子育て勇者と魔王の子供・終
鐘が鳴る。あの村の教会は建てなおされ、魔王城の一角で、魔王と勇者の挙式の舞台となっていた。
鐘が鳴る。綺麗に着飾った魔王を、涙を流して見守る人たち。
元魔王夫妻はともかく、遥か背後で泣いている男連中が少し気になる。何だあいつら。イリアに振られでもした連中だろうか。
鐘が鳴る。にこやかに祝福してくれている人たちが大半で、城の外でもお祭りみたいに喜んでくれている街の人たちがいる。
魔王と結婚するという重大なできごとが、肩に重くのしかかってくる気がするが、隣で嬉しそうに微笑む花嫁を見ていたら、彼女を護ろうという気持ちしか残らない。
これから、ずっと――彼女と、共に。
永遠の愛を。
「誓うです!」
「誓います」
※※※
「やっぱりまおうってかっこいい!」
「えー、ゆうしゃのほうがかっこいいです!」
「おれはまおうになりたい!」
「まおうもいいですけど、ゆうしゃもいいです!」
「んー、じゃあ、おれがまおうで、アリサはゆうしゃになればいいじゃん?」
「うー、ゆうしゃ……わたしなれますか?」
「なれるって」
「おじさまとちがって、わたしのおとーさんはまおうですよ? なれますか??」
「…………あー、じゃあ。おれがゆうしゃになるほうがいいのかな? アリサのとーちゃんもおれのかーちゃんといっしょでまおうだから、ありさがまおうになるほうがいいかもー」
「まおうですか……わたし、できればゆうしゃのほうがいいです。おじさまかっこいいです」
「うん、とーちゃんかっこいいよなー。でも、かーちゃんとおじちゃんみたいなまおうもかっこいいじゃん!」
「そうですね、かっこいいです。てきぱきおしごとしててかっこいいです」
「じーちゃんみたいなせんだいまおうはかっこわるい」
「はい。おじーちゃんかっこわるいです。はーれむはいけません。おばーちゃんにしかられます」
「よしきめた! おっきくなったら、おれはゆうしゃ、アリサはまおうな!」
「わかりました! がんばってまおうになります! ユーイもがんばってゆうしゃになってください!」
良く似ている子供たちがにこやかにそんなことを言っている。
そこに、青年が歩み寄ってきた。砂場で遊んでいた子供たちが嬉しそうに駆け寄る。
「とーちゃん!」
「おじさま!」
優しく微笑んで子供たちを受け止める彼に、子供たちは口々に今まではなしていた内容を教える。
「とーちゃん! おれ、おっきくなったらゆうしゃになるんだ!」
「わたしはまおうになります! おとーさんやおばさまみたいなまおうになって、ユーイとなかよくするんです!」
「そんで、なかよくみんなをまもるんだ! これからうまれてくるいもうとかおとうととか、ちゃんとまもるんだ!」
「まもるです! みんなみんな、まもるです!」
青年は一瞬きょとんとして――それからもういちど微笑んで子供たちを抱き上げた。
今代の魔王の子供たちは嬉しそうに彼に抱き着いて、またもや口々におしゃべりを始める。
魔王になったら、勇者になったら、あんなこともこんなことも、そんなことまでできるようになる。
そうして、皆で仲良くずっと過ごすんだ、と。
過去、勇者と呼ばれた青年は、穏やかにうなずきながら、歩みを進める。
次の子を妊娠している妻のところまで。
愛しの魔王のところまで、子供たちを抱き上げて。
自分の息子も姪っ子も、まだまだ小さいが、良い子に育ってくれているなぁと、ほのぼの幸せをかみしめながら。
子育て勇者と魔王の子供は、魔王城の奥へと姿を消した。
「うぬぅ……魔王はともかく、吾輩、勇者はどうかと思いますぞ、お子様方……」
土からはい出た焦げた魔物が呟いて――このお話は、おしまい。
これにて「子育て勇者と魔王の子供」は完結いたします。
イリアがヒロインに決まった時に、最後は子供たちの会話で終わろうと決めました。オーラがヒロインだったら……後半は学校の話になった……というのは余談。
思いもよらぬたくさんの方に呼んでいただけた話で、本当に幸せな話だと思っております。後半、更新が遅れに遅れて申し訳ありませんでした。
お付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございました!