子育て勇者と魔王の子供・32
店はうす暗く、店主の人相は悪い。
子供さらって売っちまうぞ、と、いうような雰囲気の店主である。
そのくらいコワモテのおっさん店主は、双子を見るなり、破願した。
「かーわいいなー。ん? いくつだ、ぼうず、じょうちゃん?」
「おれ、よんさい!」
「わたしもよんさいです。ふたごなのです」
「そーかそーか、ふたごか! 可愛いなぁおい! 返事も上手じゃねえか。アメ食べるか? 何味がいい?」
……子供好きのようである。人間、見た目で判断できないものだ。
「あのー、アイテムの換金を頼みたいんだけど」
「おー。そのへんに置いとけや」
「いや、そういうわけにいかんだろ。見てくれよ」
子供たちを構うことに気を取られている店主に苦笑しながら、道具を三点、カウンターに置いた。
派手にキラキラしており、魔法的な効果もなく、金銭的に価値の高いものを選んである。
双子にアメを渡して満足したのか、店主はカウンターに置かれた品に目をやり、器用に片眉を上げた。
「ほお。こりゃ値打ちモンだな。どうしたよ、若造。どっから盗んできた?」
あきらかにユーヤに不釣合いな品物だと思われている。確かにそのとおりだ。
もとは魔王の宝だったのだから。
「…………盗んだ……わけじゃ……ないような……」
魔王の宝物庫からいただきました。どうも、子供たちの養育費だったようです――信じてもらえると思えない。
「……とりあえず、官憲に連絡していいか?」
「だだだ、駄目です! ユーヤさんもどうしてそこでいきなり弱気になるんですか!?」
オーラがあわてて制止してきた。アメを服のポケットにしまいこんだ双子が、くいくいと店主の袖を引く。
「ちがうよ、おっちゃん。これな、おれたちのとーちゃんが、にーちゃんに、おれたちのよういくひであげたんだ」
「せいかつひにしてくれっておとーさんがおにーさんにあげたのです。おとーさん、びょうきでしんじゃって、わたしたちをおにーさんにあずけたです」
店主が黙り込んだ。さすがに怪しまれたのかと思った瞬間。
「そーかぁ、そうか……おまえら、父ちゃん死んじゃったのか……」
だくだく泣き始めた。涙もろいようである。
「にいさん、おめえも若いのに大変だなぁ……こんな小せえ子供の面倒見なきゃならんとは……そうか、そうか……うんうん、分かった。分かったぞ」
何か納得されたようだが、何を納得されたのか分からない。
分からないまま、鑑定が終わるのを待つことにした。
「……いい人でしたね」
「うん、いい人だった……」
店を後にして、ユーヤは一気にあたたかくなった経済状況に遠い目になる。
店主はいい人だった。魔王のおたからが値打ち物だったことは確かだが、こちらの思った以上の価格をつけてくれたようだ。
が、ユーヤとオーラを若夫婦と思い込んだのには参った。
違うといっても信じてもらえず、双子に向かって「このにいさんとねえさんを親と思って頑張れよ」とかなんとか言い出したのには焦った。
焦って反論するユーヤに、何故かオーラは半眼になり、双子はどうしてか満足そうだった。
ちなみに、ぽちは宿で留守番。しつけの行き届いたペットという名目で街に入れたが、街中をウロウロさせないようにと注意されたからである。ぽちからの文句は黙殺した。
「にーちゃん、うまいもんくえる?」
「ああ、食べられるぞ」
「おやさいがたべたいです」
「おれ、にくー」
機嫌の良い双子に両手を引かれながら、宿への道を歩く。
「……あんなに必死に否定しなくても……」
オーラが何か呟いていたが、よく聞こえなかった。
ふらぐをへし折りつつ、話は進みます(笑)




