子育て勇者と魔王の子供・4
魔王の病死から始まった、勇者ユーヤと魔王の子供たち・イリックとイリアの三人旅は、前途多難だった。
子供たちの服を手に入れるために、人里を目指して出発し……日が暮れた。
人里にたどり着くにはあと数日はかかるだろう。
ユーヤ一人ならまだいいが、子供連れ。歩幅に違いがありすぎる。
「にーちゃん、つかれたー」
「おにいさん、あしがいたいです」
「はいはい。少し休憩するか」
こんなやりとりを何度か繰り返し、ようやく日暮れ。ユーヤは気疲れしていた。子供の面倒を見るのって、思った以上に疲れる。
「にーちゃん、はらへった。めしくおー」
「え、ああ……そうだな……」
イリックに服の袖を引かれ、はたと気付く。
「君達、食事ってどういったものを食べていた?」
一応、小さくとも魔王の子供である。魔物なのだ。もしかして万が一、人間を食べていたなんて言われたら、どう世話の仕様もない。
「にくー」
「おやさいです」
「にくー」
「おやさいです」
イリックが肉と言い張り、同じようにイリアは野菜と言い張る。
「え? ……えーと……ようするに、普通に料理を食べていた、と?」
「なんかよくわかんねーけど、にくー」
「おりょうりです。おやさいがすきです」
双子は好みが両極端のようだ……ユーヤは悩むのを止めた。そもそも、他に選択肢がないというのもある。
「あー、まぁ、俺も保存食一人ぶん5日間しか持っていないから、狩りをしなきゃいけない」
「かり?」
「かりですか?」
「そう。あとは、森の中に入って、果物とか山菜とか、食べられそうなものを収穫する」
現地調達。人数分の食料を得るためにはそれしかないのだ。調味料は多めに持ち歩いていたのが幸運でもあった。
この辺りは人間が狩りをする場所でもないので、獲物は豊富。ちょっと森に入れば果実などもすぐに取れる。問題は、魔物の陣地だということくらいか。これもユーヤ一人ならさほど問題ない話だが、
「おれ、かりする!」
「わたし、しゅうかくします」
元気いっぱい手を上げる子供たちに苦笑い。いくら魔物でもまだ子供。バラバラに動かれては護れるものも護れなくなる。まず先に、魔物よけの火を起こして、双子をそこに残していった方が安全かと考える。
「いやいや、俺が狩って、収穫してくるから。何があるか分からないし……そうだなぁ、薪拾いでも頼もうかな。乾いた木の枝を拾うんだ。あ、あまり離れないように」
「おう!」
「はい」
返事するなり双子は木切れを拾いにその辺りをきょろきょろしだした。
素直である。魔物なのか本当に。
「とりあえずでいいよ。火を起こしたいだけだから」
「おう!」
「はい」
しばし後、火を起こすには充分な量が集まった。
「にーちゃん、ひ、つけるのか?」
「ああ、そうだよ」
「おれつける!」
ほくち箱を取り出そうとしたユーヤの目前で、ぼっと火がついた。
「できた!」
得意げなイリックにユーヤは数瞬固まり、それから首をかしげた。
「……あー、もしかして、君達、魔法使える……?」
「まほうかどうかしらねー。でも、おれ、ひがとくいー。あと、かぜー」
「わたし、こおりとみずがとくいです。あと、じしんとか」
さすが魔王の子供たち。詠唱もなしでこれである。普通の子供のような言動と行動だったので、忘れかけていたが、魔王の子供である。
「すげー? おれ、すげー? にーちゃん」
「ああ……うん。すごいすごい」
「えへへー」
頭を撫でると、イリックは照れくさそうに笑った。弟ってこんな感じだろうか。
「おにいさん、わたし、ひ、けせます。けしたくなったら、いってください」
「え、ああ、うん。ありがとう」
イリアも撫でてあげると、嬉しそうにしている。妹ってこんな感じだろうか。
……なんだかいろいろとだまされているような気もするが、子供って可愛い。
「ところで君達は火は怖くないのか?」
「ぜんぜん」
「まったく」
「……じゃあ、いいか……」
焚き火って、魔物避けにならないかもしれない。
のほほんと、ご飯。