子育て勇者と魔王の子供・11
勇者ユーヤは深く深くため息をついた。
「またお前か……」
四足歩行の獣型魔物と、三度目の邂逅。こちらとしてはそんなもの、望んでいない。
「王子と姫を渡せ!」
獣魔物の要求は一つ。魔王の子供である双子を寄越せ。ユーヤとしては魔王の座争いなんていうものに、あの双子を差し出すつもりはない。毛頭ない。
「こりないな」
「うるさい! 王子と姫を」
「またきたぞあいつ!」
「しつこいまものはきらいです!」
子供たちも学習したようだ。今回の薪拾いはユーヤからさほど離れていなかった。そして、前回ユーヤが言ったこともきっちりと覚えていてくれた。
問答無用で攻撃はしないように、というひとことを。
「かえれー!」
「きえなさい!」
「ちゅうこくしたぞ! ぶっとべ!」
「けいこくしました! そういうわけでどかーんです!」
「……うん。俺の言うことを覚えていてくれたのは嬉しいよ。でもな? 警告した後即座に攻撃するのは、問答無用と変わらないからな?」
懇々と双子を諭すユーヤの後方で、獣魔物がケイレンしている。
イリックの一撃でキリモミしながら空高く舞い上がり、落ちてきたところをイリアの追撃、盛り上がった大地にはさまれた。
多分、死んではいないと思うが。あそこまでの攻撃をくらって、まだ生きている頑強な魔物に感心してもいる。
「むー、むずかしいな、にーちゃん」
「いや、難しくないって。とにかく、言葉が話せる相手なんだから、まず会話をしよう」
「でも、いくさはせんてひっしょうです」
「戦じゃない。あの獣魔物は……ってこれ言い辛いな……とにかく、アイツは、君達を保護したいだけで、危害は加えないだろうから、そういう相手に実力行使は」
「おれたちにこわいことしなくても、にーちゃんくわれるかもしれないじゃん」
「そうです。おにーさんたべられたらこまります」
双子は真顔である。
「……えーっと、心配してくれてありがとう」
むずがゆい。ユーヤは困った顔で笑う。
が。
「うん、しんぱいした! にーちゃんいなくなったら、おれたちろとうにまようもんな!」
「はい。わたしたち、せいかつのうりょくありませんから、ほごしゃいないとこまります」
魔王の子供たちはしたたかだ。年頃に見合わないほどにしたたかだ。やっぱり魔王の子供なだけはある。なついてくれているわけでもないのか、それとも照れ隠しなのか。非常に判断しづらい。
「……あー、まぁ、面倒は見るから。とにかく、問答無用はよしなさい」
「はぁい」
「ぜんしょします」
それぞれに頷く子供たちに苦笑いして、ユーヤは振り返って魔物をつついてみた。
「げふ」
呻く。
「頑丈だなぁ……」
ぺん、と、頭を叩いてやって、そのまま放置した。
きっと復活して、明日もまたやってくるだろう。
四度目に現れたら……決着をつける。
けものまものって言いづらいですよね。




