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 そうして二人は無言でスタート地点まで戻ったものの、そこにはダヴィドの姿もアリスの姿もなかった。


「戻ってないみたいですわね。もしかして本当に探しに出てしまったのでしょうか?」


 そう言ってシルヴァンの方を見ると、シルヴァンは特に心配する様子もなく答える。


「そうだな、戻ってきていないところを見ると彼らは僕や君がスタート地点に戻るはずはない、と考えたんだろう」


「でも、行き違いになるかもしれませんもの、ここで待ちましょう」


 するとシルヴァンは肩をすくめて言った。


「せっかくこんな楽しそうな催し物を用意したのに? それに、いくら庭が広いとはいえ、きっとどこかで会うことができるだろう」


 シルヴァンはいたずらっぽくそう言って微笑むと、アレクサンドラの手を取った。


「行こう」


 そしてそのまま歩き始めると、アレクサンドラに尋ねる。


「ところで、この最初のヒントをどう思う? 君ならこの屋敷のことを熟知しているだろう。なにかわかることはないのか?」


 強引にゲームを進めようとするシルヴァンに対し、やや呆れつつアレクサンドラは仕方なしに答える。


「そうですわね、この山というのは本物の山ではないのは確かだと思いますけれど、庭師が草刈りの時期に形を少しずつ変えていますもの。(わたくし)にもわからないですわ」


 そう答えて思いつく。客間から見える景色の中に双子の山があったことを。


 あれならば、今日来たメンバーはみんな目にしているはずである。あとはそれに気づくか気づかないかだろう。


「スタート地点にあったんですわ」


 そう言ってアレクサンドラが立ち止まると、シルヴァンは振り返り不思議そうに訊く。


「なにがだ?」


「双子の山ですわ!」


 そう答えると、つないでいたシルヴァンの手を引っ張りスタート地点へ戻った。


「ほら、ここに双子の山が」


 シルヴァンはあたりを見回し困惑した顔で答える。


「いや、ここにはなにも……」


 そう言って地面を見つめハッとする。


「そうか、『陽の光が双子の山を照らしたとき』か! 確かに、この屋根の尖塔が日に照らされて双子の山のような影になっている。だが、影は移動しているから、これでは頂点が定まらないな。一体どこを指しているんだ?」


 アレクサンドラはゆっくりと屋根を指さした。


「頂きとは、きっとあの尖塔の方だと思いますわ。頂きの指す方向とは書かれていませんもの」


 そう答えると、二人は顔を見合わせ頷き急いで階段を登った。


「尖塔は二つある。どっちが正解だ?」


「右側だと思いますわ! 影になったとき右側の方が少し高く見えましたわ」


「そうか、ヒントには頂きと書いてあったな」


 そう言って階段を登り尖塔の見張り台に出ると、そこに小さなテーブルが設置してあり四枚のメモが置かれているのを見つけた。


「見てくださいませ。これはきっと、第二のヒントですわ」


 アレクサンドラがそのメモを手に取り差し出すと、シルヴァンはそれを受け取りアレクサンドラを尊敬の眼差しで見つめた。


「凄いな。君一人でここまで謎解きをしてしまうとは」


「え? いいえ、そんな。(わたくし)はこの屋敷に詳しいですし、この中では一番有利だったと思いますわ」


「そんなことはないだろう。この屋敷の独特な形は一目見れば忘れられるものではない。君はその素晴らしい才能をもう少し誇ってもいい」  


 こんなにシルヴァンが褒めるなんて、なにか裏がありそうだと少し警戒しつつ、アレクサンドラは作り笑顔を返した。


「お褒めに預かり光栄ですわ。ありがとうございます。それより次のヒントを見てみましょう」


「そうだったな」


 そうしてアレクサンドラはヒントの紙を読み上げる。


「『八時を指す輪のクリスマスローズから北へ三歩

』八時を指す? もしかしてこれは方向を指しているのかもしれませんわね」  


「なるほど。この庭の八時の方向に、花壇かなにか花が輪っか状に植えられている場所があるのかもしれないな」


 そう言ってシルヴァンは見張り台から庭の八時の方向を見た。アレクサンドラもそれに続いて横に立つと同じ方向を見つめた。


 先に声を出したのはシルヴァンだった。


「見つけた! きっとあれのことじゃないか?」


「どこですの?」


 そう言ってアレクサンドラはシルヴァンの指差す方向に目を凝らすと、花々が輪になって植えられているのを見つける。


「本当ですわ! きっとあれのことですわね!」


 アレクサンドラが興奮しながらシルヴァンを見あげると、シルヴァンの熱のこもった眼差しにぶつかる。


 それに、互いの唇があと少しで触れてしまいそうなほど近い位置にいた。


 驚いたアレクサンドラは弾かれるように体を離した。


「申し訳ありません。大変失礼いたしました!」


 そう言って頭を下げるアレクサンドラに、シルヴァンは少し照れくさそうに視線を逸らしながら答える。


「いや、僕の方こそ驚かせてすまない。抑えが利かなかった」


 二人はなんとなく気まずくなり、しばらく無言になった。すると、シルヴァンが先に口を開いた。


「とにかく今見つけた花の輪の場所に行ってみよう」


「そうですわね」


 そうして、シルヴァンは嬉しそうに微笑みアレクサンドラの手をつかんで歩き始めた。


 そんなシルヴァンの背中を見つめながら、アレクサンドラはアリスを探さなくてもいいのだろうか? と少し不安になっていた。


 屋敷の外に出てスタート地点を通ったが、やはりそこにアリスたちの姿はなかった。


「ダヴィドもシャトリエ侯爵令嬢もまだ戻ってきていませんのね。本当にどこにいるのでしょう。困りましたわ」


 シルヴァンの背中に向かってアレクサンドラがそう言うと、シルヴァンは興味なさそうにちらりと周囲を見た。


「まだ庭の中で一つ目のヒントの謎解きでもしているのだろう」


 そう答えると、突然立ち止まりアレクサンドラを無言でじっと見つめた。


「殿下、どうされたのですか?」


「君はお茶を飲んでいたときああ言っていたが、もしかして本当はダヴィドに気があるのか?」


 アレクサンドラはなぜ急にそんな話になるのかまったく理解できなかったが、言われてみて少し考え答える。

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