子育て勇者と魔王の子供・18
……遭遇、二匹目。
「ご子息とご息女を渡しなさい」
今度は美女だ。なんというか、お見事なプロポーション。男なら一度はお付き合いしてみたいと願うくらいの美女。魔物というよりは、人間の厳しい教師のような印象なのだけれども。
多分、眼鏡をかけているせいだろう。髪の毛もきちっと結い上げているし。見事な足をさらけ出しているミニスカートだけれども。胸の谷間も拝めているけれども
なんだかどこか、叱られそうな印象で、色気よりは厳しさを感じさせた。
「……知り合い?」
とりあえず、子供たちに聞いてみた。双子はそろって首を振った。ぽちに目を向けると、毛を逆立ててしっぽを丸めている。
「ぽち?」
「知り合いではないぞ! ないったらない! シヴィーラという名などしらん! 断じて!!」
知り合いのようだ。
「へぇ。シヴィーラさんっていうのか。あー、初めまして? 俺は、ユーヤ」
「自己紹介など必要ない。お二人を渡しなさいと言っているのだけれど?」
「渡せません」
ユーヤはキッパリと言い切った。ぽちと遭遇したときにも思ったことだが、魔族同士のいざこざに双子を放り込む気は毛頭ない。
「俺はこの子達の保護者だから」
「生意気な。人間風情が」
「なんとでも言え。二人は渡せない」
「ふ」
美女は鼻で笑った。ぽちが地面に頭をこすり付けた。なんでだ。
ユーヤが平然としているのを見て、シヴィーラもいぶかしげな表情になった。
「……おにーさん、すごいです」
イリアの呟きが耳に入る。
「? 何が」
「にーちゃん、ていこうしてるじゃん。さっすがゆうしゃ!」
「え?」
イリックも感心した様子でユーヤを見ている。ユーヤには意味が分からない。
「こっちのおばあさん、まりょくでまどわそうとしてるです。ぽちはあっさりかかりました。だからおばあさんをこわがってます」
それで平伏しているのか、ぽち。イリアの説明で、推測がついた。
「……ほほう……それは、最初から交渉する気は全くないってことだな?」
ユーヤに気付かれないように魔力で威圧をかけ、畏怖させ、戦意を喪失させ、双子を連れて行こうとしていたようだ。
「それなら、それなりの対応を取らせていただこう」
「!」
シヴィーラが飛びのいた。そのときにはユーヤはすでに剣を振り切っている。
眼鏡が地面に落ちた。
「最初は警告だよ、お嬢さん」
狙ったのは眼鏡だけだ。その気になれば彼女を切ることはできたが、子供たちの前でそれは避けたい。
「でも、次は容赦しな――」
「おおおおお、お嬢さん!?」
何でか、彼女はそっちに動揺した。ユーヤの剣技ではなく、言動に。
「わっわわわ、私!?」
「え?」
真っ赤だ。なんでだろう。
「そ、そんなっ、お嬢さん!? あ、あ、あんたねぇ……っ」
「??」
動転している彼女がよく分からない。
「あうあうあう、おおおお、覚えてなさい!!」
動転したままシヴィーラは飛び去った。
「なんだぁ?」
状況がよく分からないユーヤの背後で、ぽちがぼそっと呟いた。
「齢千三百年の妖女によう言えたな貴様……」
「は?」
「ババァだぞ」
ぽちの背中に乗っている双子がうんうんと頷く。
「おばあさんです」
「うん。けはいがおばーちゃんだった」
それでイリアがおばあさんと言っていたのか。しかし見た目は妖艶な美女だった。
魔族恐るべし。
「おれ、にーちゃんがすげーとおもった」
「わたしもおもいました」
「え、なんで?」
「知らないせいなのか、ただ単に自覚がないのかわからんな貴様は」
ガンバレ勇者ー(棒読み)




