子育て勇者と魔王の子供・86
めりーくりすます! 十二月中は多忙すぎて更新をあきらめてましたが、なんとか頑張ってみました! 過労死しそうです(待て)すみませんすみません。
その日、ユーヤは久しぶりに祖父からもらった剣を手にした。
きっかけはオーラが旅支度をし始めたことだった。
平和な村から山を越えた向こう、少し離れた場所に、見慣れない遺跡が見つかったから、少し調べてくれないかと、オーラに依頼がきたのだ。怪物なども出るかもしれないという可能性に、シスコン賢者が同行しないわけがなく。
「ワタシもいくわよカワイコちゃん! ええ、行くわ! そんな危険なところにワタシのカワイコちゃん一人を行かせるわけにはいかないでしょ!?」
「ありがたいけど、兄さん、仕事はいいの? 毎日研究院と往復してるのに」
腐っても賢者。通勤は魔法である。もっとも、妹の開発した移動魔法を封じてあるペンダントを使っているので、教会と研究院だけを往復するだけなら負担ではない。
「今そんなに急ぎの仕事はないからいいのよ!」
「お義姉さんと何日か離れちゃうけど、いいの? 新婚なのに」
「………………なんか贈り物でも考えておくからいいのよ」
一応、『新妻』にはそれなりに気を使っているらしい兄に、妹は苦笑した。仲良くやってくれているのなら、嬉しいのだから。
一方、教会前では、ユーヤが『彼女』と朝の挨拶をしたさい、そう言えば、と『彼女』が話を切り出した。
「なんか変態が義妹と出かけるって言ってたわ」
あくまでも旦那と言わない『彼女』に苦笑しつつ、ユーヤは首をひねる。
「…………カリスが? オーラと? あれ、学校建設でなんか用でもできたのかな。資金のことなら俺に言ってくれれば」
元魔王がくれた養育費から出すのに、と、ユーヤは言ったのだが『彼女』は軽く首を横に振った。
「遺跡を調べてほしいって依頼が来たみたい」
「遺跡? え、なんでオーラに??」
彼女はまだ賢者の卵で、有能ではあるが、よそから依頼を受けるような立場ではない。
「最近、結構評判になっているみたいね。まぁ、一応、ほら、変態でも賢者でしょ? その妹で、しかも魔法的な道具を作る腕前は確かで、その上こんな田舎に学校を作るだけの甲斐性がある若い娘ってことで、近辺ではかなり注目の的みたいね」
厳密には、パトロンはユーヤである。学校建設にはユーヤの(というか、元魔王の養育費)ふところから金が出ているのだが、そのことを知っているのは村の住民だけである。
よそから見れば、賢者の妹、魔法道具を作る腕は優秀、しかも金持ち(かもしれない)そして、可愛い若い娘――ひょっとして、逆玉の輿を狙える!? よし、一目見てみたい、という、物見遊山的、打算的要素があるのか。見世物ではないのだが。
「だから、あの変態、一緒に行くみたいね」
「あー、なるほど」
妹に悪い虫がつかないようにしたい、ということか。納得した。物凄く納得した。
納得したユーヤに、『彼女』がつんつんと肩をつついてくる。
「? なに」
「変態はどうでもいいんだけどね。私、義妹は可愛いの」
「うん」
仲が良いのはいいことだ。
「可愛いのよ」
「……うん。うん?」
何が言いたいのだろう。くみ取れずにいるユーヤに、『彼女』はもう一度、言う。
「言っておくけど、変態はどうでもいいのよ? 本当にどうでもいいの。でもね、義妹は可愛いの」
「…………うん」
これはアレか。心配だからユーヤにも一緒に行ってくれと?
「……あのさ」
「いっとくけど! 変態はどうでもいいのよ!?」
「うん、わかったよ」
『彼女』はどちらの心配もしているとよく分かったから、ユーヤは苦笑した。
太古の魔王であったからなのか、『彼女』は素直じゃないが――可愛くて素敵な女性だ。
「カリスはそういうところに惚れたのかな」
「何の話か分からないわ。変態はどうでもいいのよ!?」
「うん、わかったって」
そういうことで、同行することになった。
と、伝えたら、幼女にめっちゃ睨まれた。
「おにーさん、どこいくですか。こんやくしゃをおいていくですか。わたしすてられるですか」
いつ婚約したっけ、と思う。将来的にはするつもりだが、今はしてない。断じてしていない。
「どこで覚えてくるのかって……いやまぁ大体魔王だろうけど。あのな、イリア、ちょこっとだけ出かけるだけだって。行くのにカリスの魔法で一瞬、調査に三日から五日、帰ってくるのも一瞬だってば」
「みっかからいつかもいないです! むしろいっしょにつれていくべきです! おあついふたりはいつでもいっしょなのです! らぶらぶなのですよ!?」
言いながら足に抱き着いてくる。何か最近幼女が暴走している気がするのだが、何かあったのだろうか。これまでにも相当暴走しているのだが、いまいち鈍いユーヤはよしよしとイリアの頭を撫でる。
「れでぃのあたまをなでてもだまされません! いっしょにつれていくですおにーさん! わたしやくにたちます! まものなら、こおりでぐっさりぐさぐさですよ!」
確かにイリアの魔力なら、その辺の魔物など一網打尽にしてしまうだろう。
「そーだよにーちゃん! おれも! おれもいく! まものなら、もやしつくしてすみにするから!」
そしてもう片方の足には双子の片方、イリックがしがみついていたりする。
「ぎりのきょうだいになるんだから、つれてけ! しょうらいのまおうなんだから、ぜったいやくにたつよ!」
将来は置いておきたい。魔王になるのならば切実に置いておきたい。思いながら、ユーヤはイリックの頭も撫でた。確かにイリックの魔力ならば、その辺の魔物など消し炭だろう。
さすが、元魔王と死の化身間に生まれた双子である。戦力として考えれば言うことなどない。
ただし――年齢を考えない場合、だ。
「駄目。五歳児はおとなしくお留守番」
「えー」
「えー」
双子はそろって口をとがらせた。拗ねた様子も非常に可愛い。
「いっしょにたびしたですー、こんどもいっしょにいきたいですー!」
「しろからにんげんのまちまでたびしたじゃん! こんどもいっしょにいくー!」
魔王城から旅をしたので、自信もあるのだろう。一週間に満たない間なら、一緒に行っても問題ないだろうという考えもあるのだろうが。
……両親と再会し、村で平和に暮らしている双子を、危ない(かもしれない)場所に連れて行きたくはないのだ。
「すぐ帰ってくるって。おとなしく良い子にしてたら、お土産買ってくるよ」
「………………こんやくゆびわがおみやげなら、おるすばんしてます」
「にーちゃんが、いりあとけっこんするってけっぱんしょかいてくれるなら、おるすばんしてる」
そう来たか。
というかイリック、血判書なんてどこで覚えてきた……いや、まぁ、両親のどっちかだろうが。
「どっちも違うお土産なら買ってくる」
「じゃあいやですー! いっしょにいきますー! おねーさんだけずるいのですー!!」
「ねーちゃんはいくのにおれたちだめってずるいー!! ねーちゃんなんかやくにたたねーじゃん!」
要するに、オーラに焼きもちを焼いているのである。
「あのな? 今回はオーラに来た依頼なんだ。オーラが行かなきゃだめだろ? で、心配だから、俺とカリスが一緒に行くんだよ。心配って言っても、田舎の遺跡だし、そうたいしたことにはならないから。ただ単に、オーラのボディガードみたいな役目なんだって」
要するに、オーラの虫除けなのである。いわゆる、男避け。
「むー」
「うー」
双子は納得していないようだ。
「べつににーちゃんがいかなくてもさー。ねーちゃんのにいちゃんいくならそれでいいじゃん」
「そうです。おねーさんのおにいさんはへんたいでもけんじゃなのです。ぼでぃがーどならじゅうぶんです」
「いやぁ、カリスはなぁ……素が出るとボディガードには見えないから」
妹と話している間はずっとオネエ言葉。妹と行動している間はずっとオネエなしぐさや行動。
どう頑張っても、ボディーガードには、見えない。
さすがに、双子は黙った。可愛い顔を精一杯しかめているが、納得してくれたらしい。
くい、と、ユーヤの袖を引いて、見上げてきた。
「……おにーさん、はやめにかえってきてください」
「にーちゃん、がんばってはやくかえってきて」
「うん。なるべく早く帰ってくるよ」
やばい。可愛い。ぽんぽんと双子の頭を撫でる。
「そしておみやげはゆびわがいいです」
「けっぱんじょうー!」
「ないから」
土産をねだるのなら、もう少し穏便なものをねだってほしい。
「ところでイリック、血判状って、指とか切って血で書くものだけど、俺に指切ってほしいのか? 痛いのは嫌だなぁ」
「えっ。けっぱんじょうってそんないたくておっかねーの!? じゃあいらない!」
「おとーさん……そんなもんをかけっていったですか。あとでちょっともやしていいですよ、イリック」
「そーだな。ぽちといっしょにもやしとく」
「何故に吾輩まで!?」
「「そこにいたから」」
ぽちは通常運転であった。いつものことである。
そうして――久方ぶりの剣を手に、勇者は賢者と賢者の卵と短い旅に出て――そのまま、帰ってこなかった。
そしてこんな展開に。すみませんすみません。