子育て勇者と魔王の子供・82
なんか気が付いたら100話越えてました。お付き合いいただいている方すみませんすみません。ナンバリングが100に行く前に終わらせたいと思ってますがどうだろう(おい)
気長にお付き合いくださると幸いです。
……プレゼントが決まらない。あれだけ大量のお宝をゲットしたが、結局決まらず、オーラの学校資金に回すことにした。あと、教会にも寄付という名目で『彼女』にちょっと強奪された。強奪された後に知ったのだが、実は教会の雨漏りを治したいらしい。それならそう言ってくれたら素直に渡したのに、と思う。余った装飾品は祖母、母、義姉に送った。日頃世話になっているのだから当然だ。
「そういうわけで、また付き合ってくれ」
「今度はナニよ? 魔人との戦闘はもう嫌よ面倒だから」
ユーヤはにこやかにカリスに笑いかける。
「大丈夫大丈夫。魔人との戦闘なんて早々ありゃしないよ」
今度は海辺の洞窟にしよう。旅の途中で見つけたが、潮の関係で入れなかったのだ。カリスの魔法で波を退けたら中に入れるはず。
「俺の魔法じゃ無理だからさ。手伝ってくれ」
「……まぁいいけど」
「ところで、こないだの首飾り、教会のおねえさんは喜んでくれたか?」
「叱られたわよ! こんなに高価なもの持ってくるなって! 何アイツ、本当に太古の魔王なの!?」
そうか。叱られたのか。『彼女』も好きな相手ではない男からのプレゼントに困惑したのかもしれない、と、思った次の瞬間のカリスの言葉に、ユーヤは絶句。
「あげくそのまま教会に寄付されたわ……目の前でね……フフフ」
うん、少し可哀想だと思ってしまった。
※※※
「どういうことよ!?」
「いや、俺も予想外だった」
わらわらわらと湧き出る貝に、ユーヤもさすがに足を早める。そこそこでかい生き物が大群でわらーっとこちらに向かってくる光景は、非常に怖い。
「いやー、まさか人食い貝の住処だったとは」
「アンタワタシを殺す気でしょ!? 絶対殺す気よね!? というか、何よ嫌がらせならそうとはっきり言いなさいよ!?」
「違う違う。俺も本当に予想外なんだって!」
奥まで進んだら、来た道から人食い貝たちが沸きだしたのだ。波の間から、人間の体温か何かを察知して湧いて出てきたのだろう。
「カリス! 任せた!」
「ちょ、アンタも働きなさいよ!?」
「働く働く。だから詠唱よろしく!」
近寄る貝たちは腹が減っているのか素晴らしい速度で迫ってくる。まとめて薙ぎ払いながら、近づかれることを阻む。ユーヤが時間を稼いでいる間にカリスの詠唱が完了。爆炎が大量の貝を薙ぎ払う。
洞窟内が一気に香ばしくなった。
「……なんか、調味料が欲しくなるな」
「アレを食べる気なのアンタ……」
「魔王退治の旅をする間、食べ物に文句なんか付けられないだろ。携帯食がなくなったら、何でも食べないと」
言うと、カリスは可哀想なものを見る目になった。失礼だ。
※※※
そうして、双子の誕生日がやってきた。
「誕生日おめでとう」
祖母がケーキを焼いてくれて、祖父もごちそうを作ってくれた。オーラや兄夫婦も呼んで穏やかな誕生日パーティーを開いた。ぽちは呼ばなくてもいる。
ちなみに、父である元魔王は肺炎を起こしてダウン。母である死の化身は、よその国で死病が流行してしまい、また忙しくなって夜遅くまで残業で帰れないらしい。大変だ。
「イリック、イリア、これプレゼント」
「わーい、にーちゃんありがとー!!」
「おにーさん、ありがとうございます!」
手渡したのは、イリアには小さな箱。イリックには幼児の手には少し大きい包みである。
「あけてもいい?」
「いいよ」
キラキラした目で見上げてくる双子の頭を撫でてやりながら、うなずく。
双子はほかの面々がくれたプレゼントには目もくれず、ユーヤのプレゼントから開け始めた。
「お、すげー! なんかたねがいっぱい!」
イリックには畑に植える用の種をたくさん。来年の春、お隣さんの裏手も畑にする予定だと聞いたからだ。息子が畑を作りたいと言い出したので、裏側を耕すつもりらしい。誰が耕すのか――多分、ぽち。
「異国の野菜とかも入ってるよ。頑張って育ててくれな」
「うわー、すげー! おれがんばる!」
魔王なんか目指すより、平穏な農業を営んでほしいとの願いも込めてある。
「にーちゃん、いこくのやさいって、おっきくなったらひぃはいたりする?」
「……いや……怪物じゃないから、火は吐かないと思うよ……」
「え、じゃあ、どくばりもってたりする?」
「……普通に食べられる野菜だから、毒もないと思うよ……」
「えー、つまんねー」
平穏な農家を目指してほしい。切実に。
「……」
イリアが、箱を開けてから動かない。
「イリア? 気に食わない?」
「……おにーさん」
問いかけると、イリアは可愛らしい顔に精一杯の苦い表情を浮かべてこちらを見てきた。
「……しんじゅなのはうれしいのですが、わたしがほしいのはこんやくゆびわです……」
中に入っていたのは、小さな真珠をひとつつけたネックレス。真珠の横には小さなダイヤもついている。
「どうしてゆびわじゃないですか」
「いや、あー、まぁ、ええと」
その真珠の部分が取り外せることはまだ言わない。
大きくなってもイリアの心が変わらなかったら、指輪にできるんだよ、とは、まだ伝えない。
「ネックレス嫌いだったかい?」
苦笑しながら、イリアの頭を撫でる。
「うれしいです、おとなみたいでうれしいです、でもこんやくゆびわがよかったです」
ぷう、と、頬を膨らませるイリア。
「……うん、まぁ、な」
いつか、少し先までお預けなんだよ、とも、今は言わない。
君たちが大きくなるまで、俺は待っているよ。
実はきちんとリクエストを聞いてあげている勇者。意外とマメですな。




