子育て勇者と魔王の子供・31
大きな街に到着し、宿の中で換金する品物を確認する。
いちにさんし……数えていた手を止め、オーラはこちらを呆れた目で見てきた。
「ユーヤさん……どっからこんなに高価そうなものを大量に?」
なんだか強盗か何かを疑われているような気がしてきた。
「いや……魔王の城から――」
魔王城の謁見室に続く扉の鍵を探して魔王城をさ迷い歩いているうちに、強そうな魔物に出くわして、その魔物を打ち倒し、室内で鍵を探していたら、なんだかいろいろなものがあったので、手に入れた。
「……うん、よく考えなくても強盗か、俺」
魔物から見たら強盗殺魔物犯である。言い訳できない。引きつったユーヤに、フォローをいれたのは双子だった。
「いーんだよ、にーちゃん。おれとイリアのよういくひなんだから」
「そうです。だいたいほうもつこにまものがいることがおかしいです。そいつ、たぶんどろぼうです。ゆうしゃのおにーさんがきたから、まおうのおとーさんをみすてて、おたからをぬすんでにげようとしてたにきまってます」
イリアの説明に、ユーヤは瞬いた。魔王、ひょっとして、人(魔物)望なかったのか。それとも、魔物にそういう概念がないのだろうか。
「にーちゃん、ほうもつこにいたまもの、どんなやつだった?」
「え? ……ええと……確か、手足が四本ずつあって、真っ赤な髪を逆立てて……ああ、そうだ、しっぽにトゲが生えてたな。あと、雷の息を吐いてきた」
「ふぃーいんだな」
「ふぃーいんですね」
双子は納得いったのか頷いた。
「フィーイン?」
「とーちゃんのはいかのへたれ!」
「おとーさんのはいかです。ひかりものによわい、からすみたいなまものです」
言われて思い返してみれば、確かにあちこちに光りものをぶら下げていたような。
「……窃盗の現行犯だったのか……」
「めいかいにおくられてとうぜんです」
「いまごろかーちゃんがめっちゃくちゃおこってるだろーなー」
とりあえず、斬ったことを後悔しなくても良さそうだ。
「……フィーインどのを一人で倒したのか貴様……」
ぽちがこちらを見る目が、どことなくおびえを含んでいるような。
「? そうだけど」
「……やはり魔王様を一人で倒そうとするだけの実力はあるのだな……むむぅ……」
何か唸っている。
「ぽち、うるさいです。ぺっととしておとなしくしていなさい」
「うるさいぞ。ぺっとはおとなしくしてないと、やどからおいだされるんだからな」
「わん」
双子の突っ込みに、ぽちはおとなしくお座りをした。プライドはなくしたようである。
やりとりに苦笑しながら、ユーヤは手元の宝物に視線を落とした。
生活費を得るためなら、一つ二つ売り飛ばせばそれでしばらくは暮らせるだろう。
王都に行くだけの旅費も事足りるはず。
「じゃ、俺ちょっと換金してくるよ」
「おれもいくー」
「わたしもいきたいです」
即座に双子が手を上げてきた。
「おたからかんきんするとこ、みてみたい!」
「しゃかいべんきょうしたいです」
「ユーヤさん、私、この子達の子守は無理です」
「王子と姫を連れて行くというのに、我輩を置いていくなど許さんぞ!?」
……カマイタチで毛並みをずたずたにされたぽちはとりあえず放っておいて、ユーヤは双子とオーラを見た。双子が魔物であることを抜きにして、可愛らしい子供だから、安全のため、残っていてほしいのだけれども。迷うユーヤに、オーラは真剣に言い放った。
「あのですね、ユーヤさん。私とこの子達を置いていかれると、私、命の危険を感じますよ?」
「えっ」
「だから置いていかないでくださいね?」
「おいてっちゃやだー。このねえちゃんとさんにんにされたらこまるー」
「おねえさんといっしょはいやです」
オーラと双子は、どうしてもウマが合わないらしかった。
ぽちを見た。宿ということでイリックも加減したのか、ずたずたなのは毛並みだけだ。豊かな毛並みが、ところどころハゲになっているので、みっともないことこの上ない。
もしも、ユーヤが不在の間に、同じことが起きたら。
万が一、彼女がハゲにされたら――シスコン賢者が「責任を取れーーー!!」とどこかからか現れそうな気が、する。
「……分かった。一緒に行こうか。ただし、俺から離れないこと。ちょっと物騒な場所に行くからね」
歓声を上げる双子と、安堵の息を吐くオーラに、苦笑いするしかなかった。
おたから換金に行きます。




