子育て勇者と魔王の子供・23
「魔王の子供を預かったぁ!?」
絶叫に、あわてて勇者ユーヤは賢者見習い・オーラの口を塞いだ。
「お馬鹿ですか」
場所を変えて、喫茶店。
開口一番、少女は言い切った。いいたい気持ちもよく分かるので、ユーヤは言い返さずに黙っている。魔王の双子を両脇に座らせている彼に向ける彼女の視線は、なんだかいろいろな感情が入り混じっているようだ。
「しかも何ですか、魔王が病死って本当ですか」
周囲を気にして小声で話してくれている。ユーヤも小声で答えた。
「本当だよ」
「ユーヤさん、魔王の死体、ちゃんと確認したました? 脈とか心音とか」
「……魔王って、脈とか心臓あるのか?」
確認していない。ぐったりと動かなくなった魔王に呆然とし、それからそのまま双子の手を引いて魔王城を出ただけだ。
「……ということは、確認してないのですね?」
「してない」
「生きてたら?」
「え」
「もし、生きてたら?」
オーラの指摘に、ユーヤは驚いた。考えてもいなかったのだ。魔王の病死を疑いもしなかった。
「子供押し付けられて、魔王も倒さないで、騙されて、ただ脱出してきたってことにもなりかねませんよ?」
「いや、でも……そのあと、ぽちとかシヴィーラとか、この子達を奪おうとしていた魔物に襲われたからなぁ。魔王の病死は確実じゃないか、な……」
オーラの視線がだんだんと氷点下のように冷たくなっていく。
「ユーヤさん」
「はい」
「お人好しすぎます」
大きく息を吐いて、オーラは子供たちに視線を向ける。
「この子達を保護したことで、ユーヤさんは魔物から狙われて、下手をすれば人間からも追われますよ!?」
「あ、それは覚悟しているよ」
ユーヤはあっさりと言い切った。双子の手を握ったときからずっと考えていることだ。たとえ追われることになっても、双子の面倒を見る、と。
「仕方ないだろ。この子たちを放っておくこともできないし。良い子なんだよ。魔王の子とは思えないくらいに」
「魔王の子供ですよ。魔物ですよ?」
「うん。でもお手伝いとかしてくれて、すごく良い子たちだよ」
角を隠している帽子のうえから、双子の頭を撫でると、イリックもイリアも嬉しそうに笑った。
魔王の子供の邪気のない笑顔を見て、オーラは額を押さえる。
「……お人好し……」
小さな声で呟いて、オーラは席から立ち上がった。
「分かりました」
「へ?」
「ユーヤさん、これからどちらへ?」
「え? ああ……王都へ行こうかと。とりあえず、魔王の死を王に報告して、それからお宝を換金して当座の生活費を」
「分かりました」
ユーヤの言葉を断ち切るように言い、オーラは双子に微笑みかけた。
「これからよろしくね、双子ちゃん」
「は?」
「お人好しのユーヤさんを、いろんなモノの食い物にするわけにはいきません。こんな人でも勇者ですから!」
「こんな人……?」
彼女が何を言いたいのかイマイチ分からないが、こんな人扱いはちょっとショックだ。
「というわけで、私もついていきますから」
「は? ……えええ!?」
ユーヤの動揺っぷりにも構わず、賢者見習いの少女は魔王の双子に自己紹介する。
「私、オーラ。改めてよろしくね」
「……イリアです。でもよろしくしたくありません」
「イリック。でもよろしくしたくねー」
「まぁ正直。でも私ついていくから」
にこやかにどす黒い彼女と双子を見て、ユーヤは自分が置いていかれていることをなんとなく理解した。
仲間げっと(え)




