第8話 反政府組織との接触
リーエから反政府組織がダーティ家の領地にいると聞いた晩。
俺はこっそりと屋敷を抜けて、ランタンを片手に領地の端にある小さな村に来ていた。
ダストたちは反政府組織の目撃情報を集めるために、人が多くいる場所を捜査しているらしい。
それなら、俺はあえて人が少ないところを捜査した方がいいだろう。ダストたちが探しても見つからないということは、人が多いところにはいないわけだし。
ダスト曰く、元々ダーティ男爵領は隣のウィナン伯爵の領地だったらしい。しかし、領地が広いことや街から離れすぎていることから、今の領地を譲り受けたとのことだ。
リーエの話によると、反政府組織は貴族の子供たちを誘拐して身代金の要求や、自分たちに都合のいいように貴族たちを動かしているらしい。
ふむ、非常に小悪党らしい動きをするじゃないか。真の悪役が軽く屠る相手としては悪くはないだろう。
おそらく、栄えているウィナン伯爵領から貴族の子供たちを誘拐して、ダーティ男爵に運んできているのだろう。
だから、この辺でうろついていれば上手く俺も誘拐してくれるんじゃないかと思ったのだが……。
「さすがに露骨すぎたかな?」
俺はちらっと着てきた服と首元を見る。
普段パーティなんかで着るような一張羅に、ミリアの部屋にあった首飾りを三つ首から下げてきた。
成金坊ちゃんスタイルにしてみてこの辺を歩き回っているのだが、中々反政府組織に声をかけてもらえない。
せっかく意気揚々と屋敷から出てきたのに、手柄なしじゃつまらないぞ。
俺がそう考えていると、遠くから何か音が聞こえてきた。
「これは……馬車の音か?」
馬車の音が聞こえた方に近づいていくと、ウィナン伯爵領の方から二台の馬車がこちらに向かってきていた。
わざわざこんな夜遅い時間に荷物を運ぶか? 栄えている街があるのなら分からないが、男爵領に荷物を運んでくるには少し遅すぎる。
「どれ、一芝居うってみるか」
俺は咳ばらいを一つしてから、わざとらしく息を切らして駆け出した。俺が馬車に手を振りながら近づいていくと、馬車は徐々に減速して俺の近くで止まった。
馬車には人相の悪い御者が乗っており、御者は俺を見定めるように見てからニヤッと笑った。
「ほう、良いところのガキみたいだな」
すると、止まった馬車の中から一人の男が下りてきた。
「おい、何勝手に止まってやがんだ。途中何があっても止まるなって言われてんだろ」
「見てみろ。それなりの格好をしたお坊ちゃんだぜ。こいつを乗せて帰れば、色々弾んでくれんじゃねーか?」
「ほう……なしじゃねーな」
すると、馬車から降りてきた男も俺を見て悪巧みをするかのような笑みを浮かべた。
ちらっと二人の腰のあたりを見ると、二人とも帯刀しているのが分かった。。
それにしても、そんなに誘拐する気満々なのはどうなんだ?
俺は男たちの言動に呆れつつ、何も気づいていないかのように口を開く。
「すみません。この馬車ってどこに行く馬車ですか? 親とはぐれてしまって、近くまで乗せて行って欲しいんですけど。僕、エルス子爵の三男です!」
俺が瞳を潤ませていると、二人の男は顔を見合わせた。
「エルス子爵? 知ってるか?」
「貴族の名前なんか知らねーよ。まぁ、とりあえず乗せてもいいんじゃないか? 空きは十分にあるしな」
「それもそうだ。坊主、乗ってきな。俺たちがどうにかして親に会わせてやるからよ」
御者ではない男はそう言うと、俺の手を引いてもう一台の馬車の方に向かった。それから、馬車に掛けてあった黒い布を捲った。
黒い布の下には側壁や後壁はなく、ただ大きな鉄格子が乗っているだけだった。どうやら、前壁以外の部分はすべて鉄格子になっているようだ。
そこには俺と同い年か、俺よりも年下の子供たちが数人乗せられていた。身なりから察するに、俺よりも上の爵位の家の子供たちのようだ。
……どうやら、ビンゴのようだ。
「ほら、早く乗りな。今更やめるなんて選択肢はねーんだからよ」
男はそう言って鉄格子の扉を開けて、俺を強引にその中に放り込んで、不敵な笑みを浮かべた。
俺は男が去ってから、静かに口元を緩めた。




