子育て勇者と魔王の子供・24
ぽちを見て、賢者の卵である少女、オーラは口を開けた。魔王の双子だけでなく、魔物そのものが同行していることに驚いているのだろう、多分。
ぽちは見たことのない少女に対して、牙をむき出して威嚇する。
「なんだこの女は? 貴様の女か勇者? ならば、我輩のエサだな?」
「あのな、彼女に手を出したら、彼女のお兄さんが黙ってないぞ」
「ふ、所詮人間だろう」
「賢者だ」
「…………しょ、所詮人間だ」
声が震えているので、賢者の凄さは知っていると見た。全ての呪文を使いこなす偉大な存在、賢者。
ユーヤが会ったことのある賢者は、超のつくシスコン(オーラの兄)だったせいで、とてもそんな偉大な存在には感じなかったけれども。
「えーっと、なんでかよく分からないけど、彼女も一緒に来ることになった」
「なんでだっ!?」
「いや、俺にもよく分からない。なんか、俺の子育て能力が不安らしくて」
独身やもめ、彼女なし生活の長いユーヤに、子供なんて育てられるわけがない、と、オーラ。
確かにそのとおりかもしれないが、彼女とてまだ未成年で、子育ての経験などないはずなのに、押しきられてしまった。
女手が欲しかったのは確かだ。同じ男であるイリックはともかく、女の子であるイリアのことは、男が面倒を見るには限界があるのではないかと思ったのである。
「ぽち、あのおんなたべていいです」
「たべていいぞ!」
双子はオーラのことが気に食わないらしい。ぽちをけしかけるような言動をし始めたので、ユーヤは割って入った。
「こら、いけません。オーラは君達のことを心配して、一緒に来てくれるって言ってくれてるんだぞ?」
「どっちかってーと、にーちゃんのことだけきにしてるんだとおもう」
「わたしたちはこうじつです。よういくひねらいもあるかもしれません」
双子はとことんオーラが気に食わないようである。
「うふふ、観察眼の鋭い子供たちですね。さすが魔王の子供。でも、私ついていきますから」
にっこりと、オーラは子供たちに向き直る。
「大体ね? イリアちゃん、ユーヤさんは男の人よ? 女の子の面倒なんか見られるわけないでしょ? 奥さんどころか彼女もいなくて、女心なんてちっっっっとも!! 分からない人なのよ?」
何故かユーヤを見て握りこぶしになるオーラを見、それからイリアとイリックはユーヤを見た。
そして、双子は顔を見合わせて頷きあい、オーラに視線を戻した。
「ねえちゃん、なんかくろうしたんだな」
「ちょっとだけ、どうじょうします」
視線が、可哀想と言いたげ。
「でも、にーちゃんはおれがよめさんさがしてやるから、だめな」
「おにーさんはわたしがおよめさんになりますから、だめですよ」
双子の微笑ましい(はずの)言動に、オーラはきっとユーヤを睨んだ。
「ユーヤさん?」
「ん?」
「まさかもしかして、イリアちゃん育てて嫁にするとか考えてこんなこと吹き込んだんじゃないでしょうね!?」
「なんだと貴様ーーー!?」
ぽちまで沸騰した。ユーヤはあわてて両手を振る。
「そんなわけないだろ!?」
「姫!! このような変態といては何をされるか分かりません!! いますぐに我輩と逃げ」
地面に埋まったぽちはいつものように放置して、ジト目でイリアを庇うように立つオーラにあわてる。このままでは、完全に幼児趣味の変態にされてしまう!
「そんな趣味はない!!」
「本当に?」
「ない!!」
「おにーさん、わたしとけっこんしてくれるっていいました」
「ユーヤさんの幼女趣味ぃいいーーーーー!!」
「ち、ちがーう!! 言ってない、言ってないーーー!!」
ユーヤの絶叫が、空に響いた。
うん、がんばれゆうしゃー(棒読み)




