第14話 フライングヒロインルート
反政府組織からアリスと他の子供たちを救出してから、しばらくの間忙しい日々が続いた。
俺が反政府組織を制圧した後、男たちの処理はアリスの所の騎士団に任せることになった。
制圧した男たちの処理をしてもらったのはありがたかったが……問題はその後からだった。
アリスのところの騎士団長はすぐに俺と共にダーティ家の屋敷に向かい、俺の活躍と勝手に勘違いした雄姿を語り、それを聞いた屋敷の者と両親が感動。
さらに、後日王都に呼ばれて国王と王妃からアリスを助けたお礼を言われ、そのまま今度は助けた有名貴族のたちもふまえてパーティが開かれ、そこでもお礼の嵐。
さらにさらに、何か知らんが国王は俺を非常に忠義高い男だと勘違いして、勲章と土地を強引に渡され、ダーティ家は子爵になった。
……おかしい。ただ小悪党を倒して、真の悪役が俺であることを証明しに行っただけなのに、気づけば爵位が上がったり、王家を含めた有名貴族たちに慕われてしまった。
なんでだ? この国は悪役に異常な憧れでもあるのか?
そんなふうに誤解されながら怒涛の日々を過ごした後、俺はやっと屋敷に戻ることができたのだった。
ようやく落ち着いて修行が再開できる。そんなことに喜んで、俺は今まで以上に修行に励んだ。
しかし、その一週間後にそんな日々以上に驚くべきことが起きてしまった。
「ヴィラン様。遊びに来ましたわ!」
第二王女、アリスがダーティ家にやってきた。
……いやいや、なんで?
ダーティ家の屋敷の門の前には、数台の高そうな馬車が並んでおり、アリスの他に使用人と騎士団の姿があった。
そして、ダーティ家サイドは模造剣を持った俺と、稽古中の護衛兵が数人。
なんかホームのはずなのに、すごいアウェー感を感じる。
色々バタバタとしていたため、アリスとはあまり会話はできなかった。だから、いつかことの詳細を聞ければなと思っていたが、まさかこんな形で再開することになるとは。
俺が突然の事態に何も言えずにいると、アリスが俺の持っている模造等を見て「あっ」と声を漏らす。
「もしかして、剣の稽古中でしたか? それなら、稽古が終わるまでここで待たせていただきますわね!」
アリスは満面の笑みでそう言って、馬車に戻っていこうとした。
いやいや、さすがに王族を外で待たせるなんて無礼すぎるだろ。
「お、お待ちを!」
俺がアリスを呼び止めると、アリスは嬉しそうにこちらに振り向いた。
俺は言葉を続けようとしてピタッと止める。
『王女様を外で待たせるなんてできません!!』なんて言ったら、悪役感なさすぎだよな。もっと悪役らしくぶっきらぼうな感じで言った方がいいのか?
それから、俺はちらっとアリスの周囲にいる騎士団や使用人たちを見て、すぐに考えを改める。
うん。階級社会だからな。子爵が王女にため口なんか聞いたら殺されるだろう。
それでも、必要最低限の会話をする感じのカッコよさは残して………。
「要件はなんでしょうか?」
俺のアリスに対する話し方は、少しだけ淡白な感じ+敬語の喋り方で落ち着いたのだった。
すると、アリスは嬉しそうに口を開く。
「ですから、遊びに来たんです! あっ、それと重要なお手紙をお渡しに来ましたの」
「手紙ですか?」
アリスのすぐ近くにいた使用人は、アリスの言葉の後に背広のポケットから封筒付きの手紙を取り出し、俺に手渡してきた。
封筒にはダストの名前が書かれていた。
「父宛ですね」
「ええ。お父様にもご挨拶をしなくてはいけませんね! 早いうちに式の準備と日取りも決めませんと!」
すると、アリスはウキウキとした様子でそんな言葉を口にした。
挨拶? シキの準備? 日取り?
そのラインナップってまるで……いやいや、まさかそんなはずはない。
俺は一瞬頭をよぎった考えを振り払い、咳ばらいを一つする。
「アリス様。話が見えないのですが、挨拶というのはどういうことでしょうか?」
「アリスだなんて他人行儀ですわ! ぜひ、アリスとお呼びください!」
アリスは照れくさそうにそう言って、上目遣いで俺を見つめてくる。
いやいや、何があったら子爵の家の者に呼び捨てで呼ばせようなんて考えるんだ? 前に助けたから? いや、さすがにそれだけでそうなるか?
だめだ、全く分からん。
俺がしばらく唸っていると、アリスの隣にいる使用人がアリスに耳打ちをする。
「アリス様。まだヴィラン様に重要なことを告げていないのでは」
「そうでしたわ! ヴィラン様、お話があります!」
アリスはハッとしてから、両手を合わせてとても幸せそうな笑みを浮かべる。
「私、お父様にお願いしてヴィラン様を許嫁にしてもらいましたの!」
「いいなずけ? 許嫁……許嫁⁉ え⁉」
「詳しくはそのお手紙に書かれていますわ。後でお父様と一緒にご確認してください」
それから、アリスは俺が手渡された手紙を指さした。
こ、この手紙って、許嫁のことが書かれているのか⁉
まてまて! 一気に話が進みすぎだろ! まだ主人公も登場していないのに、悪役と許嫁になるってどんなクソシナリオだ!
俺が驚きすぎて何も言えずにいると、アリスは俺の手を両手で取ってきゅっと握る。
「ヴィラン様! 私と婚約いたしましょう!」
そして、アリスは微かに頬を赤らめ、満面の笑みを浮かべた。
いやいや、ルート入る前にヒロイン攻略って、そんなのなしじゃね?
こうして、俺は一方的にアリスの許嫁にさせられてしまったのだった。




