子育て勇者と魔王の子供・17
「にーちゃん、とーちゃんのおたから、どこにしまってんの?」
スープを作っているとき、なんとはなしにイリックに聞かれ、ユーヤはさらっと答えた。
「この中」
示したのは、腰に下げている小さな袋。魔王の子供は目を瞬かせ、ユーヤの腰にある小さな袋を凝視する。
「……おとーさん、かいしょなし」
「とーちゃん……こんなちびっとがおれたちのよういくひ? にーちゃんかわいそう」
しみじみと双子が呟く内容に、ユーヤはああ、と、納得した。魔王の残した財宝が、こんなわずかなわけがない。説明してやらなくては。
「違う違う。これ、魔法の袋。無限の小袋っていって、たくさん物が入るんだ。重さも感じない。魔法の品だよ」
以前仲間だった賢者兄妹の妹のほうに貰ったものである。魔法をいろいろ使うというより、品物開発を重点的にしていた妹だった。あまり魔法を使うほうには才能がなかったようだけれども、魔法の品物を作る能力はかなり高かったのである。
「便利だろ?」
「なるほどー。すごいですね、にんげん」
「すげー。こんなのつくれんの?」
と、双子は興味津々。
「うん。俺には原理はサッパリだけど、これを作った子は凄かったよ。こんな凄い品物を、簡単に作っちゃうような女の子だった」
「ふ。所詮人間の作るもの。どこかに欠陥があるに決まっておるわ」
もはや言葉での突っ込みすらなく、高い青空の中に吹き飛ばされていくぽち。
「にーちゃんのなかまだったにんげん?」
何事もなかったかのようにイリックは会話を続けてくる。
「うん。あとでぽちに謝ろうな。俺の仲間だったよ」
「どうしていまいっしょじゃないですか?」
謝罪することをスルーする双子にため息をつきつつ、ユーヤは質問に答える。
「謝ろうな? 今一緒じゃないのは、その子にもやりたいことがあったからだよ。賢者を目指してて、学問の街に行くまでの仲間だったんだ」
「ふられたですか」
上目遣いに言われました。
「えーっと……恋人とかじゃないからふられたっていうのは適切じゃない」
「じゃあ、すてられたのか」
左右からのコンボは全くもって容赦ない。
「違うって……」
これはどう説明すればいいのか。単に、彼女と自分は目的地が一緒だったからそこまで歩いて、そこからは目的が違ったから別れただけである。
確かに、彼女との旅は楽しかったが。
「にーちゃん、おれたちがいるからな」
「おにーさん、げんきだしてください」
子供たちからはすっかりフラれ男扱いである。
恋人とかじゃないから違う。そんな説明を何度か繰り返した後、子供たちは言った。
「よし、わかった! にーちゃん、おれがおっきくなってりっぱなまおうになったら、けっこんしてやるよ」
「そのころまでおにーさんがどくしんだったら、わたし、およめさんになってあげてもいいですよ」
プロポーズされました。脱力感を身にまといながら、ユーヤはなんとか反論する。
「……いや……魔王にならなくていいから。というか、イリック、男同士は結婚できない。あと、イリア、君が大きくなる頃、俺はよぼよぼの爺さんだから、遠慮しておく」
「え、そーだっけ?」
「そうなのですか?」
ませてはいても、やはり子供。そんでもって魔族。一般常識が大きく欠けている。
それでもユーヤのことを考えて言ってくれているので、子供って可愛いなぁと思った瞬間だった。
「そっかー。じゃ、おれがにーちゃんのよめさんさがしてくればいいんだよな!」
「じゃあ、いそいでおおきくなります」
なんか違う方向に理解されました。
これどうやって理解させればいいのだろう。
子育てって本当に難しい。魔王を倒す方がラクなんじゃなかろうか。
双子と旅をし始めて、最近そう思うようになったユーヤである
仲間のお話。




