第6話 修行の成果と悪役貴族の疑問
回復魔法しか適性がないことが発覚してから、三年後の月日が経った。
俺は今日も今日とて、護衛兵たちと日課の剣の稽古をしていた。
そして、俺の模擬戦の相手はいつも通りルーカスがしてくれている。
「はぁ!」
ルーカスは中段に構えた剣を俺の胴めがけて振り下ろしてきた。俺は魔力を使わずにその剣を受け流す。
すると、勢い余ったルーカスが一瞬ふらついた。俺はその隙を見逃さず、ルーカスの剣めがけて、剣を弾き飛ばすの一撃を繰り出す。
「ふっ!」
「ぐわっ!」
ガギィン!
すると、ルーカスの剣は手から離れ、ガラガラと音を立てて地面に転がっていった。
俺が模造刀を鞘に収めると、俺たちの戦いを見ていた護衛兵たちがワッと湧いた。
「おおっ! 相変わらずヴィラン様は強いな!」
「この前、剣術を教えに来た先生にも勝ったらしいぞ」
「ヴィラン様の名前も有名になってきているしな。百年に一度の天才とまで言われているらしい」
俺はそんな周囲の声を聞いて誇らしく胸を反らす。
剣の腕が立ち、魔力の操作も魔力量も常人ではない。そんなことから、今や俺は神童や天才と言われるようになった。これもすべて幼少期からの修行のおかげだろう。
最近は剣の修行をするときは魔力を使うのをやめるようにした。魔力を使うと模擬戦が今以上に簡単に終わってしまうからだ。
それに、単純な剣の腕を上げるためにも、魔力を使わない状態でも強くならないとと思い、模擬戦中は魔力を使うことをやめるようにした。
しかし、最近では剣の腕が上がり過ぎたせいか、魔力を使わずとも一瞬で勝負がつくようになってしまっている。
ルーカスが弱いわけではないのだが、もう少し張り合いのある勝負をしたいとも思ってしまうことが多々ある。
おっと。そんなことよりも、ふっと飛ばしてしまった剣を取りに行かなくては。
俺が飛んでいった剣を拾いに行くと、すぐにルーカスがその剣を取りに来た。
「すみません、ヴィラン様。わざわざ剣を取ってくださって」
「フッ、大したことではない。気にするな」
「あの、ヴィラン様。俺が相手で修業になっているでしょうか? その、最近ヴィラン様との力の違いがあまりにもあり過ぎる気がしてまして」
ルーカスは申し訳なさそうに眉を下げてそう言った。
あれ? もしかして、自信を無くしているのか。
まずいぞ。今護衛兵たちの中で俺の相手をしてくれるのはルーカスしかいない。他の奴らは俺とやりあうことを極度に恐れてしまっているからだ。
それなのに、ルーカスに相手をしてもらえなくなったら、俺は永遠と素振りしかできなくなってしまう。
こういうときは、何かしら励ましの言葉をかけてやった方がいいのだろう。
いや、ただ励ますだけじゃ悪役らしくないよな。それじゃあ、ただのいい子ちゃんになってしまう。
もっと、投げやりに悪役らしい発言をしないと。
俺はそんなふうに考えてから不敵な笑みを浮かべる。
「力の差を気にするなら埋めてみろ。できないとは言わせんぞ……お前の剣を真似た俺がここまで強くなったのだからな」
「ヴィラン様……あ、ありがとうございます! 俺、もっと頑張ります!」
俺が圧倒的な強者オーラをマシマシで言うと、ルーカスはなぜかやる気に満ちたようにガッツポーズをした。
よっし、これで稽古の相手がいなくなるということはなくなりそうだ。
でも、なんで嫌味な感じで言ったはずなのに、ルーカスは喜んでるんだ?。
「ヴィラン様ってすごい気を遣ってくれるよなぁ」
俺が首を傾げていると、護衛兵たちの方からそんな言葉が聞こえてきた。
気を遣う? 真の悪役を目指す俺がか?
俺は何を言っているのか分からず声のした方に視線を向けた。すると、その発言をした護衛兵の頬に大きな青あざがあったことに気が付いた。俺はその男に近づきながら口を開く。
「おい、なんだそのあざは」
「え、ああ。これですか? いや、昨日酒を飲んだあと階段から滑り落ちまして。え、ヴィラン様?」
「顔をこっちに近づけろ。
俺は屈んだ男の頬に右手をかざして回復魔法を使う。すると、一瞬のうちに男の青あざが消えた。
男は回復魔法をかけらたことに気づいたようで目を見開いた。
「ヴィラン様! 酔って転んだ私に回復魔法をかけてくださったのですか!?」
「フッ、ただ回復魔法の練習台にしてやっただけだ」
俺は悪役のようにそう言ってから、周囲にいる他の護衛兵たちを指さす。
「いいか、今度誰か怪我したら俺のところに運べ。些細な怪我でもだ。俺の練習台にしてやる」
極力色んな症状を治した方が回復魔法の練習になる。そう思って言うと、護衛兵たちは感動したように口元を覆った。
「「「は、はい! ありがとうございます!」」」
そして、なぜか護衛兵たちはバッと俺に頭を下げてきた。
いやいや、なんで練習台にしてやるって言ったのお礼を言われるんだよ。
ありがとうございますっていうのは、さすがにおかしくないだろ。
「れ、礼などいらん。それではな」
俺は護衛兵たちの言動に困惑して、逃げるように自室へと戻ったのだった。
「それじゃあ、今度は日課の回復魔法の修行も始めるか」
自室に戻った俺は、椅子に座って左の袖を捲って修行の準備をしていた。左腕の素肌が見えたところで、右手をかざす。
そして、左腕を傷だらけにするイメージをして、回復魔法を反転させた。
ブシュッ!!
「くっ!」
左腕から血が噴き出るのを確認して、すぐに血が噴き出ている箇所に回復魔法をかけていく。
すると、傷だらけだった左腕が傷一つない状態に戻った。周囲に少し血をまき散らしただけで、他は何も変わりない。
「ふぅ、問題ないな。おっと、リーナが部屋に来る前に飛び散った血を拭いておかないと」
俺は椅子の近くに置いてあるぞうきんを手に取ると、ささっと慣れた動きで床に飛んだ血を拭った。
回復魔法の修行を始めて間もないころ、噴き出した血の量が多すぎてリーナに掃除を手伝ってもらったことがあった。
その結果、本気で自殺を図っていると勘違いされ、二十四時間リーナに監視され続けたことがあったのだ。
今度リーナにバレたらどうなるのか、まるで想像がつかない。
毎日こんな修行を続けたこともあり、今では回復魔法を完璧に極めていた。そして、それを反転する力もある程度は制御できている。
ある程度というのは、まだ最大出力で回復魔法を反転させたことがないから未知数ということだ。
本気の出力で反転させれば自分の腕を切り落とすことはできそうだが、さすがに自分の腕を落とすのは怖い。
誰か反転させた回復魔法をかけまくれる人材がいればいいのだが、中々そんな相手はいない。
俺が全力で暴れても問題ないような相手……悪役、悪役かぁ。
真の悪役を目指すんだと決めたのはいいが、まだ悪役らしいことを何もできていない。力をつけるまでは仕方がないと思っていたが、そろそろ何かしら行動に起こしてもいいころだ。
「悪役……ていうか、なんでダーティ家って悪役貴族って言われてるんだ?」




