子育て勇者と魔王の子供・81
誕生日。一つ年を取るもの。魔族と死の化身の間に生まれた双子にも、等しく誕生日はあるもので。
あとひと月で誕生日だと、ユーヤは双子から聞いた。自然と、何が欲しいのかという流れになり、訊かれたイリアは天使のように微笑んでおねだりした。
「おにーさん、おにーさん、こんやくゆびわがほしいです」
「……真珠の?」
そう言えば、前何か言っていたなぁと思い出す。
「そうです、えいえんのあいです。ほしいです」
「……えーと」
ねだられたのだが、どうしよう。
イリアが大人になるまでは「お兄さん」でいるつもりだ。双子の両親にも話を通してはあるが、別に婚約などという強引な手を使う気もない。
ただ、穏やかに彼女を見守ろうと思っている。
「……真珠……」
四歳児――いや、五歳になるとはいえ、真珠のリングは高価すぎるプレゼントだろう。まして、婚約指輪がどうとか言っているのだから、誤解されても、困る。正直言えば誤解ではないが、まだまだ幼いイリアが大人になるまでは、なにもしないし、できない。ので、ユーヤは別の方向に話を振った。
「……イリックは何が欲しい?」
「おれ? おれはねー、しろ!」
「し、城?」
予想外の要望である。
「うん! まえいたとこみたいなでっかいしろ! にんげんのおうさまがすんでたしろみたいなのでもいい!」
以前世話になった王城のことか。ショタコン姫や養子を企む王妃のことを思い出すと少し憂鬱になる。
「何で城が欲しいんだ?」
考えてみたら、双子は以前、魔王城に住んでいたのだ。以前住んでいたあのゴージャスさが忘れられないのだろうか。田舎の小さな村でも、結構楽しそうに暮らしていたと思っていたけれども、何か不満があるのか。
「え、まおうになったらしろにすまなきゃいけないから。いまのうちにでっかいしろほしい」
イリックの最近語る将来の夢・牛を飼って畑仕事をする魔王。
「うしのいるぼくじょうとー、やさいとくだものうえるはたけとがいるから、すげーでっかいしろがほしい!」
「…………うん、とりあえず、城が欲しいのは分かったよ」
プレゼントすることは不可能だが。
何か別のことを考えよう、と、ユーヤは気を取り直した。
さて、何を送ろうか……。
「別に婚約指輪でもいいではないか」
と、いずれ義理の母になる予定の死の化身は言い切った。
「むしろ早く寄越せと言いたい。婿に来い。大事にするぞ」
「えーと」
どうリアクションしろというのだろう。大事にするってなんなんだ。死の化身に大事にすると言われても怖いぞ、いろんな意味で。
「ダイヤでもルビーでもなんでもいい。とにかく決定的な事実を作ってくれ。私は一刻も早く君にお義母さんと呼ばれたいのだ!」
「あと十年は待ってください」
なんでこんなに気に入られているのだろうと思いつつ、ヒートアップされても困るので冷静に告げると、未来の義母はスネた。
「むう……これはあれだな。やはり旦那をせかして成長薬を作れと」
「止めてください。精神の成長がなければ同じことです」
外側だけ大人になって、精神が子供のままでは、結局は子供と同じなのだ。ちょっとドキドキクラクラするかもしれないが、手を出したら犯罪なのは変わらない気が、する。
「そうか……君は幼女趣味の変態ではないのだったな」
「断じて違います」
「しかしだな、もういいじゃないか、婚約で。そして私をお義母さんと呼んでくれたまえよ」
「…………いずれ呼びますよ。十年くらいあとに」
「……今が良い」
「……十年くらいあとです」
「…………強情な」
ち、とか舌打ちされて苦笑する。違う意味で姑に苦労しそうな予感だった。
何がいいかなぁと思いながら、ユーヤは仕舞い込んでいた剣を背負った。
体力自慢の自分にできるプレゼントと言えば、このくらいしか思いつかない。すなわち、遺跡から何かゲットしてくるという、現地調達。
ただし、この方法は一人だと少し厳しい。ので、心強い仲間を誘うことにした。ちょうどヒマそうだったので。
「カリス、ちょっと付き合ってくれないか?」
「え、なによ、ワタシ忙しいのよ。あの魔王から話を聞きださないといけないんだから」
「女性には力押しだけじゃ駄目だってじいちゃんが言ってたぞ」
「…………どういう意味よ」
「たまにはプレゼントでも送って機嫌を良くしてもらえば、気分も良くなって口も軽くなるんじゃないかな」
ちょっとしたプレゼントくらいでゆらぐ『彼女』ではないことは知っているが、険悪な仲を改善することは可能だろうと、思う。少しでも仲良くなってくれたら良いなぁと思っているのは事実だ。
「魔王に貢ぐ気はないわよ!?」
とか言いつつ、カリスは同行してくれた。意外と気にしているのかな、と、ユーヤは内心で苦笑した。
しばらく進んで――カリスに文句を言われた。
「ちょっとアンタねえ、なんていうところに連れてくるのよ!?」
「いや、未踏破の遺跡があるって思い出したからつい。魔法使えないと入口開けられなかったし」
「だからって怪物溢れる場所に連れてくる!?」
「カリスと俺なら大丈夫だって」
言いながら、ユーヤは剣を振る。すぽんと怪物の腕らしきものが飛んだ。相変わらず、祖父から譲り受けた剣は切れ味が抜群だ。手入れを怠ってはいないが、どれだけ戦闘を重ねても刃こぼれしないのは素晴らしい。
「まぁ、アンタとワタシなら大概の怪物は敵じゃないけど……面倒なのよねぇ」
と、言いながら、カリスは魔法で怪物の群れを一薙ぎする。
「魔法上手いよなぁカリス。やっぱり賢者ってすごいな」
「勇者のくせになんで魔法使うの下手なのよアンタは。ワタシはそっちのほうが不思議だわ」
とか言いながら、勇者と賢者の二人連れは、ずんどこ遺跡を踏破していった。
戻ってこれたのは夜だった。
「魔人が眠っていた遺跡だなんて聞いてないわよ……」
「言うの忘れてた。魔人が封印されてたとこだったんだ」
「遅いわよ!」
「いやでも俺もあんなにたくさんいるとは思ってなかったよ……」
疲れてへとへとだ。最深部に魔人と名乗る強力な怪物がいるというのは聞いていたのだが、数が多くて参った。魔人だ魔人だ魔人だと、わらわらいたのだから。
『俺が魔人の中で二番目に強い!』『いいや俺が二番目に強い!』『いや俺が二番目だ!』……妙に二番目にこだわる連中だった。一番目に強いと言うと何かマズイことでもあるのか。
ぼこぼこにしたら『俺は二番目に弱いから!』『いやいや俺のほうが二番目に弱い!』『何いってんだ俺のほうが二番目に弱い!』とか言い出して、我先にと魔界に繋がるゲートへ逃げた。かなり強かったのだが、自分たちより強い存在には性格的に弱かったらしい。
ゲートを破壊したので、もう悪さをしに来られまい。あれを封印した昔の魔術師、すごいな、と、思った。
「ワタシ帰って寝るわよ……ヘトヘトなんだから」
「あー……付き合ってくれてありがとな。お疲れ」
とりあえず、プレゼントは確保した。
太古の魔術書とか、宝物とか、高価なものもかなりあった。魔人どもがため込んでいたのか奪ったのか。あとはこれらを吟味して、五歳になる双子にふさわしいものを選ぼう。
喜んでくれるだろうか。気に入ってくれるだろうか。
不安に思いながら、ユーヤは家路についた。
プレゼント大作戦。豪快です。




