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第9話 様々な種類の回復魔法を反転させて

 馬車はしばらく走ってから、雑に止まった。


 すると少しして、馬車に掛けられていた黒い布がまくられ、俺を馬車に投げ入れた男が鉄格子の扉を開けた。


「ほら、降りろガキども! ちんたらすんなよ!」


 男は大声で怒鳴るように言ってきたが、子供たちは男のことが怖いのか震えて立つことができなくなっていた。


 そして、男はそんな子供たちを見て得意げに口元を緩めた。


 ……子供相手に怒鳴って勝ち誇るって、情けなすぎるだろう。


「フッ、真の悪役は無駄に子供たちを怖がらせたりはしない。所詮は小悪党ということか」


「ああ? 何か言ったか?」


 おっと、つい独り言が漏れてしまったようだ。


 俺は口元を塞いでから、軽やかな足取りで男の元へと向かう。そして、警戒心を抱かれないように無垢な表情で男を見上げた。 


「ねぇ、本当にここにお父さんとお母さんがいるの?」


「あ? ああ、そうだな。そのうち親が迎えに来るから、ガキたちと仲良くしてろ。ここにいるだけじゃなくて、もっとたくさんお前らみたいなやつらがいるからな」


「他にもいるの? ここにいるここにいるだけじゃないんだ」


 俺が首を傾げていると、男は面倒くさそうに舌打ちをした。


「ああ。お前と同じように金持ちのガキたちがいるんだよ。おら、分かったら、サッサッと降りろ。後が詰まってんだろ」


 男はそう言うと、俺の腕を掴んで強引に檻の外に連れ出した。


 俺は男の引っ張られた勢いでふらつきながら、馬車を降りて数歩歩く。


 あたりを見渡すと、そこは山奥の廃れた何かの工場の跡地のようだった。なるほど、こんなアジトにおあつらえ向きの場所があったのか。


 ダーティ家男爵領は無駄に広くて山が多い。多分、ダストたちも領地全てを捜索するのは無理だと思う。


 さすがに、こんな場所に隠れられたら見つけられないよな。


「よくこんな場所を見つけたものだ。ここが貴様らのアジトというわけか」


 俺が普段通りの声色でそう呟くと、男が不機嫌そうに右手で剣を引き抜いて切っ先を俺に向けてきた。


「おい、クソガキ。口の利き方には気をつけろ。俺たちはいつでもお前の命を終わらすことができるんだからな」


 剣を構えた男の構えは、あまりにも隙があり過ぎた。


 そして、その構え方からろくに剣の修行をしていないことはすぐに分かった。


 ただのごろつきが刃物を手にして、強くなった気でいるだけ。そんな印象を受けた。


 俺はあまりにも残念な男の構えを前に、思わず笑ってしまった。


「俺の命を終わらす? フッ、貴様ごときがか?」


 俺が不敵な笑みを浮かべると。男は気味の悪いものを見るような目を俺に向けてきた。


「なんで剣を向けられ余裕そうなんだよ。なんなんだ、おまえは」


「言っただろ? ダーティ家の長男だよ」


「は? ダーティ家!? あの神童って呼ばれてるガキか!」


 男は俺の名前を聞いた途端、緊張したのか体を固くさせた。

 

 そんなに固くなった体でまともに動けるはずがない。


 俺は魔力を体に巡らせて身体強化をして、一気に男との間合いを詰めた。そして、剣を握っている右腕にそっと触れる。


「は? な、なにしてーー」


 それから、男の右手に反転させた回復魔法をかけた。いつも修行で自分の腕にかけている時よりも数倍魔力を多く込めて、瞬発的に男の体内に魔力が流れるように魔力を調整する。


「……『反転』」


 ブシャアアッ!!


「ぐあああ!」


 すると、男の右手は剣ごとゴトッと音を立てて地面に落ちた。男は切断された右手を押さえて、脂汗を垂らして足元に転がった。


 俺は感心するように小さく声を漏らす。


「ほう。まさか、腕が切断されるほどとはな。これは少し驚いた」


 深めの傷を負わせようとは思ったが、まさか骨まで断ち切るとは思わなかったな。


 やっぱり、魔法も剣と同じで実践で経験を積む必要がありそうだ。


「ん? なんだ。この剣はいらないのか?」


 俺が冷静にそんな分析をしていると、地面に転がっている男はすぐに立ち上がろうともせず、剣も拾おうとしなかった。


 俺は男の代わりに剣を剣を拾いあげ、剣の先と刃の部分を見つめる。


「見るからに安物か。手入れもまともにしていないみたいだな。まぁ、俺が使えば安物も業物になるがな」


「あああああ!」


「おい、少しうるさいぞ……反転」


 俺は男のうるさい声に顔をしかめ、さらに男に反転させた回復魔法をかけた。


 といっても、さっきのように腕を切断するタイプの回復魔法ではない。


 回復魔法にはいろいろな種類がある。そのうちの一つを試してみようと思った。


 酸素カプセルなどに入ると疲労の回復などが早まると聞いたことがある。実際に、回復魔法でもそれと似たようなものがある。なので、今回はその状態を反転させて、低酸素状態を無理やり作ってみた。


 すると、反転させた回復魔法を食らった男は、徐々に焦点が合わなくなっていった。


「あっ、あっ、あっ」


 そして、最後はそのまま気絶してしまった。


 俺は男から奪った剣を肩に担いで、腕から大量の血を流している男を見下ろす。


「気を失うのに数秒かかったか。まぁ、このくらいはかかるものか」


 実戦形式で反転させた回復魔法を使ったのは初めてということもあり、まだまだ改良点がありそうだ。


 さすがに、護衛兵にここまでのことをするわけにはいかないし、こればっかりはしかたがないだろう。


 俺がそんな分析をする中、男は気を失っているのに小さく痙攣し始めた。


 俺はそんな男を見下ろしてため息を漏らす。


「少しくらいは痛い目を見るんだな……と言いたいところだが、止血くらいはしておいてやるか」


 俺はそう言って、男に右手を向けて回復魔法をかけた。すると、男の傷口がふさがっていき、流れ出ていた血がぴたりと止まった。


「フッ、真の悪役は無駄な殺生はしないからな」


 俺が格好をつけてそう言うと、どたどたとこちらに足音が聞こえてきた。そして少ししてから、御者がこちらに顔を覗かせた。

 

「お、おい。今の音はなんだ? って、うわ! ガロイがやられてんじゃねーか! お、おまえがやったのか!」


 御者は倒れている男を見てそう叫んでから、すぐに俺のことを強く睨んできた。


 普通、十歳の男に輩がやられるとは思わないだろうが、今はガロイという男から奪った剣を肩に背負っているし、そういう反応にもなるか。


 俺はそう考えてから何でもないように口を開く。


「ああ。少し痛い目を見てもらった」


「クソガキが……舐めやがって!」


 すると、御者は腰に下げていた剣を引き抜いて剣を構えた。しかし、さっきのガロイという男以上に構えがなっていない。


 俺は右手を御者に向けて不敵な笑みを浮かべる。それから、俺は回復魔法を反転させた。


「剣で相手をするまでもないな」


「は? おまえ、何してーーえ? うええええ!!」


 すると、反転させた回復魔法を食らった御者は、突然真横に倒れてゲロをぶちまけた。それから、何度も立ち上がろうとはするが、よろけて上手く立ち上がれなくなった。


 どうやら、反転させた回復魔法が成功したようだな。


 アルコールや乗り物酔いをしたときに掛ける酔いを醒ますための回復魔法。それを反転させて、三半規管に誤った信号送り続ける魔法をかけた。


 その結果、バランスを失って地面に倒れてしまったのだ。


 ……まさか、ゲロをぶちまけるとは思わなかったがな。くっさいな、おい。


 俺は鼻を押さえながら、強者感をあふれ出すように余裕のある笑みを浮かべる。


「どうだ? 無理やり酔わされた気持ちは?」


「こ、殺さないで」


「安心しろ。無駄な殺生はしないさ。俺は真の悪役だからな。しばらくはまともに歩けないだろうから、そこで大人しくしていろ」


 俺は御者にそう言って、その場を去ろうとした。すると、御者は体を引きずって近づいてくると、焦点の合わなくなった目をこちらに向けてきた。


「お、おまえはっ、何者だ」


「俺か? 俺はダーティ・ヴィラン。真の悪役を目指す者だ」


 俺は声高々にそう言ってから、他の組織の組員がいるであろう工場跡地へと向かっていった。


 ようやく、悪役らしく暴れることができる。


「俺よりも上だと思っている悪役どもよ。すぐにどっちが上か分からせてやる!」


 俺はノリノリでそう言ってから、大事なことを思い出して慌てて馬車に戻っていった。そして、馬車で震えている子供たちにピシッと指をさす。


「危険だから外には絶対に出てくるなよ。俺が全て片付けてくるから、安心してそこで待っているがいい。くくくっ、分かったか?」


 すると、誘拐されてきた子供たちは何度もコクコクと頷いた。俺はそんな子供たち反応を確認してから、再び工場跡地に向かって歩き出した。


「フハハハハハッ、真の悪役のお披露目だ!」


「私たちを助けてくれた……ヒーローだ」


 一瞬、馬車の方からそんな声が聞こえた気がした。


 ヒーロー? 何かの聞き間違いだろう。これほど悪役らしい悪役はそういないしな!


 俺はそんなふうに考え、工場跡地に突っ込んでいった。


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