表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

第一話 バーニングハァァグ——‼

「助かったぜ、ボウズたち。輸送の護衛の依頼ってのは、守りがいのある荷物じゃねぇとなかなか冒険者もうけたがらねぇからよ」


 小さな荷箱を一つだけ馬車に積んだ配達人は、鬱蒼とした森の中に走る細い道に馬を走らせながらため息をついた。


「危険なわりに相場は低い。だけどこの日中にあっちに届けろとか、これ以上の金を冒険者に出すなとか客はいろいろ言うもんだ。届けるのは俺だっていうのによう」


「じいさんもいろいろ大変なんだなー」


 わかったような顔で浅い共感を返すのは、馬車の荷台で手足を投げ出して座る少年だ。黒いインナーの上に半袖のパーカー、サルエルパンツと履きつぶされたスニーカーという格好で、手入れに無頓着な茶髪の一部を頭に沿って編みこんである。

 その隣には、眼鏡の奥の目を閉じて周囲の警戒をしている少年がもう一人座っていた。黒髪をセンターパートにして額を出しており、ノースリーブの白いインナーの上に広い襟ぐりから素肌の肩の見える上着、ハーフパンツにハイソックスと革靴という相方とは対照的にかっちりとした出で立ちだ。


「オレたちもカンタレア宿場町へ向かってたんだ、馬車に乗せてもらえるからじいさんの依頼があってよかったぜ」


「はは、そうかい。そんなら、帰り道もお前たち二人に依頼を出そうかなぁ」


 配達人が半分独り言のように打診すると、目を閉じていたほうの少年がちらりと片目を開ける。彼は、周囲に張り巡らせている感知魔法の制御で集中が必要だった。相方が『お前が決めていい』という視線を送ってくるので、茶髪の少年は唸り声をあげて考え込んだ。


「オレたち、向こうで依頼を受けてるんだ。あっちで冒険するのは初めてだからさ、何日かかるかわからねぇし」


「おれは帰るだけだから、数日なら待ってるよう、ボウズ」


「……んーっ」


 茶髪の少年はままならなそうな声を上げる。有り余るほどいる冒険者にリピーターがつくなんて、実力だけではなく人柄も認められたという名誉なことだ。しかし、二人はさらなる名誉を求めてカンタレア宿場町に向かっているのだった。


「……オレたちも〝開拓〟に参加したいから……」


 しかし気の優しい少年は、「いや! 依頼から帰ってもじいさんが帰れてなかったら、そのときは護衛させてもらおうかなあ‼」と慌てて言い直した。とっさに出たボリュームの狂った大声が、静かな森に響く。


 眼鏡の少年は感知魔法の範囲より遠い場所から地響きのような音が聞こえ始めるのに、げんなりした顔をして目を開いた。


「このバカ」


 茶髪の少年はそれが自分のあだ名だと言わんばかりのスムーズさで振り返った。その前髪に隠れた額を指先で弾かれて、相方が起こっているのに目を丸くする。


「お前の大声のせいで魔物がこっちに気づいた」


「へへー……ごめん、リアス」


 額を弾かれた男の子は、眼鏡をかけた少年のことをリアスと呼んだ。リアスはごそごそと腰につけた小さなポーチを漁って、真っ白い飴玉を取り出す。それを口に放り込みながら立ち上がり、大きな気配がいる方向へまっすぐ両手を向けた。


「おじさん、もっと速く走ってください」


 声とともに、彼の手の中にごぼごぼと音を立てて流動する水の砲弾が生成されていく。配達人が慌てて馬を鞭うって馬車のスピードが上がるのに、彼の白い上着の裾が風にばたばたと揺れた。


「——ヴルルァアアッ!」


 太い腕で木々を押しのけながら、大きな虎のような魔物、マンティコアが姿を現す。魔物が威嚇に前足を持ち上げて体を大きく見せると同時に、リアスは手の中から水で形作られたツバメを何羽も放った。透明なツバメたちはぐんぐんとスピードをあげながらその身を白いもやを上げる氷に変化させ、鋭いくちばしをマンティコアの肉の中に深く突き刺す。


「ガアアッ」


 ひとつのダメージは低いが、体の前面いっぱいに突き刺さったツバメに、マンティコアはその場で体を回転させてツバメを振り払った。しかし攻撃は余計に怒りを煽ったのか、魔物は即座に耐性を立て直すと重たい足音を立てながら馬車へ突進する。

 が、氷のツバメと入れ替わるように馬車から飛び出した茶髪の少年の回し蹴りを鼻に食らい、マンティコアは一瞬意識を飛ばしながらその柔らかくしわしわした黒い鼻から赤黒い血をまき散らした。ただの少年が出せる威力ではない、魔法によってこの二メートル級の魔物にも通用するよう強化された——魔法にしては、脳筋な——技だ。


 ぐらっとよろめいた魔物の毛皮を掴み、彼は身軽に魔物の背に飛び乗った。びくりととっさに体を震わせる魔物を乗りこなしてバランスを取るために片手を上げる。その手の中から、赤い炎が生まれて少年の腕を駆け下りた。


「あッ、まてっ! 燃やすな!」


 荷台の上にいるリアスが慌てて叫ぶも、その直後、茶髪の少年は炎を纏う手で抱きしめたマンティコアを自分もろとも炎に包みこんだ。



「バーニングハァァグ——‼」



「あーあ! もうっ、やめてくれよ」


 相方が観察者羞恥で身悶えしているのも知らず、彼は技名を叫びながら魔物を豪快に焼き尽くす。リアスは配達人の男に馬車を止めるように言うと、急いで燃え盛っている炎のほうへ向かった。マンティコアはしばらく暴れていたが、そのうちにぐったりと黒い塊となって地面に伏せた。リアスは魔物が死んだのを確かめたあと、さっきよりも大きな水の玉を作って、炎の上に放り投げる。

 ざぱあっ、と魔法製の炎は魔法製の水に従順に場所を譲って、速やかに姿を消した。


「ぷはっ」


 真っ黒になってしまったマンティコアの毛皮の上で、服のそこかしこを焦がした少年が顔を上げる。肉体強化魔法によって体は燃えずとも、服はきちんと物理法則に従って燃えてしまうのだ。


「ふう……助かったぜ、リア——」


「バーン!」


 リアスは顔を真っ赤にしながら相方を怒鳴りつけた。


「また変な戦い方を……! それに、技名を叫ぶのは恥ずかしいからやめろってボク何回もいっただろ⁉ もうっ、どうしてあれもこれも燃やすんだよ、マンティコアの毛皮は模様がいいから、町まで持っていったら高く売れたのに!」


「へへ、えへへ……」


 腕を振り回したり頭を抱えてのけぞったり動きのやかましい相方にかわい子ぶった愛想笑いを見せながら、バーンと呼ばれた茶髪の少年はタイミングを見計らってぱっと両腕を広げた。


「でもほら、見てみろよ! 故郷にこんなにデカいマンティコアなんていなかったのに、俺たち簡単に倒しちまったぜ!」


 話をごまかしたいのかとリアスはむうっとバーンを睨みつけた。しかし、純粋に喜びを分かち合いたいときらきら輝く瞳に、思わずほだされてしまう。


「リアス、これならオレたちだって〝開拓〟できるだろ!」


「……ああ、そうだな」


 リアスはもう怒る気もなくして、つられて微笑みながら相方に片手を差し伸べた。バーンはにっかりと笑ってその手を取ろうとする。


 その瞬間、マンティコアとバーンの真下から巨大な口がせりあがってきて、彼はとっさに両足を謎の白っぽい唇に突っ張った。突如現れた深淵に、大きな魔物の死体が土ごと飲み込まれていく。


「うおおおおお⁉」


「ス、スカベンジャーワームだ‼」


 その白いミミズ——故郷では本当に大きめのミミズサイズだった——のような魔物は、スカベンジャーの名の通り魔物の死体を食う生き物だ。本来うじのように死体に這いながら肉をそぐ食い方のはずだが、本当に未開拓地の魔物というのは、規格外なものらしい。


 故郷では、保存用の肉に寄ってくるスカベンジャーワームには弱い雷魔法を放って対処していた。リアスは急いでスカベンジャーワームに両手を向け、手の中にバチバチと弾ける火花を集めていく。


「きゃあ」


 攻撃の気配を感じ取った魔物が一瞬早くばくんと口を閉じて、バーンはワームの口の上で内股になって飛び上がった。そのあと、素早く引っ込んでいくスカベンジャーワームの移動穴に落下しないよう慌てて地面に体を伸ばしてどさりと顔から着地する。


「オレのちんちんある⁉」


 息をつく暇もなく、「うわあぁあ‼」と配達人の男のほうから悲鳴が聞こえてくる。


「知るか!!!!!」


 慌てて駆け戻った二人を荷台に乗せて、馬車は羽を持ったトカゲのような魔物を振り払いながら走り出す。その向かう先には、周囲の未開拓地帯を見下ろすように高くそびえる一対の巨大な赤い岩があった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
戦いの表現が丁寧で読んでて面白いです! キャラクターの性格もわかりやすく描写されており、全体的に読みやすいです! 執筆頑張ってください!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ