子育て勇者と魔王の子供・85
更新が遅くて申し訳ないです!(ジャンピング土下座)
ゴーン、ゴーン……。
教会の鐘が鳴り響く。
悲しい音は、何度聞いても慣れることなどないだろうと、ユーヤは思う。
ゴーン、ゴーン……。
祈りの鐘が鳴り響く。
皆が祈りをささげるのは、長く教会を支えてくれていた神父へ。
少し体を壊していた神父は、寒くなり始めていたこの季節に、急に倒れて、それきりだった。
ゴーン、ゴーン……。
最後の鐘が鳴らされて、止まった。
双子はユーヤの手を握っている。教会の神父さんとは双子も面識があった。元気よく走り回る双子に、あめ玉をくれたことをまだ覚えている。
「……にーちゃん、しんぷさん、しんだの?」
「……うん」
「おにーさん、しんぷさん、かえってこない、ですか?」
「……うん」
「おかーさんにたのんでも?」
「……そうだよ」
神父さんは高齢だった。どう考えても寿命だろう。いくら死の化身でも、寿命ならどうにかしてはいけない、と思う。
双子は初めての知人の死に、動揺して困惑している。父である元魔王は生き返ったのに、知り合いである神父さんは生き返ることがない。
母が死の化身でも、できることとできないことがあると、理解できるだろうか。
双子はじいっと葬儀を見ている。神父さんが永遠に戻ってこないと、理解してくれるだろうか。
『彼女』がいる。神父さんの棺には身内の人が寄り添うようにしているが、『彼女』は少し離れた場所にいた。誰よりも近くに居たいだろうに、『彼女』はただ、悲痛な光を瞳に宿して、たたずむだけだ。
太古の魔王・ニドヘグ。己を殺す存在である勇者に恋をして、魔王の座を捨てた女。かなわぬ恋を永遠に追いかけて、転生を続ける己の勇者に恋い焦がれ続ける、悲しいひと。
その『彼女』を、賢者カリスが面白くなさそうな目で見ている。そんな兄を、オーラがジト目で眺めているのだが、何故だろう。
ちなみに、背の小さな女性が『彼女』の横にいるが、さきほどから口を開いては閉じる、を、繰り返している。何か言葉をかけてやりたいのだができない、と、言ったところか。
「……しんじゃうって、やだな」
イリックがポツリとつぶやいた。
「……いやです。おにーさん、しんじゃだめですよ」
イリアがすがるようにこちらを見上げてきた。ユーヤは苦笑いを浮かべる。
「……大丈夫だよ。俺は、当分先の話だろうから」
よぼよぼのじいさんになるまで、君たちの傍にいるだろう。
いつか遥か先に死が訪れるとしても、そのときまでは精一杯に生きて、生きて、思い出に笑顔が残るようにしたい。
神父の葬式を見ながら、強くそう思った。
※※※
リーンゴーン……。
教会の鐘が鳴る。
うん、こういうのなら大歓迎だと、ユーヤは思う。
リーンゴーン……。
祝いの鐘が鳴る。
幼なじみのミリーナが、隣村の青年と結婚する。
素敵な笑顔で花嫁衣装をまとっている幼なじみは、とても綺麗だ。
リーンゴーン……。
ブーケが投げられた。
即座にイリアが叫ぶ。
「イリック! どんなてをつかってでもうばいとるのです! あれをとったおんながつぎのはなよめ、すなわちおにーさんのよめなのです!」
「よしまかせろ!」
どんな理屈だ。ブーケを受け取った女性が次の花嫁になれるという言い伝えは確かにあるけれども、イコールユーヤの嫁というわけではない。断じてない。
そして、そうなる現実はまだ先である。
イリックの魔力でイリアの手の中にブーケが落ちる。嬉しそうにはにかむイリアに、ま、いいか、と思った。
教会は『彼女』が次の神父が決まるまで護ることになった。おそらくは神父の娘婿が次の神父になると思う。そうなったら、『彼女』はどうするのだろう。
今、花嫁と花婿を見守り、少しさびしそうに笑う『彼女』の横には複雑な表情をしているちんまい女性がいる。そういう彼女たちを賢者・カリスがなんとも微妙な顔で眺めている。オーラが兄の横っ腹を肘でつついているのは何故なのだろう。
「これでわたしはおにーさんとけっこんできますね!」
「よし! おれとにーちゃんもきょうだいだな!」
嬉しそうにはしゃいでいる双子に苦笑して、頭を撫でた。
そんなにあわてなくても、急がなくても、年月が経過すればいずれはそのつもりなんだけれども。
背後に視線を感じて振り返ると、元魔王夫妻がにーやにやしているのが見えた。また何かよからぬことを企んでいるのだろうか。週に一回はユーヤ、祖父母やオーラに二週間に一回は説教されているというのに、懲りない夫婦である。
※※※
リーンゴーン……。
教会の鐘が鳴る。
祝い事が続いているなぁと、ユーヤは喜べばいいのかちょっと複雑な心境だ。
リーンゴーン……。
祝いの鐘が鳴る。
視線の先には、互いに微妙な表情の新郎新婦。
『彼女』とカリスだ。
リーンゴーン……。
一体何がどうしてこうなった。
いや確かに祝い事なのだから嬉しいんだけれどもどうしてこうなった。カリスと『彼女』は犬猿の仲というかカリスの一方的な知的好奇心というか、え、恋情だったの? と思うような関係で。
それが何が転んで結婚。そしてどうしてあのちんまい女性が教会の陰から歯ぎしりしそうな表情で覗いているのか。
「兄さんおめでとう!」
オーラは満開の笑顔で祝福ムードである。兄が結婚するのだからまぁ、そりゃあ嬉しいだろう。
「ええと……おめでとう」
花嫁に話しかけてみた。嬉しそうというかなんというか、微妙な顔なのはなぜなのだ。
「ありがとう、と言えばいいのかしらねぇ……」
「えーと、いつの間にカリスと?」
「なんでなのかしらねぇ……」
「えええええ」
今この状況でそんなことを言うのか。
「ほんとになんでこうなったのかしら……」
花婿が何かつぶやいているぞ。どういうことだ。
「え、か、カリス?」
「どうしてなのかしらねぇ……ワタシのかわいこちゃんと楽しくおしゃべりしてたら、なんでか気が付いたら横にコイツがいて……ああああ、なんであの日酒なんか飲んだのよワタシ……っ!!」
「この私を酔わせるなんて……あの娘酒になに仕込んだの……おとなしそうな顔してなんて強硬手段……」
ええと。
ユーヤはギコギコときしむネジのような動きで振り返る。兄と義姉を祝福している妹へ。
「……オーラ……?」
「兄さんと気があう相手なんてこの人しかいませんし」
にこやかに、彼女は言い切った。
「あの異常なシスコンの度合いを許してくれる女性なんて、私、お義姉さんしか知らなかったものですから。これはもう、ヤルしかない、と」
何を。どう。
「えーと」
「ええ、まぁ、魔王夫婦のご協力もあってこそ、ですが。ものすごく強力なイロイロ薬をご提供いただきました」
またアンタらか。本当にろくなことしないなオイ。
そしてオーラ、一皮どころじゃなく剥け過ぎじゃないだろうか。開き直りというレベルである。
「いつでも提供するぞ婿殿!」
しゅぱっと手を挙げたのはいずれ義母になる死の化身である。本当に懲りてない。
「要りません」
「まぁまぁ、いろいろあるぞ? 一部分が元気が出るとか、一部分があーしたり、一部分がこーなったり」
と、元魔王が言い出した。
「よし、ちょっと黙ろうか。後で三時間ほど正座させるからな」
とりあえず、また説教しておこう。
もうちょっと頑張って更新しろ!
……へんじがない、ただのしかばねになってしまいそうだ……。