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もし応仁の乱が起きなかったら? 〜日本を世界最速の大航海時代へ導く〜  作者: tky
第2章:応仁の融和 〜政争の解きほぐしと「国旗」の制定〜

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第30話:牙を剥く権力者〜空虚な恫喝と大乱の封殺へ〜

細川勝元と山名宗全。


室町幕府における二大巨頭の激怒は、瞬く間に日本全土へ向けた大号令となった。


彼らは諸国に散らばる自らの派閥の武将たちに、緊急の動員令を下したのである。


『幕府の一部が利権を独占し、天下の政を私物化せんとしている。直ちに上洛し、幕府の悪しき体制を正すべし』


大義名分こそ取り繕われていたが、その本質が「海外利権の強奪」と「潰された面子の回復」であることは誰の目にも明らかであった。


「また戦が始まるんやろか……」


「細川様も山名様も、えらい剣幕で諸国に触れを出したそうやで」


京の町衆たちは戸板を固く閉ざし、不穏な空気に怯え始めていた。


史実において、この美しい都を百年続く戦国時代の火の海に沈めた『応仁の乱』。


その発端となる巨大な軍事衝突が、いよいよ現実のものになろうとしていた。


***


室町第の広間。


重苦しい空気が立ち込める中、大御台所である日野富子は上座に座り、細川と山名からの使者と対峙していた。


御簾の奥、薄暗い影の中には、いつものように質の悪い木綿の着物を着た薫子が、気配を完全に殺して控えている。


表向きはただお茶の支度をするだけの小間使いとして、背景の一部になりきっていた。


「御台所様。我が主君からの要求はただ一つにござります」


細川家の使者が、傲慢な態度で書状を突き出した。


「大内や畠山、斯波らが独占している南海の利権と堺の造船所。ならびに、北の海から未だ戻らぬ足利成氏と上杉の極東利権についても、すべて細川と山名の両家へ即刻引き渡していただきたい。さすれば、我らは矛を収めましょう」


使者はそこで言葉を区切り、ニヤリと冷ややかな笑みを浮かべた。


「すでに我が主君の号令により、諸国から大軍が進軍を開始しておりまする。その数、合わせて十万にも届きましょうぞ。もしこの正当なる要求を拒まれるというのであれば……我が主君も、血気盛んな十万の兵を抑えきれる自信がござりませぬ」


それは明確な恫喝であった。


圧倒的な軍事力を背景にした、幕府に対する完全なクーデターの予告である。


普通であれば、顔面を蒼白にして震え上がるか、慌てて要求を丸呑みするしかない絶望的な状況だ。


しかし、富子は気怠げに煙管をふかし、紫色の煙をふうと使者の顔に向かって吐き出した。


「……十万の兵、ねえ」


富子は少しも動揺する様子を見せず、ただ退屈そうに扇子を弄っている。


「威勢がええのは結構やけど。そないな大軍、ほんまに都へ集まれるんやろか?」


「なっ……! 我が細川と山名の威光を疑われると申すか!」


「上様にもお伝えしておくわ。返答は追って沙汰する。下がれ」


富子の冷ややかな一瞥に、使者はそれ以上言葉を続けることができず、忌々しげに頭を下げて立ち去っていった。


***


使者の姿が見えなくなり、襖が完全に閉められた後。


広間に残されたのは、富子と、御簾の奥に控える薫子の二人だけとなった。


「行きよったな。それにしても、十万の兵やて。あの阿呆ども、本気で京の都を焼き尽くすつもりやで」


富子が煙管を灰吹にカンと打ち付ける。


「お戯れを、富子様。彼らがいくら大声で号令をかけようとも、都へ向かうための銭も、兵糧を運ぶ馬借も、すでに彼らの手には届きませぬゆえ」


薫子は影の中から、幕府の裏の金庫番としての冷徹な顔で告げた。


「ふふっ、それもそうやな。ほんまに、お前は恐ろしい相棒やで」


富子と薫子は顔を見合わせずとも、声を忍ばせて笑い合った。


薫子の脳裏には、すでに完全に組み上がった狩りの絵図面が広がっていた。


十万の兵が集まる?


そんなことは絶対にあり得ない。


『彼らはまだ気づいていないのよ。戦をするための「銭」も「物流」も「労働力」も……私が幼少期から何年もかけて、すべて彼らの手の届かないところへ隠してしまったことに』


土倉の掌握。馬借の囲い込み。そして、戦よりも安全で実入りの良い「足軽のホワイト雇用」。


武力という過去の時代の遺物で、経済と物流という新しい時代の力に挑もうとしている愚かな大名たち。


『さあ、ここからは狩りの時間よ。まずは、あなたたちの空虚な動員令が自らの重みで崩壊していく様をたっぷりと見せてあげる』


薫子は無表情のまま、底知れぬ暗い愉悦を噛み締めた。


『そして……それでも暴発し、這い出てくる残党どもには、一切容赦しない』


無血で綺麗に終わらせるつもりなど、毛頭なかった。


時代の理を理解しない愚か者たちには、最新の牙をもって絶望的な血を流させ、二度と逆らう気を起こさせないほどの恐怖を骨の髄まで刻み込んでやらねばならない。


薫子は静かに姿勢を正し、次章で幕を開ける「大乱の完全封殺」へ向けて、冷酷な経済封鎖のスイッチに指をかけた。

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― 新着の感想 ―
丁度同じ頃遠く欧州の絶対王政の萌芽が芽生え始めたフランスでは 遍在する蜘蛛王が突進公率いる公益同盟と諸侯減殺の闘いを繰り広げてますね 御所巻に留まけば良いものを軍事蜂起に進むとは万人恐怖をもう忘れたら…
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