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第九話 ……頑張ります

「はいはーい、ざぶんじゃないわよ~。帰るまでが冒険よ~」


 かたやカナヅチ、かたや人一人抱えながら泳ぐ気力もなく、少年たちは水面から伸びてきた氷の手に引き上げられてぴゅるると口から水を吐いた。氷の上にたつクレーがぱんぱんと手を打って鳴らしながら言うのを、今ばかりはごもっともと見上げる。


「アタシって昇格試験の監督だったかしらね~、このクレーさんが延々と荷物番することになるなんて」


「ご、ごめんなさい……」


「ごめんなさい……」


 二人がぐったりしながら返事をすると、クレーはしかたなさそうに片頬を上げて笑った。彼女が二人の頭の上に手を置くと回復魔法が二人に施され、暖かい風がバーンとリアスの衣類を乾かす。


「早く立ちなさい、アタシ、荷物あっちに置いてるのよ~」


 そう言って彼女が親指を向けた方向には、さっきの鳥かごのような水と電撃のカウンター魔法に守られる荷物——いつのまにか、羊水入りのタンクや落とした二人の荷物も回収されている——の山があった。三人が地上に戻ってその鳥かごに近づくと、水の糸は花が咲くように頂点から開いて消える。


「タンクは二人で運ぶのよ」


 クレーはここに到着したときと同じように、ケット・シーの巣にあった荷物を持ってくれる。リアスは自分のバックパックを持ち上げながら、バーンに声をかけた。


「バーン悪い、しばらくタンクを一人で持ってくれないか。すぐ交代するから」


「ああ、いいぜ」


 バーンがタンクを持って、一行はカンタレア宿場町を目指して出発する。リアスは自分の荷物を前抱きにすると、その中から大きな包みを取り出した。こんなときのために昨日作っておいた、栄養満点のサンドイッチである。


 包みを開いて一人もぐもぐし始めるリアスを、前を歩くバーンとクレーが見つめる。


「……な、なに……」


「マナ切れ?」


 クレーが言うと同時に、ぐうぅう、とバーンがお腹を鳴らした。サンドイッチを少しちぎってその口に押し込んでやりながら、リアスはこくんと頷いて返した。クレーは顎に指を添えて、「どのマナ?」とにやにやしながら聞く。


「ええと……全体的にもうなくなりそうだけど、体魔法マナと念動マナを使い切りました」


「バーンちゃんは大丈夫?」


「オレは腹減っただけ!」


「そう! じゃ、ここいらで〝採点〟でもしてみようかしら」


 クレーが言って、後ろ歩きし始める。木の根が這うような足場の悪い地面をひとつも躓かずに進んだ。


「君たち二人とも、マナの量は素晴らしいわね~。初心者じゃキツい魔法を使っても最後までもったし、パワーを出すときと長時間もたせるときの配分もよくやってるわ。だけど警戒心がないし、魔物に対しての知識がないのに力押しで頑張ろうとしちゃうのは悪い癖よ~。逃げながら観察して、その場で作戦を考える余裕を持てるようになりましょう」


 教師のように人差し指を立て、続けて、「どこかのパーティーに入って経験を積むのもありね」と促す。


「おばちゃんと組むのはダメなのか?」


 クレーは、驚いたようにバーンを見つめた。


「おばちゃん、一人で開拓してるんだろ?」


 その瞬間、バーンは股間を蹴り上げられて「ぴ、」と小鳥のような声を漏らしてうずくまった。


「うわ、痛い!」


 涙をこぼしながら患部を押さえて呻くバーンに、リアスまで悲鳴を上げてへっぴり腰になる。


「アンタ、かわいいこと言うから一回は見逃してあげたのに」


「お、おんなのこになっちゃゔぅ~~~……っ」


「次おばちゃんって言ったら本当におんなのこにするわよ」


 まるでマンティコアのような形相で言い、と思えば、話は済んだというようにすっと表情を変える。二人はその変わりように恐怖した。


「アタシ、なんでかパーティーが長持ちしないんだけど、それでもいいの~?」


 今みたいなことがあるからだろうと言いかけて、リアスはギリギリで飲み込んだ。とっさにバーンを見下ろすと、彼が「がんばります……!」と涙声で答える。


(嘘だろ! バーン! よく考えろ! 股間が犠牲になるんだぞ!)


 とは言えないリアスである。


「え~……」


 クレーがちょっとうれしそうな顔をしてリアスに目をやる。


「ッ……がッ……頑張ります……!」


 クレーはその返事にとても喜んで、「宿場町についたらご飯おごってあげる」と上機嫌に約束する。それにバーンがしっぽを振ってついて行くから、リアスはなにかに八つ当たりしたくなりながら二人を追って歩き出した。


(くそう、こうなったらクレーさんの財布の中身を全部使わせてやる……)

 とは言えないリアスである。

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