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子育て勇者と魔王の子供  作者: マオ
114/117

子育て勇者と魔王の子供・91.5

そっと忘れたころに更新するはい寄るナニカに私はなりたい(逃避)

「俺と結婚してください。可愛い魔王様」


 完膚なきまでの、宣言だった。


 誰もいなくなった夜の中庭で、月を見上げてオーラは思う。


 十年は長かった。それは確かにそうだろう。だが、オーラとユーヤとカリスにとっては、数日でしかない。その数日で、状況はとてつもない変化をしていて、自分たちは置いていかれている。 

 置いていかれている、と、思っていたのに。

 ……勇者ユーヤの順応はすごかった。魔王となったイリアに押されるだけでなく、押し返すほどに。

 オーラの目の前での、求婚。

 もう完全に望みがないとは理解していたつもりでも、それでも衝撃だった。


 完璧に、完全に、失恋したのだ――自分は、彼に、何も伝えることがないままに。


 赤い糸が切れたことは知っていた。イリック相手に糸が伸びたことも知っている。けれども、やはり、どこかに納得していなかった自分がわずかに居て。

 そのわずかな部分が、小さく泣いている。

 オーラ自身が泣くほどに悲しくはないのだけれども、確かに胸のどこかがわずかに、痛い。

 彼が悪いことはない。何も伝えておらず、始まることすらなかった自分の恋が、勝手に終わっただけなのだ。

 今は無理でも、いつか切り替えることはできるだろう。素直におめでとうと言えるようになるだろう。良い友人として、ユーヤたちと付き合い続けたいのだから。


 頑張ろう。始まってもいなかった恋だったけれども、確かに何か大事なことを教えてくれたと思う。

 間違いなく、出会えてよかったと思っている。

 オーラは息をつく。この痛みが遠くない未来に癒えたら、きっとあの二人を祝福できる。

 お似合いですよと、茶化すことだってできる。

 今は、まだ、無理だけれども。きっと、いつか。


「ねーちゃん」

「ひぇい!?」


 ……などと月を見上げて浸っていたら、急に声をかけられた。振り返るとイリックである。何故か、非常に微妙な表情で、こちらを見ている美少年は、表情をそのままに口を開いた。


「……ナルシスト?」

「誰がっ!?」

「いや、だってさー。月を見上げてため息ついて、なんか浸ってんなぁと思ったから」

「いろいろな意味で酷い言い様じゃない、それ!?」


 ナルシスト扱いは酷い。浸っていたことは否定できないが。


「月が綺麗だったからぼけっとしてただけ!」

 乙女心なんてこの少年にはわからないだろう。魔王になりたいと言い続け、あまつさえ実行して達成してしまったのだから。

「ほんとに?」

「本当!」

 イリックはこちらを探るような目になった。どこか、疑わしげな。


「……にーちゃんとイリアのことでショック受けてたんじゃなくてか?」


 びくり、と、背が震えた。それでイリックには分かってしまったようだった。


「な、なんでそんなこと言うの……?」

「んー? にーちゃんがイリアにプロポーズしたときに、ねーちゃん顔色変わったじゃん」

「な、なんで……」


 分かったの、と、続ける前に、少年は苦笑いを浮かべて。


「ねーちゃんは冗談だと思ってるけど、おれ、ちゃんとねーちゃんのこと見てんだぜ?」


 ひえ。

 自分の口からかすれた声が漏れたことにも気づかず、オーラは硬直する。


「にーちゃんもイリアのことなめてたけど、ねーちゃんもおれのことなめてるよな。おれたち、魔王なんだぞ、なめんなよ?」

にやりと笑う少年魔王は、オーラには肉食獣に見える。

「ねーちゃん、おれとイリアには十年だ。ねーちゃんとにーちゃんにはたったの数日だってのも分かってるよ。でも、おれたちには十年なんだ。十年って長いぜ? すんごく長いぜ。魔族のおれたちだって、子供だったから長かったよ。すんげー長かった……だから」

 獣のような笑みを浮かべたまま、イリックは宣言した。


「逃がす気はねーからな、オーラ」


 うわぁああああああ!! 誰この人!? 誰っ!? 私の知ってるイリックくんはどこに行ったの!?

 ……声に出すこともできずに、オーラは心の中で絶叫した。


 賢者の卵を硬直させ続けている少年魔王は、獣の笑みを消して、いたずらっぽく笑う。


「ま、オーラには数日だってのも分かってるつもりだから、今すぐナニカってことはねーよ? おれ、イリアと違って焦ってねーし。にーちゃんと違って競争率高くないからなー。ま、今すぐはナニもしないから安心していいんじゃね?」


 ナニってナニ。どうするのどうするつもりなの!?


「あうあうあうあう……」

「おお、ねーちゃん言語がいきなり不自由になったな。すげー動揺してる。やっべ」

 言いながら、イリックはオーラに手を伸ばす。頬を撫でられてオーラはビクリとした。


「……やべーな。可愛い。ナニカしたくなる」


 だからナニをぉおおおお!?


 ……その夜、賢者の卵と少年魔王にナニかあったのかどうかは、誰も知らない。

オーラとイリック編。早く立ち直っていちゃつけばいいよ(笑)

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