子育て勇者と魔王の子供・2
魔王の子供、しかも双子を託されてしまった勇者。
目の前にいるのは、人間に近い姿ではあるが、頭に角が生えている、魔物の子供。
魔王は病気でぽっくりと死んでしまい、勇者が戦うまでもなく世界に平和は訪れた。
「……どうすりゃいいんだ、これ……」
子育てなんぞしたことがない。勇者として魔王を倒して世界を救うためにだけ生きてきて、もちろん異性との交際経験などない。
淡い思い出も時にはあったけれども、厳しい旅を続けていかなくてはいけない勇者のために、相手は身を引いたのだ。
そんな思いまでして続けた旅の結果が、目の前の双子。
「……えーっと、あー……」
「よろしくです、ゆうしゃのおにーさん」
「よろしくな、ゆうしゃのにーちゃん」
頭を下げる魔王の双子。顔はうりふたつだが、片方の子は角にリボンを巻いているから、女の子だろうか。どっちの子も服装は魔王ルックなので、可愛らしいのに可愛くない。何より先に着替えさせたほうがよさそうだ。
「…………ともかく、出ようか……」
玉座にはさきほど息を引き取ったばかりの魔王が座っている。魔王のくせに病気に負けた。魔王を死なせた病気が凄いのか、病気に負けた魔王が弱いのか。
どっちなのかも、今の勇者にはどうでも良かった。
はーっと大きくため息をついて、双子の手をとった。
子供たちは一瞬びくりとしたが、勇者の手を握り返してきた。
子供って可愛い。魔王の子供でも、子供は子供なんだと勇者は思う。
護ってやらなくては。
「……行こうか」
魔王の遺骸に背を向けて、勇者は歩き出した。
子供には罪はない。罪があるなら魔王だろう。生き返ったらいろんなものを込めて殴ってやる。
固くそう誓い、王の間を後にした。
「おにーさん、どこにいくですか?」
「まずは……君達の服を買いに街に行く」
「かってくれんの? おれたちおかねないよ」
「あー……いいよ、買ってあげるよ……お金ないのくらい分かってる」
「にーちゃん、とーちゃんのほうもつこからおたからもってってないの? とーちゃん、それがおれたちのよういくひだっていってたよ」
「……あんの魔王……」
そこまで見越して宝物庫に値の張るものを置いてあったのか。
配下を倒してゲットした以上、やっぱりきちんとこの子供たちの面倒を見なくてはいけない気がしてきた。
なんとなく、騙されているような気もするが……。
「ふく、うれしいです。おにーさん、ありがとうです」
「ありがとなにーちゃん!」
……まぁ、いいか……。
「……ところで、君達の母さんは?」
「かーちゃん、べっきょ」
「おかあさん、とおいところにいってます」
「……そうか……(じゃあ、この子達、両親とも? なんてことだ……もしかして母親、俺が倒した魔物だったんだろうか……)」
各自の名前は次のお話で。