子育て勇者と魔王の子供・10
……二度目の襲撃は、また薪拾いの最中だった。
四足の魔物。昨日会って、子供たちに一撃され、ユーヤに吹き飛ばされたアイツである。
「王子と姫を渡せ!」
「またお前か。回復早いな」
「回復能力は高いのだ。それはともかく、王子と姫を渡せ!!」
「いや、なんでイチイチ俺に言う?」
勇者のユーヤにいちいち報告にくるかのように双子を渡せと言い放つ魔物。こいつが双子を利用しようとしているのは分かるが、バカ正直に渡せと言ってくるのは何故なのか。
「お前が頷かないと王子も姫も来ないだろうが」
「は?」
「そもそも、魔王の敵の勇者であるお前に、どうしてあんなになついているのだ!?」
……言われてみれば、どうしてだろう。双子は魔王の子供で、魔王を倒しに来た勇者であるユーヤになつくのは、違和感がある。最初から、なんとなく、警戒心なくついてきてくれて、ユーヤのほうもなんとなく、保護者になってしまっているのだが、厳密に言えば、敵と考えておかしくない。
「……なんでだろ?」
自分で首を傾げてしまうユーヤだ。
ユーヤは、いくら魔王の子供であっても、子供は子供なので、放っておけなかった。あのまま双子を方って置けるほどひどい人間ではないつもりだ。
しかし、子供たちのほうはどうか。
父親である魔王の遺言だから、ユーヤについてきたのか。もしそうだとしたら、大層素直なことである。素直に父親の遺言に従うのなら、立派な魔王を目指してしまう。問題だ。勇者としては止めなくては。子供ら可愛いし、素直に良い子に育てたいし。
「……うん。やっぱ駄目だ。魔物には渡せん。つーわけで、却下。去れ」
「ふ、ならば実力行使!!」
魔物は背中の毛を逆立てる。ユーヤは既に剣を抜いていた。
「話が通じなければ実力行使か? まぁ、子供たちを無理に連れて行こうとしないのだけは感心だが」
「ふ。王子と姫は怖いからな」
魔物は、自信満々情けないことを言い出した。
「魔王の御子だぞ、力だって尋常じゃないのだ! 消しクズにされたくないからな!」
「あー、そーかい。で、勇者の俺は怖くないと」
「はっはっは、魔王様と一対一で戦おうとしていたお前を? 怖いに決まっておろうが! 昨日は一発で吹き飛ばされたしな!!」
怖いのかよ! と、思わず胸中で呟いた。よく見てみれば、わずかに震えている魔物である。背中の毛が逆立っているのは、ひょっとして怖気づいているのか。
弱いものいじめをしている気がしてきた。
「……あー……もー、いいよ。行けよ」
「ぬ? 何故だ」
「ぴるぴる震えて言われても……いじめている気がしてきたし」
こいつ、ひょっとして弱いから魔王の子供たちを手中にしておきたいのだろうか。
双子の保護者としていばりたい、と。
「……情けないな……」
「ぬぐぅ!? な、なんだと!?」
「子供の陰に隠れていばっても、情けないだけだぞ」
「ぐふぉう」
かいしんのいちげき! 魔物にくりてぃかるひっと! こうかは抜群だ!
心に大ダメージを食らって呻く魔物に、ユーヤは畳み掛ける。
「とにかく、あの子らは俺が預かった。魔王の遺言だし、大事に育てる。ただし、真人間……いや、真魔物……? ええと、良い子に育てるから」
「く、魔王の後継者を良い子にだと!? 貴様何を考えている!?」
「いやだから、二人とも良い子だし。そのまま育てるだけだ」
「そんな馬鹿な真似はさせん!! 王子と姫を」
「あー!! またきたぞ、あのまもの!!」
「おにーさんからはなれなさい!!」
こどもたちのいちげき! つうこんのいちげき!! けものまものをやっつけた!
「……あのさ、今日のところはもういいから、帰れ」
「…………うううう」
「君達も、すぐさま排除しようとしないの」
「えー。だってにーちゃんおそわれてたんだろ? くわれちゃうぞ」
「食べられない。この程度の魔物にやられる俺じゃないよ。君達のお父さんである魔王と戦おうとしてたんだぞ、俺」
「でも、しんぱいです。おにーさん、やさしいから」
「うん。心配してくれてありがとう。でも、問答無用で攻撃するのはやめようね?」
「うー。うん」
「わかりました……」
「よし。良い子だ。さ、もういいだろ。お前帰れ」
「……ぬぐわ……結構人でなしだぞ貴様……我輩は怪我を」
「すぐ回復するんだろ。回復能力は高いって自分で言ってたじゃないか。それとも、昨日みたいに飛ばしてやろうか?」
「……覚えていろ……」
ずりずりと這いずって逃げていく魔物を、なまぬるい視線で見送り、ユーヤは思った。
もしかして、また来るのか、コイツ。
来るかもねー(ふらぐ)




