子育て勇者と魔王の子供・15
ようやく、人里に着いた。ぽちのおかげでかなり時間の短縮ができた。たまに腹を空かせた野獣の目でユーヤを見ることを除けば、それなりにいい仲間というか、乗騎である。
ユーヤは子供たちとぽちを村の外で待たせて、小さな村に足早に入った。
なにはなくとも、まずは双子用の服。それから、調味料と食料。ぽちが増えて、やりくりが面倒になったせいだ。最初はぽちも自分で獲物を狩って来ていたのだが、ユーヤの料理をつまみぐいし、それ以来味のついた料理を望むようになったためである。除外すると、でかい図体でスネるため、非常にうっとおしいのだ。
魔王の城で手に入れたお宝も換金したい。こんな小さな村では難しいだろう。
ある程度大きな街でないと、お宝類の換金は難しい。次の目的は生活費を得るためにお宝の換金だ。
王都とはいかなくとも、商業の盛んな街なら換金できる。あとは、子供たちをどうするか。どこかで安定した暮らしを、と、考えてはいるが、なにせ魔王の子供である。
ぽちいわく、魔王の子供である双子は、かなり上級な魔物で、強力な力を持っている。人里近くで暮らすのは難しいかもしれない。
……自分は一体どうしたいのか。放っておけなくて、連れてきてしまったけれども、子供を育てた経験など、ない。皆無である。
かといって、どこかに預けるとしても、相手は魔王の子供だ。ちょっとした弾みででも、なにか揉め事を起こしたら、その時点で迫害、最悪は殺されるかもしれない。
人里離れた場所で暮らすのが一番いいのか。
隠居。この年で。
しかも独身なのに、子連れ。
子供は魔王の子供。
その上、ぽち付き。
どうしよう、と、ユーヤは悩んでいる。今までの人生で最難関の悩みである。魔王退治に行くときのほうが迷わなかった。
「……すみません、子供用の服ってどこかで譲ってもらえますか」
悩んでも仕方ないので、できることからすることにした。見かけた村人らしき男に声をかけてみる。
「子供用の服? なにすんだ?」
「旅の途中で親を亡くした双子に会いまして……着替えがなくて、そのままの服なので替えが欲しいんですよ」
何一つ嘘はついていない。
「あー、そりゃ大変だ。魔王のせいでなぁ……親を魔物にやられたんか……あんたも大変だな、若いのに」
「あ、いえ、その子らの親は病死です。ええ、もう、なんかよくわからないですが、病死でした」
「?? そうか? まぁ、どっちにしろ大変だなぁ。あ、服ならうちの子供のお古を分けてやるよ」
「ありがとうございます。すみません、わがままを言うようで恐縮なのですが、あの、男女の双子なので、男の子用と女の子用、両方譲っていただけると、とても助かるのですが……」
「わー、にーちゃん、なにそのでっかいにもつ」
「君達の服。あと食料」
「ふく、いっぱいです。ぽちのぶんもあるですか?」
「ないない。ぽちは毛皮あるだろ。えーっと、こっちのがイリック分。こっちのがイリア分」
農家のお宅恐るべし。子沢山で、子供たちは成長してしまったので、要らない服が山ほどあったのだ。
ご近所にも同じ年頃の子供がいないから、着まわしもできず、あとは端切れにして再利用するかと考えていたところだったから、ちょうど良かったと、古着を山ほど譲ってもらった。ちゃんとそれなりに料金も払っている。
楽しそうに古着を引っ張り出す双子を微笑ましいなぁと眺めつつ、ユーヤはぽちに話しかけた。
「ぽち、結構量があるから、お前荷物持ちな」
「……しれっと何を言い出すかと思えば……何故我輩が荷物持ちだ!?」
「お前の分の食料、誰が用意してると? 嫌ならいいよ。無理矢理くくりつけるから。ロープも買ってきたし」
「我輩の意思は無視か!?」
「おおむね無視しようかと思ってる。そもそも、乗り物だろ、お前」
「実は外道だろう貴様……」
魔物に外道といわれてしまった。勇者としてどうしたらいいだろう。
「そんなわけないだろうあはははは」
とりあえず、笑っておいた。
服を買いました。




