子育て勇者と魔王の子供・3
とにかく、服だ。
勇者は魔王の子供二人を連れて、魔王城を脱出した。ここまで来る最中に魔物は退けていたので、特に難しいこともない。
「……ところで、君達、名前は? あ、俺はユーヤ」
「わたし、イリアです」
「おれ、イリック! ユーヤにーちゃん、よろしくな!」
魔物とは思えないほどにフレンドリーな子供立ちである。しかも、魔王の子供。
世界征服と人間皆殺しを目指していたはずの極悪非道な魔王の子供。
「……よろしく」
複雑な気持ちで、勇者ユーヤは苦笑した。
服を手に入れるには人里に向かうのが一番だ。かなりの距離を歩かなくてはならない。魔王城のそばには人が住んでいる場所はないのだ。子供の体力を考えながら進み、保存食も自分一人ぶんだけで、それほど多くは持っておらず、途中途中で獣でも狩らなくてはいけなかった。
人里についてからのことはあまり心配しなくてもいいだろう。子供たちは、頭に布でも巻いて小さな角を隠せばなんとか人間の子供で通じるはず。
……もっとも、体が人間型であればの話だが。
ユーヤはその考えに思い当たり、眉間にしわを寄せつつ訊いてみる。
「……君達、しっぽ生えてる?」
ぞろりと長いローブの下に、尻尾でもあれば普通の人間の服を着ることは難しいだろう。
女の子ならまだ長いスカートで誤魔化せるけれども、男の子なら、それこそ神官か魔法使いのようなローブでもないと誤魔化せない。
男の子、イリックは首を振った。
「おれははえてないー」
女の子、イリアは首をかしげた。
「わたし、はえてます」
イリアには尻尾があるようだ。女の子のほうで良かったとユーヤは苦笑。
「……そうか……じゃあ、えーっとイリアちゃんにはスカートがいいだろうなぁ。尻尾が隠せるように」
呟いて、ユーヤは顔をひきつらせた。
……スカート……?
男の俺が。
買うのか……?
「すかーと……にんげんのふくですね。たのしみです」
邪気なく笑うイリアに、ユーヤはガクリと肩を落とした。
……買わなきゃならんな……。
頑張れ勇者!(え)