子育て勇者と魔王の子供・12
四回目。
目の前には「伏せ」をしている獣魔物。豊かな毛皮が焦げているのは、どうしてなのか。焦げ臭い。いや、それはともかく。
「……なにしてんだ?」
「は。我輩は乗り物であります」
「は?」
一体何を言い出したんだろうこいつ。ユーヤは困った。昨日の子供たちの一撃で、かなり打ち所が悪かったのかもしれない。
「王子と姫が勇者になついているのはよく理解したので、ではせめて乗騎としてついていってみようかと思った次第」
「はぁ」
ぽかんとしたまま頷いて……気がついた。
「待て。ついてくるってことか!?」
「その通り!! いつか勇者の寝首をかくつもりもある!!」
バカだ。この獣魔物、バカだ。
ユーヤが確信した瞬間、竜巻が湧き上がり、獣魔物は宙に待った。
「にーちゃんをおそったらけしずみにするっていっただろ!」
魔王の子供、イリックである。
「ぽち! おすわりです!」
落ちてきた魔物を、盛り上がった地面が押しつぶす。魔王の子供、もう一人、イリアだ。
「あー……子供たち。何があったのかおにーさんに説明してくれるかな?」
ちょっと川に顔を洗いに行っている間に何があったのだろう。
……発端は、尾行している獣魔物に子供たちが気付いてしまったことからだった。
こそこそ『また』ついてきている魔物に、子供たちが激怒。
「ひとのあと、こそこそついてきたらいけないんだ! そういうの、へんたいっていうんだぞ!」
「へんしつしゃはせいばいです!!」
と、即座に撃退。で、獣魔物は懲りたと言ったとのこと。
どうか一緒に連れて行ってください。乗り物で構いませんとかなんとか言い出して、子供たちはそれならまぁいっかーと了承して……冒頭に続いたのだ。
「……だってー、まだあるくのやだー。つかれたー。ひとのすんでるとこ、とおいじゃんー」
イリックが駄々をこねる。
「こいつのせてくれるもん。そしたらおれもいりあもつかれないしー、にーちゃんものればいいじゃんか。らくになるってばー」
乗り物になると言った魔物はまだ地面の下で強制的に「伏せ」状態。あれは絶対「お座り」じゃないと思いながら、ユーヤは渋い顔だ。確かに、人間三人くらいは余裕で乗せられるくらい、大きな魔物ではあるが……心に持つものがいろいろとありすぎる。下心の割合がでかすぎだ。
「ぽちです。げい、おしえます。おにーさん、だからひろってもいいですか」
イリアが袖口を引いてきた。捨て犬扱いか。
「わたしも、あるくのたいへんです。おにーさん」
確かに、子供の足にあわせていたら、人里につくまでまだまだかかる。
「……うーん……でも、こいつ、いろいろ君達のこと利用しようとしているしなぁ……」
「うん、しってる。だいじょうぶだよ、にーちゃん。むりやりつれていかれたら、こいつ、おれがすみにするから」
「そのあと、わたしがながします。だいじょうぶ。なにものこりません」
「いや、ちょっと、なんでそんな殺伐とした流れに? だから問答無用で存在を消さないように」
獣魔物を見下ろして、ユーヤは参ったなと思う。
確かに、こいつを乗り物にすれば、時間の短縮が可能だ。子供たちがかなり疲れていることも感じ取っているから、乗り物になってくれるというのはありがたい。
ありがたい、が……。
「……じゃあ、一緒に行くか?」
「うむ! 低脳な貴様でも我輩の有能さがようやく理解できたか! さぁ頭を下げるが良い人間よ! 乗せてくださいと一万回頼めば乗せてやらんでもないぞ!」
途端に魔物は跳ね上がり、えらそうに頭を上げた。二足歩行の魔物だったら胸を張ってふんぞり返ったかもしれない。ユーヤは丁寧に辞退した。
「いや、俺は乗らなくていい。子供たちだけ乗せて歩け」
「ぬ?」
「助かるよ。二人とも疲れてきているから、まだ歩かせるのは可哀想だなって気になってたんだ。本当に助かる。ありがとう」
頭を下げる。
「ぬわ!? ……む、むう……そこまでいうのなら一緒に行ってやらんでもないこともない」
素直なユーヤに動揺しているようだ。面白い魔物だなと微笑み、ユーヤはさりげなく、柔らかく、笑顔で言葉をかけた。
「あ、ところで」
「な、なんだ?」
「俺の寝首掻こうとするなよ。寝ている間に殺気を感じたら、即座に反撃するから。寝起きで手加減できない可能性が高いから、即死するぞ?」
「…………貴様、結構えげつないな……」
笑顔で釘を指すユーヤに、魔物は気圧されたようだった。
「にーちゃんすげー」
「ゆうしゃって、すごいです」
なんでか子供たちに感心された。何故だろう。
「ところで、お前名前は?」
「姫に素敵な名前を頂いた! ぽち、と!」
「…………へぇ……良かったな……」
いろいろと酷いですが、乗り物「ぽち」ゲット!(作者も酷い)
 




