子育て勇者と魔王の子供・36
シヴィーラの作った食事は、意外に美味しかった。
妙に上機嫌で帰っていったシヴィーラに比べ、機嫌が急降下したのは、双子とオーラだった。
それから、オーラは何かを決意したようだ。
「非常に不本意だわ! 魔物なんかに負けるもんですか! ユーヤさん! ご飯の支度は任せてください! 夜は私が食事を作ります!!」
「え。野外で作る料理は不慣れだって言ってたのに? いいのか?」
「……ええ!」
ユーヤに聞かれ、数瞬の沈黙が自信のなさの表れだろう。それでもオーラはやると言い切った。ユーヤはにこりと微笑んだ。オーラが料理をしてくれるのなら、自分は水汲みでもしてこよう。ついでにちょっくら剣でも研いで来ようか。
「そっか。じゃあお願いしようかな」
「女。貴様才能がない。あきらめろ」
ぽちが見ただけで即座に断言したシロモノ。鍋の中はもはや別世界になっている。
「これはにんげんのたべものですか?」
「イリア、ちがうよー。おれしってる! これはな、すみ!」
双子はまったくもって容赦がない。
「み、見た目が悪いだけです! 食べたらきっと、たぶん、おいしい、はず……」
語尾が弱くなっていく辺り、やはり自信がないのだ。
「見た目? 見た目だけと言うたか女? 笑わせるな! 匂いが苦い! 渋い! これが食い物ならば、鬼畜勇者の作るメシは宮廷料理だ! というか猛毒だこれは!! 一口食べただけで我輩でも死ぬぞ!!」
「そんなに貶すなら味見してください、ぽち」
「我輩は即死するのはいやだ。断」
る、と言いかけたぽちの口の中に、オーラは黒い物体が山盛りの匙を突っ込んだ。
「ごは」
……動かなくなった。
「あ、ぽち。すげー。ぽちがうごかなくなった! ねえちゃんのりょうりこえええ!!」
「とりあえず、まいそうはしてあげましょう。くさったらくさいです」
「やややや、死んでないから! 死んでないわよ! たぶん、きっと、死んでない、はず……」
「にーちゃーん!!! ねえちゃんがぽちころしたー!!」
「そんなにわたしたちののりもの、ぽちがにくかったですか。ひどいですおねえさん。おにーさーん!! おねえさんがひどいですー!!」
「ちちち、違うー!! 違うのー!!」
なにやら向こうでにぎやかだ。仲良くなったのだろうか。それなら良いのだけれど、と、剣を研ぎながら、ユーヤは一人のん気に考えていた。
恐るべし、賢者の卵(笑)




