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子育て勇者と魔王の子供  作者: マオ
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子育て勇者と魔王の子供・87

 何が起きたのか。オーラが調査している横で、ぼへーっと突っ立っていただけ、のはずだ。

 ユーヤは何もしていない。オーラやカリスも何もしていない、と思う。少なくとも、何かが発動するような要素は何もなかったはずだ。

 一瞬、めまいのようなものを感じて……疲れているのだろうかと少しだけ思ったが。

 でも疲れるのなら調査をしているオーラと、手伝っているカリスだろう。ユーヤは本当に立っていただけだ。遺跡の内部の文様などを見てもさっぱり理解できないものばかりだったし、魔法的な物ならなおさら分からない。

 勇者と呼ばれるのに、魔法は苦手なのである。使えないわけではないのだが、剣を振り回すほうが得意なのだ。

 そんなユーヤなので、何が起こったのかさっぱり感知できなかった。ダンジョンのトラップなどは野性的な勘を発揮して回避してきた歴戦の勇者なのだが、今回はさっぱりだった、のだろう。


 そのことが理解できたのは、休憩のために遺跡から出たときだったのだが。


 外に出たら、景色が一変していたのだ。

 広がる景色はほのぼのとした田舎風景だったはず。少し離れたところにある村もこれまた田舎で、農村と聞いて想像した風景そのまんまの和やかな村だった、はず。

「え、なにこれ」

 背後でカリスがそうつぶやく気持ちに同意したい。

 なんだこれ。どういうことなんだ。

 つい二時間前までは、山の中にある遺跡だったはずなのだ。

「えっと……え? ええ? あ、え!? ええええ!?」

 オーラも混乱している。


 目の前には、綺麗で大きな街があった。


 周囲を見回すと、街中である。どうやら、ユーヤたちが出た場所が街中だ。山の中の遺跡に入り、出たら街中だった。

「……山の中の遺跡に居たよな、俺たち……?」

 呟くユーヤに、オーラがカクカクとうなずく。

「そ、そのはず、です。に、兄さん、なんか魔法的なもの感じた!? 私、どっか変なところ触っちゃった!?」

 あわてて彼女はカリスの袖を引く。自分が変な装置を作動させてしまったのかと危惧しているのだろう。

「だ、大丈夫よカワイコちゃん! アナタは変なものを作動させたりしてないわ! 魔法的なものなんて何も感じなかったもの! だからこれはなにか違う原因よ!」

 カリスも何かを感じ取ったりはしなかったようだ。

「えーと、これ、どっか違う場所に移動する遺跡だったとか?」

 考えられる原因としては、遺跡そのものが転移装置だったとかそういうものではなかろうか。入っただけで作動して、勝手に適当な場所に送ってしまうような、はた迷惑な感じの。

「……それなら魔法を感じ取れると思うのよね……ワタシもそんな気配はかけらも感じなかったわよ? アンタだって、何も感じなかったでしょ? 何も言わなかったものね。カワイコちゃんもでしょ?」

「う、うん……私も何も……ユーヤさんも?」

「ああ。俺も何も感じなかったよ。だから普通に遺跡から出たんだけど……どこなんだ、ここ」

 まぁ、カリスがいるのなら転移魔法ですぐに帰れるだろうとは思う。ただ、迷子になったような感覚は否めない。

「とりあえず、カリス。魔法頼めるか? 戻らないといけないだろ。まだ調査始めたばかりだし」

「アンタいっつも自分で魔法使う気はないわよね。別にいいけど」

 半眼でそう言ってくるカリスに苦笑する。

「いや、魔法は苦手だって言ってるじゃないか」

「知ってるわよ。アンタの転移魔法に命を預ける気はないわ。ましてカワイコちゃんも一緒なんだから、そんな危ないことさせる気はないわよ」

 カリスの中ではユーヤの転移魔法は危険物扱いらしい。言いえて妙である。反論できないので、黙った。


「一旦、村に戻って、今度はもっと気を付けて調査してみましょ、ね? 気にしなくていいわよ、カワイコちゃん。ただ単に場所が変わっただけなんだから。兄さんの魔法で帰れるわ」

「うん……ありがとう、兄さん」

 ちょっと落ち込んでいたオーラが、弱弱しいが笑顔になった。別に彼女の失敗ではないので、ユーヤも気にしていない。

「変わった遺跡だよな。人を転移させるだけって」

「うーん……それだけじゃないかもしれませんけど……もっとよく調べてみないと。私、もっと気を付けて調べます」

 危険な作動をするかもしれない、と、オーラ。そういうときのためにユーヤやカリスがついてきているのもあるので、ユーヤは彼女の肩をぽんぽんと叩いた。

「大丈夫だよ。俺もカリスもいるし」

「……はい。その点では安心してますから、大丈夫です」

 にっこりと笑うオーラは、非常に可愛らしい。ユーヤは脇腹をカリスにひじ打ちされ、悶えていたが。

「ちょ、兄さん何するの!?」

「ええ、ワタシのカワイコちゃんに近づく悪い虫にちょっと牽制をね?」

「ユーヤさんにはイリアちゃんがいるのよ!?」

「ロリコン犯罪者に容赦はしないわ!」

「……誰がだ……」

 そこだけは一応反論しておいた。とりあえず、今のところは。


 勇者と賢者と賢者の卵がジャレているところに、街の住民らしき人影が横切った。

 目を丸くして――すぐさま叫ぶ。

「ゆ、勇者だーーー!! 勇者と賢者と賢者の卵が現れたぞーーーー!!!」

 その絶叫に、すぐさま周囲から声が上がる。

「なにぃ!?」

「なんだとぉ!?」

「おい! 誰か!! すぐに魔王様に伝令を!!」

「お知らせしろーーーー!!」

 叫びが街中を駆け回り……すぐさまユーヤたちの周囲を人影が取り囲む。

「!?」

 ユーヤは反射的にオーラとカリスを背にかばった。

 街の住民と思った人影には、背に羽が合ったり、頭に角があったり、尻からしっぽが見えていたりする。普通の人間らしき姿も見受けられるが、外側だけでは判別がつかない。

「な、なんだここ……一体俺たちはどこに飛ばされたんだ……!?」

 住民たちは魔王様と叫んだ。

 もしやまさか、あの双子の父親がまた魔王に逆戻りしたのか。冥界に連行された大魔王が脱走でもしたのか。

 背の剣に手を伸ばすユーヤに、住民たちの包囲の輪がじりじりと迫る……。


どこに飛んだのでしょう?

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