子育て勇者と魔王の子供・42
オーラの体調が問題なく回復し、ユーヤたちは王都に逆戻りした。
王の御前で、以前伝えたことと同じことを伝える。
すなわち、魔王は病死した、と。
王はしばらく口を開けたまま呆けた。しばらく無言で固まり、ユーヤが何か話したほうが良いだろうかと思い始めた頃、ようやく呻いた。
「まこと、病死か……? あの魔王が……残虐非道をそのまま行った魔王が……病死……」
「はい。配下の魔物たちに聞いたところによると、もともと病弱だったとか」
双子やぽちたちに聞いたことを、そのまま伝える。最終ボスが病弱。ありえないが、事実なので困る。
たくさんの人間を魔物を使って襲った相手が、実は病弱。しかも目的はハーレム……さすがにこれは言いたくない。
「まことか!?」
「そのようです。日頃からよく寝込んでいた、とのこと」
「その情報、信頼できるのであろうな?」
「はい」
双子のことを信用している。ぽちにしても、ユーヤにこんなウソをついて得にはなるまい。
魔物のボスが病弱。虚弱。ひ弱。人間にこんな嘘をついて、悦にひたれるわけもないし。
むしろ情けないから言いたくないだろう。
「むう……しかし、魔王の姿も配下の四天王の姿もなかったとの報告だしのう……嘘とも思えん……」
「あ、四天王は俺が倒しました」
けろっと告げるユーヤに、目を丸くしたのは王もオーラも一緒だった。
「え!? え、ユーヤさん!? ほんとに!?」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
魔王の城、謁見の間は複雑な魔法で閉じられていて、四天王を名乗る魔物を倒さないと開かなかったのだ。四天王と戦い、全て倒し、ついでに宝物庫をあさって(ついでのついでにフィーインとやらを倒して)から、魔王の謁見の間に突入したのである。
「にーちゃんすげー! るびーもさふぁいあもおにきすもだいやもんどもたおしたの!?」
「え、そんな名前は名乗らなかったけど」
「あ、これおれとイリアがかってにつけたなまえー。あいつらあかとあおとしろとくろかったから」
イリックは好き勝手に呼んでいたようだ。確かに四天王は赤いのと青いのと白いのと黒いのだったから、間違ってはいない。
「こっちのほうがかっこいいです。えるとかあーるとかよくわかんないなまえよりかっこいいです」
と、イリア。四天王本来の名前は格好悪いと子供ながらに思い、勝手に改名して呼んでいた、と。
四天王、人(?)権なしか。なしなのか。
「四天王を……一人でか……」
近衛兵からざわめきが聞こえる。確かに激戦ではあったが、うまいこと精霊の泉が城の中庭に湧いていたので、そこで回復しながらなんとか戦い抜いたのである。
魔王の城の中庭に、どうして精霊の泉があるのか、ユーヤにも分からない。
ヘタレ魔王と精霊、実は仲が良かったのだろうか。
「まさしく勇者にふさわしいの、おぬしは」
「いえ、そんなことはありません。結局魔王を倒したのは、病魔ですし」
ユーヤは何もしていない。たどり着いたとき、魔王はすでに病気で瀕死。力尽きる寸前に子供たちを託してそのまま逝ったのである。
「しかし、病魔を勇者と呼ぶわけにもいくまい。四天王を倒しただけでも誇ると良い」
「はぁ……ありがとうございます」
四天王、確かに強かった。黒いのはなんか偉いゾンビだったからとても臭かったし、白いのは白いので骸骨だったから、何度切っても復活して面倒だった。
威張る気はないが、面倒だったので褒められると嬉しい。
魔王配下の四天王を一人で撃破するという偉業を為したわりに、実感のなさそうな青年、ユーヤを眺め、王は苦笑いした。田舎育ちの兵士あがりの……自覚のない勇者に、好感を抱いたのである。
「ふむ。これからまた詳しく調査はするのでな、しばらく王城に滞在してもらいたい。急ぐ用でもあるか?」
問われてユーヤは馬鹿正直に答えた。
「いえ、急ぎというか……子供たちと住む場所を捜すつもりでおりました」
「ほうほう。そういえば、両親の年のわりに大きい子供じゃの。隅に置けんな、おぬし」
「いえいえ! お……私の子ではないのです。預かり子でして」
「ほ? では、隣のおなごは妻ではないのか?」
「はい。旅の途中で世話になった娘で、彼女は賢者を目指しております」
断言したユーヤを、オーラが肘でどついた。
「ぐふ。オーラ? 痛いよ。俺何か間違ったこと言ったか?」
「いーえ! 言ってません!」
「……なんで怒ってるんだ??」
首を捻るユーヤと、怒ってませんと怒るオーラを眺め、王はにやりとした。横にいる大臣や近衛兵隊長も、にやにやしている。
「いいですな、青い春。我々にもああいう時期がありましたなぁ」
「全くですな。青い春……うむ、懐かしい」
「ええのう。青い春。うむうむ、存分にやるがええ。若いうちだけじゃからのー」
にやにやしている王と重鎮たちに、ユーヤはわけが分からない。
「おにーさん。だめです」
ぐいとイリアに手を引っ張られた。
「おにーさんは、わたしとイリックのほごしゃですから」
「う? うん? うん、そうだけど??」
わけが分からず頷くユーヤに、オーラがまた肘鉄した。
「いでっ。なんなんだ、さっきから??」
「なんでもありませんっ」
幼女に手を引っ張られ、少女に肘鉄を食らう勇者を見て、王は笑い出した。
「ほっほっほっほ。若いというのはええのう。火に油を注ぐようじゃが、ユーヤとやら」
「はい」
「わしの娘も年頃なのじゃが、どうじゃ?」
「え」
お姫様ふらぐ。




