表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もし応仁の乱が起きなかったら? 〜日本を世界最速の大航海時代へ導く〜  作者: tky
第2章:応仁の融和 〜政争の解きほぐしと「国旗」の制定〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/140

第27話:時代遅れの反乱 〜留守居役の絶望と火器の量産〜

京都、洛中。


主を失ったかのように静まり返る畠山邸の奥深くで、数人の屈強な武将たちが密かに顔を突き合わせていた。


彼らは、当主が「南海交易」という名の金儲けに狂い、海へ出てしまったことに強い不満を抱く、古い価値観に縛られた留守居の家臣たちであった。


「……嘆かわしいことだ。当主様は武士の誇りを忘れ、商人になり下がられた」


首謀者である初老の家臣が、忌々しげに床を叩く。


「我ら武士の本懐は、戦場にて武功を立て、新たな土地を切り取ることにあるはず。得体の知れぬ海の向こうの草の根(香辛料)などにうつつを抜かすなど、正気の沙汰ではない!」


「左様! 今こそ我らが立ち上がるべき時。いずれ細川様や山名様も、幕府のやり口に腹を立てて軍を動かすはず。我らもこれに呼応し、京の中で蜂起して当主をすげ替え、幕府の実権を武力で奪い返すのだ!」


血気盛んな若武者が刀の柄を握りしめて賛同する。


彼らの脳内には、勇猛果敢に兵を挙げ、敵陣を打ち破るという古き良き中世のロマンが渦巻いていた。


「よし。ならば直ちに戦支度じゃ! まずは土倉へ赴き、武具を揃えるための銭を借り受けてこい!」


しかし、数刻後。


土倉へ向っていたはずの使者が、顔面を蒼白にして駆け戻ってきた。


「も、申し訳ございませぬ! 京中のどの土倉を回っても、『幕府の富子様からの裏書なき融資は一切禁じられている』と、すげなく追い返されました!」


「なんだと!? あの銭ゲバどもめ、武士を舐めておるのか! ならば力尽くで蔵を破れ!」


「そ、それが……土倉の周りには、見たこともない筒を持った幕府の警護兵がズラリと並んでおり、手出しできるような隙は微塵もございませぬ……」


初老の家臣はギリッと奥歯を噛み締めた。


「ええい、銭がなくとも戦はできる! 領地から兵糧の米を運ばせろ! 街道の馬借どもに荷車を引かせよ!」


しかし、その命令に対する報告もまた、絶望的なものであった。


「駄目です! 馬借どもは皆、街道沿いの『無料休憩所』から一歩も動こうとせず、『富子様の許可がないと飯が食えなくなる』と言って、我らの荷物を運ぶことを完全に拒否しております!」


「ならば足軽だ! 村々を回り、農民どもを徴兵してこい! 逆らう者は斬り捨てて構わん!」


「そ、それも……村には女子供と年寄りしかおらず、働き盛りの男たちは皆、山科にあるという『幕府直轄の経済特区』へ働きに出ていると……。いくさ場で命を張るより、そちらの方が遥かに実入りが良いからと……」


静まり返る広間。


軍資金もない。兵糧を運ぶ手段もない。そして、刀を握る兵士すら一人も集まらない。


彼らが信じて疑わなかった「武士の権力」が、見えない経済の鎖によって完全に雁字搦めにされ、無力化されていることに、ようやく気がついたのだ。


「……馬鹿な。これでは、まるで手も足も出ぬではないか……」


刀を抜いて集まったのは、広間にいる数十人の身内の武士のみ。


その時、屋敷の門が乱暴に蹴破られた。


「そこまでだ、時代遅れの逆賊ども!」


踏み込んできたのは、重武装した幕府の警護隊と、富子の命を受けた幕府の冷徹な文官であった。


「富子様の命により参った! 貴様らの稚拙な謀反の企てなど、金と人の流れを見れば数日前から全て筒抜けなのだ。大人しく縛につけ!」


抵抗する間もなく、古い価値観に縋った家臣たちは、あっけなく土下座させられ、縄を打たれた。


一度の刀も交えることなく、彼らの反乱は帳簿の上で完全に鎮圧されたのである。


***


一方、京都の南、山科に築かれた堅牢な要塞都市の一角。


そこでは、細川や山名の静観など気にも留めない職人たちが、熱気の中で作業に没頭していた。


「おう! 寸法は絶対にはみ出すなよ! 富子様が定めた『絶対基準尺』から一分でも狂えば、容赦なく作り直しやからな!」


水車を動力とした「旋盤」が甲高い音を立てて回り、青銅の筒の内側を均一に削り出していく。


彼らが極秘裏に量産し続けているのは、統一規格の「改良型火縄銃」と「初期型大砲」であった。


その工房の片隅で、職人たちの働きぶりを静かに見守る薫子の元へ、富子から一通の書状が転送されてきた。


幕府の警護隊が富子へ提出した報告書の写しである。


『畠山・斯波留守居役による謀反の企て、未然に鎮圧完了』


薫子は無表情のまま、報告書を火鉢に投げ入れた。


『当然ね。兵站も金融も富子様の名のもとに完全に握られているのに、気合いだけで反乱が成功するわけないじゃない』


彼女の視線は、次々と組み上げられていく真新しい火器の山に向けられていた。


『細川と山名は、今はまだ大人しく静観している。でも……一年後、船団が莫大な富を持ち帰ってきた時、連中は必ずその富を力ずくで奪いに来る』


薫子は、来たるべき「大乱」の火種が完全に消えたわけではないことを、誰よりも冷静に理解していた。


『いざ連中がパニックを起こして大軍を動かした時、兵糧攻めと合わせて物理的にすり潰すための「暴力」は、絶対に必要になるわ』


薫子は、職人たちの汗と油にまみれた背中を見つめながら、来たるべき一年後の激突に向け、冷徹なまでに防衛の牙を研ぎ澄ませ続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
高師直の滅亡以来家宰不在で幕府直属の軍事力の不足が室町幕府の最大の問題だが 金で雑兵は揃えられるが率いる将はどうしようか 傭兵雇うにしても信用も身分も不足するし 身内の一門で有力なのは細川筆頭に問題児…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ