第20話 水魔法の特訓と異変
アリスの水魔法の特訓に付き合って、数時間が経過した。
初めはぎこちなかったが、アリスは徐々に感覚を掴んでいっているようだった。
まだ水の粒は霧吹きというかシャワーのような大きさではあるが、自分から一定の距離がある水の粒を自在に動かすことできていた。
繊細な魔力のコントロールが必要ということもあり、神経も魔力も消費するはず。それなのに、アリスはほとんどぶっ通しで魔法の特訓を数時間していた。
やっぱり、アリスの魔力量は相当なんだな。
設定上は知っていたとはいえ、こうして目の当たりにするとアリスの魔力量には驚かされる。
俺がそんなことを考えていると、アレクさんがタオルを片手にこちらに近づいてきた。
「アリス様。お疲れ様です」
「ありがとう、アレク」
アリスはタオルを受け取り、汗を拭いて息を整えていた。
俺は空が暗くなってきたのを確認して口を開く。
「アリス。ここまでにしよう。この魔法は一朝一夕で扱えるものではない」
「そうですね。今日はこの辺にしておきます。ヴィラン様、こんなに長く特訓に付き合っていただき、ありがとうございます!」
アリスがニコッと笑って俺を見上げてきたので、俺はアリスに不敵な笑みを返す。
「フッ、俺のためにやっていることだ。気にするな」
俺は悪役らしく戦うために色んな魔法を考えてきた。しかし、適性がないので俺には自分で考えた魔法を使うことはできない。
それならせめて、他の人が使っているところを見たい。
自分の考えた魔法を目の前で見れるって言うのは、やはり中二心をくすぐられてテンションが上がるものだ。
それだけに、俺はこの魔法が完成することを楽しみにしている。
「ヴィラン様っ」
すると、なぜかアリスが感動したような目で俺を見つめていた。
……また何か勘違いしているような気がする。
なんだ? 今度はどんな勘違いをされているんだ。
俺が目を細めていると、アレクがアリスからタオルを受け取って口を開く。
「アリス様。客室のご準備を整えていただきました。そちらでお休みください」
「ご案内いたします」
すると、アレクの近くにいたリーナがペコッと頭を下げてそんな言葉を口にした。
ん? 荷物を運ぶ? どういうことだ?
俺が首を傾げていると、アリスは両頬に手を当てて嬉しそうに笑う。
「ふふふっ、明日もヴィラン様と一緒に入れるなんて夢のようですわっ」
客室で休む? 明日も一緒?
俺はそれらの言葉とアリスの表情から、まさかの事態を想像してしまった。
いや、さすがにそれはないだろ。いや、でもなんかこの流れって……。
俺が色々と考えていると、リーナがアリスを連れて客室に移動を始めた。俺は慌ててアリスを制す。
「待ってくれ、アリス。なんの話をしているんだ?」
「なんのと仰いますと?」
アリスは俺の言葉を聞いて、きょとんと可愛らしく首を傾げた。
「あれだ。まるで今日泊まるかのように聞こえたんだが」
すると、アリスは目をぱちぱちとさせてから、何でもないことを言うかのように口を開いた。
「はい。婚約もいたしましたし、数日お泊りさせていただくつもりでしたけど」
「……へ?」
俺が確認のためにアレクとリーナの方に視線を向けると、二人ともアリスと同じような表情をしていた。
あれ? これって、俺がおかしいのか?
交通機関が整っていない世界なら、というか中世ヨーロッパの世界観なら貴族間の交流でこれは普通なのか?
いやいや、仮にそうだとしても男女間でそれはおかしいだろ。
俺はそう考えて首を横に振る。
「た、ただの男女間で泊まるというのは、不貞扱いされるのではないか?」
すると、アリスは胸を反らして誇らしげに口を開く。
「ヴィラン様、私たちはただの男女じゃありません。だって、婚約いたしましたもの。それに、見届け人も連れてきましたし、問題はございませんよ」
「見届け人?」
見届け人って、なんのだ?
俺がぽかんとしていると、アリスが見届け人の説明をしてくれた。
アリス曰く、今回のようなケースでは男女間で不貞行為がなかったかを見届け人を立てる場合があるらしい。
そんな役割の人がいるのかと驚いたが、初めから泊まる気満々だったことにも驚いた。
俺がアリスの説明を聞き終えると、アリスは小さな拳をきゅっと握って俺を見上げた。
「それでは、ヴィラン様。数日間、よろしくお願いいたしますねっ」
あ、アリスがお泊りだと?
一体、どうなってしまうのかーーなどと考えていたわけだが、結果から言うと何もなかった。
そもそも、立会人という見張りがいるわけだし、俗にいうお泊りイベントとはわけが違うのだ。
そんなこんなで泊まっている間は、基本的にアリスの魔法の特訓に時間を当てることになった。
アリスがゲームでまじめな性格なのは知ってはいたが、ここまでアリスが魔法に真剣になるということには驚いた。
理由をそれとなく聞くと、アリスは『ヴィラン様が私のために考えてくださった魔法……ものにしなくては、女が廃りますわ!』と言っていた。
……勘違いではあるのだが、随分と良い方向に勘違いしているようだ。
アリスと魔法の特訓をしていると、ちょうど休憩をしようとしているタイミングで、シャルロットがアリスにタオルを持ってきた。
「アリス様。こちらをお使いください」
「シャル、ありがとう」
俺は同じくやってきたリーナからタオルを持ってきたリーナから受け取り、辺りを見渡す。
しかし、ここ数日ずっとアリスの魔法の特訓を見ていたアレクの姿がなかった。
「アレクはどうしたんだ?」
すると、シャルロットが俺を見上げる。
「アレク様は今朝から体調が悪く、部屋で休んでいます」
「体調が悪い?」
「ええ。ひどい腹痛のようです」
「腹痛か」
アレクさん、何でも完璧そうなのに見えたけど、腹痛で動けなくなるなんてことあるんだな。
俺がそんなことを考えていると、シャルロットが控えめに続ける。
「ヴィラン様。よろしければ、アレク様の様子を見て頂けないでしょうか」
「フッ。どれ、俺の回復魔法の実験台にしてやるか」
多分、アリスが俺と婚約したいと言い出して、色々と動いてくれた疲れが出たのだろう。
苦労した人は労わねばな。
俺はそんな風に考えて、アリスとシャルロットをその場に残してアレクの元へと向かった。
「……おかしい」
そして、アレクが休んでる部屋を出た俺は、眉間に皺を入れてそんな独り言を呟いていた。
アレクのお腹の様子は、普通ではなかった。




