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第19話 便利な水魔法と謎の視線

 客間から庭に移動した俺は、さっそくアリスに自分の考えた水魔法を伝授することにした。


「ここらへんでいいだろう」


 俺がアリスの方に振り向くと、アリスは少しだけ不思議そうな顔で首を傾げる。


「ヴィラン様。一体、どんな水魔法を教えてくださるんですか?」


「フッ、敵の動きの察知、カウンター、防御などあらゆる面で仕える魔法だ」


 俺がもったいぶるようにそう言うと、アリスは前のめりになって俺を見上げる。


「そ、そんな魔法があるんですか?」


「ああ。と言っても、既存の魔法ではないがな。色々試してみたいたが……アリス。水を少量出してみてくれ」


 アリスは頷くと、すぐに右手を上に向けて手のひらから少し離れたところに少量の水を発生させた。


「このくらいでよろしいですか?」


「ああ。それじゃあ、それを霧吹き状にしてくれ」


「霧吹き状……」


 アリスは眉根を寄せてから、右手に力を込めた。すると、アリスの手のひらの上にあった水が雨粒のようになって辺りに散っていった。


 霧吹きにしては大きすぎるな。まぁ、すぐにやれと言われてできるようなものではないか。


 俺がそう考えていると、アリスは眉を下げて肩を落とした。


「すみません、ヴィラン様。まだ精密な魔力のコントロールはできないようです」


「今はそれで十分だ。今度はさっきの雨粒みたいなやつを自分の周りで回してみてくれ」


 アリスは俺の言葉に頷くと、すぐに少量の水を作り出し、それを雨粒のようにして自分の周りをくるくると回していた。


「こんな感じ、ですかね」


 ……動きはぎこちないが、今言われたばかりのことをすぐに魔法に反映できる器用さは大したものだな。


 俺はアリスの作り出した雨粒を見て、素直に感心してしまった。


「さすがだな」


 俺はそう呟いてから、模造剣を鞘から引き抜いて、アリスの作り出した雨粒の一つを切り切り裂いた。


「え? ヴィラン様?」


 アリスは俺の行動を見て、目をきょとんとさせた。それから、俺は模造剣についた水を払い、模造剣を鞘に収める。


「今、水が斬られたっていう感覚はあったか?」


「はい。魔力に干渉された感覚がありました」


「フッ、はやり俺の想像通りのようだな」


 どうやら、俺の考えた魔法はきちんと形になりそうだ。


 あくまで理論と知識だけで想像の上で創った魔法だけに、実際に使えるかどうか不安だったが、アリスの反応を見る限り問題ないようだ。


 それから、俺は腕を組んで悪役のような笑みを浮かべる。


「今はまだ水の玉が大きいが、これを霧吹き状にして自身の近くに纏わせるんだ。そうすれば、そこに入ってきたものの動きを感知できる。そして、相手の筋肉の些細な動きから次の動きを想定して、攻撃を弾くことも、カウンターを叩きこむことも可能だになる」


 アリスは俺の話を聞いて、「おおっ」と感動するような声を漏らした。


「感知する手段として水魔法を使うのですね。そんな方法、考えたこともありませんでした」


 しかし、アリスは少し考えてから難しそうな顔をして眉を下げた。


「確かに、それができればかなり強い魔法になりそうですが、かなりの修行が必要になりそうですね」


「そうだろうな。水の粒も相手に異変を気づかれないほど小さくしなくてはならないし、水を操作し続けるというのは大変だろう。しかし、修行次第では少量の魔力で攻撃と防御を可能にする魔法になるはずだ」


「少量の魔力で……」


 すると、アリスは目をぱちくりとさせてから、ハッとした様子で俺を見た。


「もしかして、私が魔力を隠した状態で戦える魔法を考えてくださったんですか! 私のためにっ」


 アリスはそう言って、キラキラとした目を俺に向けてきた。


 いや、違う違う。さっき、使えない魔法が使えたらと思って色々想像していたと言っただろう。というか、さっき言ったばかりだろう。


 俺はため息を漏らして目を細める。


「さっきの言葉を思い出せば、言わずとも分かるだろう?」


 すると、アリスは満面の笑みを浮かべてて口を開く。


「はいっ!『俺はこの世に生まれてから、ずっと思っているんだ!』ですよね! まさか、私のためにこんな魔法まで考えてくださっていたなんてっ! ヴィランさまぁ……」


 アリスは照れくさそうにくねくねとしてから、うっとりとした目で俺を見つめていた。


 いやいや、さっきの言葉とは言ったが、それだと少し時間が戻り過ぎだ。


 俺はそうツッコもうとしたところで、小さく首を傾げる。


「あれ? 言ってないか?」


 頭の中でごちゃごちゃ考えてただけで、なんでこの魔法を考えたのかは言っていなかったかもしれない。


 まずいな、また変に勘違いさせてしまった。


 俺が言葉を訂正しようかと考えていると、ずいっと俺に顔を近づけてきた。


「弱音なんか吐いてる場合じゃありませんね! ヴィラン様が私に考えてくださったこの魔法、完璧にマスターしてみせますわ!」


 アリスはやる気に満ちた顔で俺を見上げ、嬉しそうに笑った。 


「そ、そうか」


 まぁ、やる気になったのなら、わざわざ訂正するまでもないのかもな。


「……」


「ん?」


 一瞬、どこかから嫌な視線を送られた気がしたが。


 しかし、辺りを見渡しても、そこにはアリスの使用人たちとリーエの姿があるだけだった。


 気のせいか?


「ヴィラン様っ! さっそく特訓を開始いたしますね!」


「ん? ああ」


 それから、俺はアリスの水魔法の特訓に付き合うのだった。



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