててイリックの口を塞ぎ、背筋に冷や汗を感じながら王女に視線をやる。
「まぁ……」
なぜか王女はうっとりしていた。
「こ、子供の言うことです、お気になさらず!!」
イリックとイリアを抱え、ユーヤは全速であてがわれた部屋に走った。後ろをオーラがあわててついてくる気配。
「ちょっと、イリックくん! なんてことを言うの!?」
「だってあのねえちゃん、めがこわいし、なんかくわれそう」
「それはそうかもしれないけど、言って良いことと悪いことが――ユーヤさん足速いぃ……」
オーラの声が徐々に遠くなっていくので、ユーヤはあわてて足を止めた。
「おにーさん、とまっちゃだめです。おいつかれます」
「えっ!?」
王女が追いかけてきたのかと思ったが、そうではないようだ。
「おねえさんをおいていくちゃんすです」
「いや……オーラを置いていってどうするんだ。というか、同じお城なんだから置いていく意味がないよ」
少しして、思い切り息を乱したオーラが追いついた。声も出ないようだ。
「しずかでいいです。おにーさん、もういっかいはしってほしいです」
「にーちゃんはしってー。へやまでだっこー」
「えー? うーん。オーラがもうちょっと回復したらな」
「ち」
「ち」
「……ぜーはー……ぜー……(何か言いたいらしいが声が出ないようだ)」
青田買い(意味違う)なお姫様。フラグぼっきりですな(笑)




