子育て勇者と魔王の子供・16
服を着させたら、普通の子供に見えてきた。
帽子をかぶせたので、小さな角も見えないし、イリアのしっぽもスカートの下だ。しっぽも角と同じく小さいものらしい。
成長したら角もしっぽも大きくなるのだろうか。
それまでには、もっと常識的に育てたい。もちろん、人間の常識で。
「にーちゃん、とーちゃんたおしたこと、にんげんのおうさまにほうこくしにいかないのか?」
昼食の準備をしていたとき、イリックに唐突に聞かれた。父親。魔王のことだ。
「……あー……忘れてた」
本当に忘れていた。
「でもなぁ……俺が倒したわけじゃないし……」
忘れていたのは、ユーヤが倒したのではなく、病死だったからでもある。玉座にたどりついたときにはすでに瀕死で、子供たちを託すなり息を引き取った。魔王を倒したという達成感など皆無で、残された双子の面倒をどうやってみるかで手一杯だったのだ。こんな形で決着がつくとは、想像もしなかった。
「なんでー? ごほうびいっぱいもらえるんだろ? えらいひとになれるんだよね?」
「んー、実はあまりそっちには興味がない」
「どうしてですか?」
イリアもこちらを見ている。
「前にも言ったかもしれないけど、名声とか地位が欲しくて、魔王を倒しに行ったんじゃないからね」
ただ、護りたいものがあったから。
「ふ、偽善だな。地位や名誉が欲しくないわけがなかろう。貴様はただ、おのれの欲を覆い隠して格好をつけているだけなのだ!」
「うっさい、ぽち」
「だまりなさい」
焦げて黙ったぽちはとりあえず放っておいて(どうせすぐ復活するから)ユーヤは首をひねる。
「……そうだなぁ……一回は戻ったほうがいいかもしれないなぁ……どちらにせよ、魔王が死んだことは報告しておきたいし……」
とにかく、魔王が死んだことを報告しておきたい。日々怯えている人たちの不安が解消するだろう。
「貴様! 王子と姫の存在を密告する気ではなかろうな!?」
案の定、即座に復活したぽちを剣の鞘で軽く叩く。
「するわけないだろう。報告だけして、そのままどっか遠くで静かに暮らすつもりだ。田舎に帰るのもいいかな……?」
故郷。自然だけは大量にある場所で、魔王の子供を育てる環境としては恵まれている。
ただ、田舎なので、変わり者はすぐに目立つ可能性もある。
まして、元々住んでいたユーヤが子供連れで戻ってきた、となれば。
「いや、駄目だなやっぱり」
子供!? →孫か!! →嫁はどうした!? →逃げられたのか!? →この甲斐性なし! →男一人で育てられるわけがないだろうが嫁もらえ! の、コンボが成立する。絶対。
そして、近所のおばはんが世話を焼く。必ず。
なだれ込むように縁談をまとめられそうな気がする。もの凄く。
そして、そういう状況になったら、どう頑張っても逃げられないような気も、する。
「うん。やっぱ帰るのは駄目だ。手紙だけ書いて終わろう。あー、あと、生活費を捻出しないと」
故郷に戻るのはナチュラルに却下して、まずは落ち着くための生活費=おたから換金だ。
「とーちゃんのおたから、かねにするの?」
「うん。ぶっちゃけると、そう」
イリックの言葉に素直に頷く。子供たちの養育費としてありがたく使わせてもらう。
「じゃあ、つぎはおっきなまちですか?」
「そうだなぁ……うん。そうしようか」
王に報告し、褒美などは全て辞退し、それからお宝を換金し、安心して住める場所を探そう。
できうることなら、子持ちの協力者も欲しい。
子育てなど自信がないのだから。
養育費を手に入れなくては!(大変だ)




