子育て勇者と魔王の子供・43
謁見の間の空気が変わった。ユーヤはいち早く感じ取ったのだが、何故空気が凍りついたのかが分からない。王は話を続ける。
「その子供らも、相手のおらぬおぬしでは養育するのが大変であろう? どこか別に養い親を探し、おぬしはわしの娘と」
「にんげんのおうさま、ほろぼします」
「よしやるぞイリア!」
双子の言動に、ユーヤは焦って二人の前に出た。王に対する無礼は承知の上である。放っておけば双子がナニかやりそうだと感じ取ったのだ。
「こらこらこら! どうしたんだよ急に!?」
「だって、にーちゃんとはなれんのいやだ」
「おにーさん、わたしたち、すてるですか?」
「そんなわけないだろ」
上目遣いに言われ、ユーヤは真顔で首を振る。
王からの見合い話はありがたいことではあるが、ユーヤとしては受ける気はないのだ。魔王の子供を育てると決意している。この子達を放り投げるような真似をして、自分だけが幸せになるわけにはいかない。
そんなことをしたら、多分魔王の魂に呪われるだろうし、その前に魔王の奥さんに殺される気がする。
「陛下、とても名誉で、ありがたいお申し出ですが、私のようなものには過ぎたお話です。それに、私はこの子達の面倒を見ると決めております。魔王を倒したのも私ではなく病魔です。私は英雄でも勇者でもありません。ですから、どうぞこのお話はなかったことに」
「真面目な男じゃのぉ。自分が魔王を倒したと言い張ることもできるだろうに」
「……考えたこともありませんでした」
苦笑するユーヤに、王もまた苦笑。
「ま、良い。正直と真面目は美徳じゃ。大事にせよ。それから、子は宝じゃ。大事にせよ」
「はい。心に銘じます」
素直に頷くユーヤに、王は好ましい視線を向けている。朴訥な返事をしているので、ますます好感を持ったようだ。
「大臣、こやつに褒美を。魔王はともかく、四天王を倒したのじゃ。魔王軍の戦力を削ったのだから、間違いなく勇者である。ユーヤと言うたか? これより魔王城の調査をしなくてはならぬ。おぬしにもいろいろと聞くことが出てくるであろう。さきほども言うたが、住む場所を探しておるのなら、しばし王城にて待機してもらえぬか。無論、子供と仲間も同じように。
聞けばそこの娘、賢者を目指しているとのこと、王宮魔術師との会話も、いろいろと勉強になるのではないか?」
ありがたい申し出である。後で生活費などを請求されはしないかと不安になるくらいだ。
問題は、ぽちだ。
どう見ても魔物。頑張ってみてもでかい獣。さすがに王都には連れ込むことが出来ず、門の外、茂みの中でうずくまって待っているはずだ。
「……陛下。あの、とてもとてもありがたいお申し出なのですが……実は、さらに同行者がおりまして。それを王城に入れるのはちょっと難しいかと」
「む? 仲間がまだおるのなら、連れて来るが良い。一軍ほども仲間がおるというのならまた別の話になるが」
「いえ、その……」
なんと説明すればよいのか。仲間というより乗り物扱いなのだが。
「あー、ぽちか!」
「ぽちですね。おにーさん、きにしなくていいですよ、ぽちはのじゅくでほうっておけば」
「ぽち?」
王や周りの人間はいぶかしげな表情である。
きちんと説明した方が良さそうだ。
もともと双子を連れて行こうとしていたぽちとは敵対していたのだから、あまりにも面倒なことになるようなら、いっそ斬り捨てるのも手だろうかと思いながら、ユーヤは口を開いた。
「魔王城を出た後に、ついてきた魔物なのですが――」
お姫様ふらぐ、ボッキリへし折る(笑)




