第24話 ルルノフ公爵の屋敷に向かう道中
シャルロットからルルノフ公爵の屋敷の場所を聞き出した俺は、シャルロットと共に馬車でルルノフ公爵の元へと向かっていた。
その道中、シャルロットが言いづらそうに口を開いた。
「あの、本当にルルノフ公爵の屋敷に向かわれるのですか?」
「ああ。誰が真の悪なのか教えてやらねばならんからな」
俺の屋敷で好き勝手悪役ムーブをかまされて、このまま黙っているわけにはいかない。
いたずらに挑発してきた分と、アリスたちの仇を払わせないとな。
俺がそんなふうに考えていると、シャルロットが落ち着かないでまた俺をちらっと見てきた。
「ルルノフ公爵の屋敷まで、馬車で数日かかってしまします。その、私もご一緒してよかったのでしょうか?」
「……ルルノフ公爵の屋敷の詳しい場所は知らん。シャルロットがいなくては話にならんからな」
俺がそう言うと、シャルロットは気まずそうにパッと視線を逸らした。
なんかダーティ家の屋敷を出てから、ずっとこんな感じな気がするな。どこからシャルロットの様子がおかしい。
俺は小さく息を吐いてから、ダーティ家の屋敷がある方を見る。
今、馬車を御してくれているのはダーティ家にいる御者だ。だから、アリスがいなくともルルノフ公爵の屋敷に行くことは可能だった。
しかし、あの場にシャルロットを残しておくのは得策ではない気がした。
アリスを刺したという罪悪感のあるシャルロットを屋敷に置いてきたら、罪悪感から色々と喋ってしまうかもしれない。
おそらく、そうなれば実行犯であるシャルロットも軽くはない罰が下されてしまうだろう。
そうならないためにも、ルルノフ公爵の件が片付くまではダーティ家の屋敷から離した方がいいと思ったのだが……間違いだっただろうか?
俺はどこか落ち着きのないシャルロットを見て、そんなことを考えずに入られなかった。
色々考えても仕方がないし、直接聞いてみるか。
俺は咳ばらいを一つしてから続ける。
「シャルロット。お前を連れてきたことに何か問題があるのか?」
すると、シャルロットは声を潜めて続ける。
「問題はないのですが……変に勘違いされないか心配でして」
「心配?」
俺はシャルロットの言葉に眉をひそめる。
勘違いって、なんのことだ?
すると、シャルロットが言いづらそうに口を開く。
「婚約者が倒れている中、婚約者を置いて異性の使用人と数日泊りで出かけるというのは、その、勘違いを生むのではないかと」
「……ん?」
「御者の方以外にはルルノフ公爵の屋敷に行くことも告げていませんし、リーナ様も心配されてるように見えましたよ」
俺はシャルロットの言葉を聞いて、屋敷を飛び出してきたときのことを思い出す。
そういえば、事情が事情だけにろくに説明もせずに飛び出してきた。上手く誤魔化したつもりだったのだが、それがかえって怪しく取られてしまったということだろうか。
婚約者である王女をそのままに、他の女性と馬車に乗って飛び出す子爵家の長男。
これは……想像以上にやってしまったかもしれない。
俺はそう考えながらも、余裕のある笑みを浮かべる。
「フッ、見届け人がいれば何も問題はあるまい。御者がいるのだからな」
アリスが泊まりに来た時に言っていたが、異性で泊まった場合でも見届け人という奴がいれば、不貞行為としてみなされないらしい。
幸い、今馬車を引いている者はうちの者だし、証言者としては十分だろう。
しかし、そんな俺の考えに反して、シャルロットは首を横に振った。
「失礼ですが、御者の方ですと少し弱いかと。執事やメイド長なら問題ないかと思いますが」
「フ、フッ」
俺は余裕のある笑みを浮かべようとして、思わずその笑みが上擦ってしまった。
まじか、見届け人に弱い強いがあるとか知らなかったぞ。
それから、俺は外を見つめながら余裕の表情を崩さずに口を開く。
「安心しろ。考えがある」
「そうですよね。ヴィラン様が何も考えなく動くはずがありませんよね」
すると、シャルロットは安心して胸を撫で下ろしていた。
……正直何も考えられてはいないから、後回しにしようと。
今はそれよりもルルノフ公爵の件を片付けねば。
さすがに、ルルノフ公爵をどうするかは考えてきている。
ルルノフ公爵家の屋敷を襲撃して根絶やしにするのも考えたが、それは少し納金過ぎる気がした。
なので、今回は暗躍する系の悪役ムーブをしてみようと思う。
深夜に悪役の屋敷にこっそり侵入し、悪事の情報を抜き取る。そして、その情報をばら撒くことで、ルルノフ公爵を地に落とす。うん、良い感じの真の悪役だ。
アリスの件があるから直接成敗してやりたいが、それよりも貴族的には立場を失う方がダメージがでかいだろう。
……どこかで、直接やりあう機会でもあればいいんだが。今は自分の気持ちよりも、ルルノフ公爵を失脚させることの方が重要だ。
俺はそんなふうに考え、ルルノフ公爵の屋敷へと向かったのだった。
しかし、その計画はルルノフ公爵家の屋敷に着くなり変更することになる。
「なんだこの人の数は」
数日後、ルルノフ公爵の屋敷には多くの馬車や人の姿があった。




