第23話 仇と悪役のプライド
アリスの殺害依頼を出したのは、ルルノフ公爵家というアリスの許婚候補の一人がいる家らしい。
ルルノフ公爵家はあまり評判の良い家ではないが、裏回しとごり押しでなんとか許婚候補(仮)に入れてもらったとのこと。
王族は許婚候補というものを数人立てるらしく、あくまでその許婚候補の最下位くらいの位置にいたらしい。
しかし、突然ルルノフ公爵家は突然許嫁の解消されてしまった。そして、それを恨んで許婚の解消が世間に広まる前に、アリスを亡きものにしようとしたとのことだった。
どうやら、死別と許婚の解消では、貴族間のイメージが大きく違うそうだ。
そして、その実行犯としてシャルロットの家である、オルガノ侯爵家が依頼されたとのことだった。あの毒付きナイフと共に。
シャルロットの家はその依頼を断ろうとしたのだが、ルルノフ公爵の依頼を断れば、オルガノ侯爵家を潰しにかかる恐れがあるとのことだった。
そして、シャルロットは俺とアレクをアリスの側から遠ざけ、アリスに一服盛って眠らせてから犯行に移ったとのことだった。
シャルロットはそこまで言ってから、ぐっと涙をこらえて眉を下げる。
「でも、アリス様を殺すなんてできませんでした。アリス様は立場が違う私のことを友人として接してくださっていたので」
俺はシャルロットの話を聞いて頬を掻く。
……これって、俺が婚約者になったから許婚が解消されて、その恨みでアリスが刺されってことだよな。
俺は気づかないうちにアリスが刺された要因になっていたらしい。
「まさか、許婚を解消されたくらいで王女を殺そうとするやつがいるとはな」
「王女との許婚であれば色々と顔が利いたり、大きな顔をできますからね。それだけに、解消されたときの反動も大きいかと」
俺はシャルロットの話を聞いて深く息を吐く。
どうやら、俺の想像以上に上流階級の社会というのは大変みたいだ。
それから、俺はふと気づいて声を漏らす。
「ん? アリスを殺す気がなかったのなら、刺す必要もなかったんじゃないか?」
俺がそう言うと、シャルロットは首を横に振った。
「私がやらなければ、圧を掛けられて他の兄弟たちがアリス様を殺すことになったかと思います。私が失敗すれば、今後アリス様に多くの護衛がつきますから、ルルノフ公爵も不用意には動けなくなるかと」
「……初めから失敗するつもりだったということか」
シャルロットは俺の言葉に静かに頷く。
なるほど。だから俺が戻ってきたのを確認してから、 アリスを刺したのか。俺ならすぐにアリスの傷を治せると知っていたから。
「私はオルガノ家の庶子です。私が勝手にしたことにすれば、私一人に責任を押し付けることもできますから」
シャルロットはそう続けてから、俺に深く頭を下げてきた。
「ヴィラン様。なので、どうかわたしを憲兵に突き出してください。おそらく、これがアリスをお守りする一番の策かと」
シャルロットは頭を上げようとせず、俺が了承するのをただ静かに待っていた。
俺はそんなシャルロットを見て眉を下げる。
シャルロットが自分を犠牲にしようとしている。勘違いがあったから色々と話してはくれたが、本来なら真実を誰にも言わずに捕まっていたのだろう。
「……このままでは、ダメだ」
「ヴィラン様?」
俺にはアリスが刺された件や、シャルロットがアリスを傷つけるしかない状況に追い込んだルルノフ公爵家に対する純粋な怒りの他に、別の怒りがあった。
許婚を解消されたという理由で王女を殺す計画を立てて、それを下の者にやらせて自分は手を汚さないという下劣な作戦。
ルルノフ公爵はそんな絵に描いたような悪役ムーブを、真の悪役を目指す俺の目の前でやろうとしやがった。
「認めんっ、俺は認めないぞっ」
前にアリスを助けた時に戦った悪役は、ダーティ家の領地で暴れていたが、ルルノフ公爵は俺の屋敷で俺の目の前で犯行に及ばせた。
どう考えても、真の悪役を目指す俺を煽っているようにしか思えない。これでは、俺よりも自分の方がより優れた悪役だと言われたみたいだ。
気づけば、いろんな感情で気持ちを逆なでられ、強く歯ぎしりをしていた。
すると、なぜかシャルロットが悲しそうな笑みを浮かべていた。
「ヴィラン様っ。私は大丈夫です。ヴィラン様にそのようなお言葉をいただけただけで、十分です」
「……何を言っている? まだ何も終わっていないぞ」
「え、ヴィラン様?」
俺はソファーから立ち上がり、驚いた顔をしているシャルロットに不敵な笑みを浮かべる。
ルルノフ公爵はて俺よりも優れた悪役だと自身を思い込んでいる。
それなら、このルルノフ公爵の考えたシナリオをぶっ壊してやろう。
悪役の計画を軽く台無しにする。これこそが真の悪役ムーブだ。
「案内しろ。誰が真の悪役なのか世間に知らしめてやるっ」
こうして、俺はアリスとシャルロットの仇と、自身のプライドのためにルルノフ公爵の屋敷に向かうことにしたのだった。




