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子育て勇者と魔王の子供  作者: マオ
23/117

子育て勇者と魔王の子供・23

「魔王の子供を預かったぁ!?」

 絶叫に、あわてて勇者ユーヤは賢者見習い・オーラの口を塞いだ。


「お馬鹿ですか」

 場所を変えて、喫茶店。

 開口一番、少女は言い切った。いいたい気持ちもよく分かるので、ユーヤは言い返さずに黙っている。魔王の双子を両脇に座らせている彼に向ける彼女の視線は、なんだかいろいろな感情が入り混じっているようだ。

「しかも何ですか、魔王が病死って本当ですか」

 周囲を気にして小声で話してくれている。ユーヤも小声で答えた。

「本当だよ」

「ユーヤさん、魔王の死体、ちゃんと確認したました? 脈とか心音とか」

「……魔王って、脈とか心臓あるのか?」

 確認していない。ぐったりと動かなくなった魔王に呆然とし、それからそのまま双子の手を引いて魔王城を出ただけだ。

「……ということは、確認してないのですね?」

「してない」

「生きてたら?」

「え」

「もし、生きてたら?」

 オーラの指摘に、ユーヤは驚いた。考えてもいなかったのだ。魔王の病死を疑いもしなかった。

「子供押し付けられて、魔王も倒さないで、騙されて、ただ脱出してきたってことにもなりかねませんよ?」

「いや、でも……そのあと、ぽちとかシヴィーラとか、この子達を奪おうとしていた魔物に襲われたからなぁ。魔王の病死は確実じゃないか、な……」

 オーラの視線がだんだんと氷点下のように冷たくなっていく。

「ユーヤさん」

「はい」

「お人好しすぎます」


 大きく息を吐いて、オーラは子供たちに視線を向ける。

「この子達を保護したことで、ユーヤさんは魔物から狙われて、下手をすれば人間からも追われますよ!?」

「あ、それは覚悟しているよ」

 ユーヤはあっさりと言い切った。双子の手を握ったときからずっと考えていることだ。たとえ追われることになっても、双子の面倒を見る、と。

「仕方ないだろ。この子たちを放っておくこともできないし。良い子なんだよ。魔王の子とは思えないくらいに」

「魔王の子供ですよ。魔物ですよ?」

「うん。でもお手伝いとかしてくれて、すごく良い子たちだよ」

 角を隠している帽子のうえから、双子の頭を撫でると、イリックもイリアも嬉しそうに笑った。

 魔王の子供の邪気のない笑顔を見て、オーラは額を押さえる。

「……お人好し……」

 小さな声で呟いて、オーラは席から立ち上がった。

「分かりました」

「へ?」

「ユーヤさん、これからどちらへ?」

「え? ああ……王都へ行こうかと。とりあえず、魔王の死を王に報告して、それからお宝を換金して当座の生活費を」

「分かりました」

 ユーヤの言葉を断ち切るように言い、オーラは双子に微笑みかけた。

「これからよろしくね、双子ちゃん」

「は?」


「お人好しのユーヤさんを、いろんなモノの食い物にするわけにはいきません。こんな人でも勇者ですから!」

「こんな人……?」

 彼女が何を言いたいのかイマイチ分からないが、こんな人扱いはちょっとショックだ。

「というわけで、私もついていきますから」

「は? ……えええ!?」

 ユーヤの動揺っぷりにも構わず、賢者見習いの少女は魔王の双子に自己紹介する。

「私、オーラ。改めてよろしくね」

「……イリアです。でもよろしくしたくありません」

「イリック。でもよろしくしたくねー」

「まぁ正直。でも私ついていくから」

 にこやかにどす黒い彼女と双子を見て、ユーヤは自分が置いていかれていることをなんとなく理解した。


仲間げっと(え)

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