第18話 デバフと魔法適正
ロマノフ家には第一王女と第二王女がいる。
王位継承権で言えば、第二王女には継承権はない。しかし、第一王女との力関係が大きく違えば、逆転する可能性もある。
そして、アリスには王位継承権を逆転させられるだけの膨大な魔力を持っている。
そのことがバレた場合、本来はいらない争いが生まれてしまう可能性があるのので、原作の序盤ではアリスは膨大にある魔力を隠して学園に通うことになる。
要するに、アリスは序盤デバフがかかっているキャラなのだ。
そんな王族の機密事項を会って間もない俺が知っていた。そうなれば、これだけ驚かれるのも納得だ。
すると、アリスが控えめにこちらに視線を向けてきた。
「ヴィラン様……いつ頃お気づきになられたんですか?」
「いつ頃か、か」
この情報って、俺が知っているのはおかしいよな。それどころか、変に疑いを持たれる可能性だってある。
どうにか変に疑われず、悪役っぽい返答をしなければ。
俺はそう考えて不敵な笑みを浮かべる。
「フッ、あえて口にする必要はないだろう」
俺がそれっぽく答えると、アリスは少し考えてからハッとして再び俺を見る。
「助けていただいた日、ですかね。魔法は一切使っていなかったのに見抜くなんて……ヴィラン様は本当にすごい方ですね!」
すると、アリスはキラキラとした目を俺に向けてきた。
どうやら、うまく誤魔化すことができたみたいだ。
俺が胸を撫で下ろしていると、アレクが数歩前に出て俺に頭を下げてきた。
「ヴィラン様が聡明なお方だとは聞いていましたが、まさかここまでとは思いませんでした。ヴィラン様、この件はどうか内密にお願いいたします」
「安心してくれ。言いふらすようなことはしない」
俺は軽く右手を上げて、さほど興味がないようにそう言った。
……なんかどんどん株が上がって行ってしまっている気がするな。
このままアリスの魔力の話をしていたら、また変に評価されてしまうと思い、俺は話を戻すことにした。
「それで、なぜアリスはあそこにいた男たちを倒してしまわなかったんだ?」
俺が再びアリスに話を振ると、アリスは眉を下げて口を開く。
「私が魔法を使ったら、他の所で捕えている貴族の子供たちを殺すと脅されていたんです。私が王族ということもありますが、それ以上に私を自由に動かさせないために、私と他の子たちの小屋を分けたのだと思います」
「ほぅ」
俺は腕を組んで眉間に皺を入れる。
人質の中でさらに人質を作っていたということか。
小悪党がするにしては随分と悪趣味だ。そんな悪趣味なことをうちの領地でやるとは……真の悪役を目指す俺に喧嘩を売っているとしか思えない。
「許せんな。今度組織の者たちを見たらただではおかんぞ」
「ヴィラン様。私のために、そこまで怒ってくださるだなんてっ」
俺が反政府組織に対抗意識を燃やしていると、アリスが感極まってように瞳を潤ませていた。
あれ? どこにそんな反応をする要素があったんだ?
俺が目をぱちぱちとしていると、アリスは目元を指で拭って続ける。
「でも、仮に状況が違っていても私では反政府組織を抑え込められたか怪しいところですね」
「怪しい? なぜだ?」
俺が首を傾げていると、アリスはそっと手のひらを上に向けた。すると、アリスの手のひらから少し離れ所にふよふよっと手のひらサイズの水の塊が形成された。
アリスはその水の塊を見て眉を下げる。
「私が得意な魔法は水魔法なんです。殺傷性もなければ、相手を捕らえることも難しいんです。今の私にできることと言えば、水の勢いで相手を攻撃するくらいですし。もっと便利な魔法が得意ならよかったんですけどね」
「……水魔法が便利じゃないだと? 本気で言っているのか?」
「ヴィラン様?」
俺はアリスの言葉を聞いて小さく肩を震わせた。
水魔法なんて、どう考えても当たり魔法だろ! 悪役との相性もよさそうだし、かなり便利な魔法じゃないか!
回復魔法しか使えない俺の身にもなって欲しいというものだ。俺が水魔法が使えたら、水をああやって使ってこうやって使ってーー
そんなふうに色んな水魔法の使い方を考えているうちに居ても立っても居られなくなり、俺はいつの間にかソファーから立ち上がっていた。
それから、俺はぴしっと窓の外を指さす。
「こうしておれん。アリス、庭に行くぞ。今から俺が水魔法のクールな使い方をレクチャーしてやる」
「ヴィラン様、水魔法が使えるのですか?」
「いや、使えん」
もちろん、水魔法なんて適性がないから使うことはできない。
それでも、俺は色んな魔法を悪役らしく使うためにはどうしたらいいかを常に考えていた。
だから、使えなくとも魔法の使い方に関する知識とアイディアがあるのだ。
「え?」
すると、アリスは素で出たような声を漏らした。素直に俺の言っているような言葉に驚いたような表情。
……使えない魔法の使い方を必死で考えてたのが痛いってのはよく分かってるから、そんな目で見ないで。
「さ、先に行く」
俺はそんなアリスの視線から逃れるように、客間を後にしたのだった。




