↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
PR

三国志演義

三国志演義・曹操の南進~荊州の末路~

作者: 霧夜シオン
掲載日:2023/09/19

はじめに:この一連の三国志声劇台本は、

     故・横山光輝先生著 三国志

     故・吉川英治先生著 三国志

     北方健三先生著 三国志

     王欣汰先生著 蒼天航路

     Wikipedia

     各種解説動画

     正史・三国志

     羅貫中著 三国志演義

     の三国志系小説・マンガや各種ゲーム等に加え、

     【作者の想像】

     を加えた台本となっています。

     またこの作品でこのキャラが喋っていた台詞を他のキャラが

     喋っているという事も多々あります。

     なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ

     て変換表示できない)場合、誠に遺憾ながらカタカナ表記と

     させていただいております。

     また、役の性別転換は基本的に禁止とさせていただきます。

     名前のない武将たち(例:〇〇軍部将や〇〇軍兵士など)

     が性別不問なのは、過去の歴史においていないわけではない

     、いたかもしれない、という考えに基づくものです。


     ある程度ルビは振っておりますが、一度振ったルビは同じ、

     または他のキャラに同じのが登場しても打っていない場合

     がありますので、注意してください。


     上演の際はしっかり漢字チェックを行い、

     【決してお金の絡まない上演方法】でお願いいたします。


     長くなりましたが、以上の点をご理解いただけた上で

     演じてみたい、と思われた方はぜひやってみていただけれ

     ばと思います。


三国志演義・曹操(そうそう)の南進~荊州(けいしゅう)の末路~


作者:霧夜シオン


所要時間:約20分


必要演者数:7~8人

     (6:1)

     (7:1)


※これより少なくても一応可能です。時間計測試読の際は人で兼ね役しました。


はじめに:この一連の三国志声劇台本は、

     故・横山光輝先生著 三国志

     故・吉川英治先生著 三国志

     北方健三先生著 三国志

     王欣汰先生著 蒼天航路

     Wikipedia

     各種解説動画

     正史・三国志

     羅貫中著 三国志演義

     の三国志系小説・マンガや各種ゲーム等に加え、

     【作者の想像】

     を加えた台本となっています。

     またこの作品でこのキャラが喋っていた台詞を他のキャラが

     喋っているという事も多々あります。

     なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ

     て変換表示できない)場合、誠に遺憾ながらカタカナ表記と

     させていただいております。

     また、役の性別転換は基本的に禁止とさせていただきます。

     名前のない武将たち(例:〇〇軍部将や〇〇軍兵士など)

     が性別不問なのは、過去の歴史においていないわけではない

     、いたかもしれない、という考えに基づくものです。


     ある程度ルビは振っておりますが、一度振ったルビは同じ、

     または他のキャラに同じのが登場しても打っていない場合

     がありますので、注意してください。


     上演の際はしっかり漢字チェックを行い、

     【決してお金の絡まない上演方法】でお願いいたします。


     長くなりましたが、以上の点をご理解いただけた上で

     演じてみたい、と思われた方はぜひやってみていただけれ

     ばと思います。



●登場人物


曹操(そうそう)・♂:字(あざな)は孟徳(もうとく)。

     漢の相国(しょうこく)・曹参(そうしん)が末裔を名乗る。人相見に「治世の能臣、乱世の

     奸雄(かんゆう)」と評された、兵法、政治、果ては詩にまで名を残す三国志版

     の覇王にして”破格の英雄”。

     人材収集癖があり、惚れこむと例え敵でも味方にせずには

     おかない性質。風雲に乗じて漢の皇帝・献帝(けんてい)を擁し、丞相(じょうしょう)の地位に就

     く。自分に刃向かう者を朝敵の名のもとに次々と従わせ、あるいは

     滅ぼしていく。四十代後半~五十代。


荀攸(じゅんゆう)・♂:字は公達(こうたつ)。

     曹操(そうそう)の腹心にして、王を補佐する才能を持つ荀(じゅん)イクの甥

     。

     自身も知謀に優れ、参謀筆頭として様々な献策を用いて曹操(そうそう)を補佐

     する。


劉曄(りゅうよう)・♂:字(あざな)は子陽(しよう)。

     曹操(そうそう)軍の参謀陣の一人。官渡(かんと)の戦いなどで曹操(そうそう)に数々の献策を行う

     。また今回のように曹操をいさめる場面もみられる。


于禁(うきん)・♂:字は文則(ぶんそく)。

     後に魏(ぎ)の五将軍に数えられる、厳格な性格の人物。

     李典(りてん)と似た立ち位置でいることもあるが、今回は割と不名誉な役回

     り。


蔡瑁(さいぼう)・♂:字(あざな)は徳珪(とくけい)。

     荊州(けいしゅう)の豪族の中でも最大の勢力を誇る蔡一族の当主。

     自分の妹を亡き劉表(りゅうひょう)に嫁がせて荊州における強大な権力と発言力を

     手中にしている。

     曹操(そうそう)の南進に際して、劉表(りゅうひょう)の遺言を書き変えて妹の蔡夫人(さいふじん)が生んだ

     劉琮(りゅうそう)に後を継がせ、戦わずして降伏する道を選ぶ。


劉綜(りゅうそう)・♂:荊州(けいしゅう)の前領主、劉表(りゅうひょう)の次男。母は後妻の蔡夫人(さいふじん)。聡明な性質であっ

      たが、母や叔父が曹操(そうそう)への降伏を決断した為に、否応なく従うことと

      なる。

      正史では殺されたという話は無く、その後も曹操(そうそう)に仕えて優遇された

      とある。


蔡夫人(さいふじん)・♀:蔡瑁(さいぼう)の妹。亡き荊州(けいしゅう)の前領主、劉表(りゅうひょう)に後妻として嫁いで劉琮(りゅうそう)

      をもうける。

      前妻の子で長男の劉琦(りゅうき)を邪魔に思い、兄の蔡瑁(さいぼう)と様々な手段を取る。

      劉表(りゅうひょう)が亡くなり曹操(そうそう)が攻めてくると降伏を決断し、身の安全を図ろ

      うとする。


劉琮(りゅうそう)護衛1・♂♀不問:劉琮(りゅうそう)一族の護衛その1。彼らにかかわったばかりに

            不幸な最期に。


劉琮(りゅうそう)護衛2・♂♀不問:上記その2。


曹操軍部将・♂♀不問:今回は于禁(うきん)の配下固定。


曹操軍兵士1・♂♀不問:上記その2。


曹操軍兵士2・♂♀不問:上記その3。


ナレーション・♂♀不問:雰囲気を大事に。


※演者数が少ない状態で上演する際は、被らないように兼ね役でお願いします。


・キャスト例:

曹操:(41)

荀攸・曹操軍部将:(10+5)

劉曄・劉琮護衛2:(15+1)

于禁:(18)

蔡瑁・劉琮護衛1・曹操軍兵士1:(11+1+2)

劉琮・曹操軍兵士2:(16+2)

蔡夫人・ナレ:(13+14)


――――――――――――――――――――――――――――――――――



ナレ:劉備(りゅうび)軍が曹操(そうそう)軍第一陣を破って民達と共に樊城(はんじょう)へ入った頃、

   曹操(そうそう)はすでに荊州(けいしゅう)へほど近い、宛城(えんじょう)まで進軍してきていた。

   これまでとは違い、南方を版図(はんと)に加えるまでは退(ひ)かぬと決意した自(みずか)ら

   の進軍である。

   だがそこへ、先鋒(せんぽう)を率いていた曹仁(そうじん)の大敗北が報じられる。


曹操:…今ごろ曹仁(そうじん)は新野(しんや)へ入った頃か…。

   余(よ)もいい年だ。南方攻略は必ず成し遂げねばならんな…。


劉曄:も、申し上げます司空(しくう)閣下!


曹操:騒がしいぞ劉曄(りゅうよう)。

   何をそんなに慌てているのだ?


劉曄:我が軍の先鋒(せんぽう)隊十万、敵軍師・諸葛亮(しょかつりょう)の策にかかり、

   壊滅したとの事にございます!


曹操:な、何だと!!?

   信じられん、十万の大軍が敗れるとは…!

   いったい、今度はどういう策を使ったのだ!


劉曄:はっ。

   まず曹仁(そうじん)将軍は新野(しんや)まで一息に進軍、その際に天候が荒れ、

   大風(おおかぜ)が吹いて参ったとの事。

   同時に日暮れを迎えた為、全軍を新野(しんや)の城内に入れて休息を取ってい

   たところ、城ごと敵の火計にかかったそうです。


曹操:ぬうう、それだけの規模となるとすぐには用意できん。

   おそらく最初からそうするつもりであったのだろう。


劉曄:撤退途中、伏兵に悩まされながら白河(はくが)と申す河までたどり着いたと

   ころ、上流で水をせき止めていた関羽(かんう)の水計にかかり、

   ここでも多くの兵を失ったとか。


曹操:なんだと…そこまで読んでいたというのか…!?


劉曄:さらにそこへ下流に潜んでいた張飛(ちょうひ)の隊が挟み撃ちに襲いかかり、

   絶体絶命の中、許(きょ)チョ殿の奮戦で辛くも死地を逃れたそうです。


曹操:くっ…それで曹仁(そうじん)達はこの宛城(えんじょう)へ向かっているのだな。


劉曄:はい、司空(しくう)閣下に会わせる顔もないが、よろしくご披露(ひろう)願いたいと…。


曹操:そうか。

   …しかし…ぬぅぅぅぅ……!


劉曄:一度ならず二度までも…諸葛亮(しょかつりょう)とやら、侮れませぬな…。


曹操:おのれェ許せん!!

   全軍、進軍を開始せい!

   このままでは余(よ)の威信にかかわるわ!!


劉曄:!ッ司空(しくう)閣下!

   しばらく、しばらくお待ちください!


曹操:なんだ、劉曄(りゅうよう)。


劉曄:報告によれば、劉備(りゅうび)は新野(しんや)の民を手懐(てなづ)けて全員を連れ、

   樊城(はんじょう)へ移ったとの事です。


曹操:なんだと…さすがは劉備(りゅうび)と言うべきか…。

   英雄の資質…それが余(よ)にとって脅威(きょうい)なのだ。


劉曄:司空(しくう)閣下の民への情け深さは、決して劉備(りゅうび)などに劣るものではありませぬ。

   しかし荊州(けいしゅう)の民達はまだそれを知りませぬ。

   そこへいきなり大軍で乗り込めば、民はますます司空(しくう)閣下を恐れてしまうで

   しょう。


曹操:確かにその通りだ。

   いかに領土を手に入れても、そこに住む民がいなければ意味がない。

   そちに何か思案はあるか?


劉曄:はっ。

   まずは応じないことを承知で劉備(りゅうび)に和睦(わぼく)の使者を遣(つか)わすのです。

   しかしあえてそうする事で、司空(しくう)閣下の民を愛する意思を示すことができま

   す。  


曹操:なるほどな。

   では使者を誰にすればよいか?


劉曄:それは、徐庶(じょしょ)をおいてほかにはございませぬ。


曹操:なに、徐庶(じょしょ)だと!? バカを言え!

   あれを劉備(りゅうび)の元へ使者にやったら二度と帰って来んぞ!


劉曄:いえ、違います。

   劉備(りゅうび)と徐庶(じょしょ)の交わりは、すでに天下に知れ渡っています。

   それは司空(しくう)閣下もご存じのはずです。


曹操:うむ…わかっておる。


劉曄:ゆえに、徐庶(じょしょ)が閣下のご信頼を裏切って戻ってこなければ、

   逆に天下の物笑いとなります。


曹操:ふうむ…そうか、確かにそれは一理ある。

   よし、徐庶(じょしょ)をこれへ呼べ!


劉曄:ははっ!! 


ナレ:やがて呼びだされた徐庶(じょしょ)は命(めい)を受け、劉備(りゅうび)の元へ使いした。

   徐庶(じょしょ)からの言葉もあったが諸葛亮(しょかつりょう)は即座に曹操(そうそう)の真意を看破(かんぱ)、

   和睦(わぼく)は不成立となる。

   すぐに襄陽(じょうよう)へ移動した劉備(りゅうび)達であったが、亡き父の後を継いだ幼い

   劉琮(りゅうそう)に代わって国政を取り仕切る蔡瑁(さいぼう)一族に拒(こば)まれ、

   さらに南へ逃避行を続けた。

   いっぽう曹操(そうそう)は空(から)になった樊城(はんじょう)へ入る。

   そこへ荊州(けいしゅう)から降伏の使者が謁見(えっけん)を願い出てきた。


荀攸:我が君、失礼いたします。


曹操:む、公達(こうたつ)か。

   いかがした。


荀攸:荊州(けいしゅう)から正式な降伏の使者として蔡瑁(さいぼう)、張允(ちょういん)と申す者達が参り、

   司空(しくう)閣下に謁見(えっけん)を願い出ております。


曹操:ほう…荊州(けいしゅう)にも先の見える者がおるか。


荀攸:蔡瑁とその一族は荊州でも有力な豪族とのこと。

   利に聡いとの噂ですが…。


曹操:そうか。

   まぁ良い、通せ。


荀攸:ははっ。


ナレ:曹操(そうそう)は一段高い所に座を構えると、威厳を正して二人を通させる。

   彼の前に出た蔡瑁(さいぼう)、張允(ちょういん)は卑屈ともとれる媚(こ)びた態度で跪(ひざまず)いた。


荀攸:司空(しくう)閣下、使者を連れて参りました。


曹操:荊州(けいしゅう)の使者よ、遠路大儀である。

   余(よ)が曹操(そうそう)だ。


蔡瑁:ははっ、曹司空(そうしくう)閣下におかれましてはご機嫌うるわしゅう。

   国主(こくしゅ)、劉琮(りゅうそう)の代理としてまかり越しました蔡瑁(さいぼう)、字(あざな)は徳珪(とくけい)、

   隣に控えますは張允(ちょういん)でございます。


曹操:うむ、余(よ)に降伏したいとの事だが、偽りはないか?


蔡瑁:はい。

   劉琮(りゅうそう)をはじめ、我ら荊州(けいしゅう)の臣民は漢王室に逆らう気はみじんもござりませ

   ぬ。

   それゆえ城を開き、太守(たいしゅ)の印綬(いんじゅ)をお返しし、曹司空(そうしくう)閣下に降伏いたします。

   なにとぞ受けいれて頂ければ幸いに存じます。


曹操:うむ。両名ともその態度、殊勝である。

   そち達に尋ねるが、荊州(けいしゅう)の軍馬、兵糧(ひょうろう)、軍船の数はおよそどれほどある

   か?


蔡瑁:はっ。

   騎兵八万、歩兵二十万、水軍十万、また軍船は七千艘(ななせんそう)ほどあり、

   金銀兵糧(きんぎんひょうろう)の大半は江陵城(こうりょうじょう)に蓄え、その他、各地の城にも約一年余りず

   つの軍需物資(ぐんじゅぶっし)は常備しております。


曹操:よろしい、余(よ)は満足である。

   その忠誠心を認め、亡き劉表(りゅうひょう)の世継ぎである劉琮(りゅうそう)には、いずれ正式な

   荊州(けいしゅう)の太守(たいしゅ)に任じてつかわす。


蔡瑁:ははーっ。


曹操:また蔡瑁(さいぼう)、そちには我が軍の水軍大都督(すいぐんだいととく)、張允(ちょういん)には副都督(ふくととく)として働い

   てもらう。

   期待しておるぞ。


蔡瑁:えっ、ま、まことでございますか!?

   ありがたき幸せに存じます!


曹操:正式な入城はおって通達する。それまでに城の明け渡しの準備を滞りなく行

   うように。

   大儀(たいぎ)であった、下がって良い。


蔡瑁:ははーっ。

   それではあらためて、襄陽城(じょうようじょう)にてお待ち申し上げております。


ナレ:蔡瑁(さいぼう)、張允(ちょういん)は、自分の国の降伏をまるで己の幸運のように、

   喜び勇んで帰って行った。

   筆頭参謀(ひっとうさんぼう)である荀攸(じゅんゆう)が、その様子を半(なか)ば憐れむような表情で見送って

   いるのが、曹操(そうそう)の目にとまった。


曹操:…公達(こうたつ)、そちには何が見える?


荀攸:は、己の分を越えた重き位に酔うているのが、いささか哀れに思え

   たのでございます。


曹操:ほう?

   彼らは水軍の知識に秀でている。

   それゆえの抜擢(ばってき)だが、そちは不服か?


荀攸:いえ、我が軍の兵士は北国の山育ちの者がほとんどです。

   彼らをして水軍を統括させ、呉の孫権(そんけん)に対抗しようというお考えは

   分かります。


曹操:ふふふ、案ずるな。

   あの二人が取るに足らん小物(こもの)である事は余(よ)も十分に承知しておる。

   余(よ)が真(しん)に欲しいのは、あ奴らの水軍の指揮戦術、

   船の構造やその扱いの知識よ。


荀攸:はい、それまでの水軍都督(すいぐんととく)の地位とも知らず…哀れなものです。

   まぁ、自分の国が降伏したというのにああして喜ぶようでは、

   程が知れるというものですが…。


曹操:うむ。

   用が済んだらいつでも首にしてしまえば良い。

   後釜(あとがま)には…そうだな、于禁(うきん)や毛(もう)カイにでもやらせるとしようか。


荀攸:そうですな。

   大都督殿(だいととくどの)にはそれまで、せいぜい頑張っていただくと致しましょう。


曹操:それにしても、余(よ)と同じ目で見ておるとはな。

   さすがは公達(こうたつ)よ。


荀攸:恐れ入ります、司空(しくう)閣下。


曹操:さて、余(よ)は少し疲れたゆえ休息する。

   ふふふ…いざとなれば踏み潰す事も辞さなかったが、

   一戦にも及ばす降伏とは…事は順調に運んでおるわ…ははははは。


ナレ:曹操主従(そうそうしゅじゅう)の間でそのような会話がなされているとも知らず、得意の絶頂に

   ひたっている蔡瑁(さいぼう)らは襄陽城(じょうようじょう)へ戻ると、すぐ劉琮(りゅうそう)と蔡夫人(さいふじん)の前へ報告に

   出た。


蔡瑁:ただいま戻りましてございます。


蔡夫人:おお兄上、ご苦労様でした。

    して、降伏の使者の件はいかがでしたか?


蔡瑁:曹司空(そうしくう)閣下は大変なご機嫌で、いずれ劉琮(りゅうそう)様を荊州(けいしゅう)の太守(たいしゅ)に任じてやろう

   と仰せられました。


蔡夫人:まあ、まことでございますか。


蔡瑁:我ら二人も水軍の都督(ととく)に任じてくださり…これにて万々歳(ばんばんざい)にございま

   す。


蔡夫人:劉琮(りゅうそう)や、これで我が家も安泰(あんたい)…降伏して正しかったのです。


劉琮:母上……私は、何かが間違っているような気がしてなりません。


蔡瑁:劉琮(りゅうそう)様、何をおっしゃられますか。

   そのお考えは甘いですぞ。


蔡夫人:そうです劉琮(りゅうそう)。

    降伏した者がこれほどの扱いを受ける事など無いのですよ。


劉琮:それは…そうかもしれませんが…。


蔡瑁:では、入城の日までに城の明け渡し準備をせねばなりませぬゆえ、

   これにて。


ナレ:それから数日の後、曹操軍(そうそうぐん)は堂々と襄陽城(じょうようじょう)へ入城し、蔡夫人(さいふじん)の手から荊州(けいしゅう)

   の太守(たいしゅ)の証を受け取った。

   蔡瑁(さいぼう)以下、旧劉表配下(きゅうりゅうひょうはいか)の諸将も帰順を誓い、そのうち何人かは爵位(しゃくい)を与え

   られ、荊州(けいしゅう)は曹操(そうそう)の占領下となった。


曹操:うむ、大体はこんなところか…。

   おおそうだ、劉琮(りゅうそう)よ。

   そなたは青州(せいしゅう)へつかわす。

   監察官である刺史(しし)に任じよう。


劉琮:わ、わたくしは官爵に望みはありません。

   ただいつまでも、亡き父の墓のあるこの荊州(けいしゅう)にいとうございます。


曹操:いや、青州(せいしゅう)は都に近い。成人のあかつきには、朝廷に奏請して官人(かんじん)とする用

   意ゆえ、黙って行くがよい。


劉琮:は…はい…。


蔡夫人:司空(しくう)閣下の寛大なるご恩、謹んで御礼を申し上げます。


曹操:うむ。数日この国に名残(なごり)を惜しんだ後、出立(しゅったつ)するとよかろう。

   皆、下がって良いぞ。


   【三拍】


   …于禁(うきん)を呼べ。


   【三拍】


于禁:お呼びでございますか、司空(しくう)閣下。

   于文則(うぶんそく)、まかり越しました。


曹操:うむ、近くへ。

   …劉表(りゅうひょう)の息子、劉琮(りゅうそう)を青州(せいしゅう)にやる話はすでに聞いておるな?


于禁:はい。

   そして成人後は官人(かんじん)にすると…。


曹操:確かにそう言った。


   【声をおとして二拍】


   …だが、劉琮(りゅうそう)は余(よ)にとって将来的に用のない男だ。

   青州(せいしゅう)へわざわざ行かせることもあるまい。

   …あとは、分かるな?


于禁:!! は、ははっ…!

   (司空(しくう)閣下、何と非情なお方よ…!)


曹操:荊州(けいしゅう)を出はずれたところで追いつくようにするとよかろう。

   …一人も残すな。


于禁:承知いたしました。


ナレ:于禁(うきん)は劉琮(りゅうそう)が出立(しゅったつ)して数日後、屈強な五百の兵を従えて後を追った。

   名も知れぬ山と川、何と呼ぶかもわからぬ土地を、劉琮(りゅうそう)と蔡夫人(さいふじん)を乗せた

   車は青州(せいしゅう)へ向けて進んでいた。


劉琮:母上、やはり青州(せいしゅう)へ行かなければいけないのですか?


蔡夫人:曹司空(そうしくう)閣下もおっしゃっていたでしょう。

    成人したら荊州(けいしゅう)の太守(たいしゅ)にしてくださると。その為の用意ですよ。


劉琮:でも…知らない土地に行くのは嫌です…。


蔡夫人:大丈夫、大人になるのはあっという間です。

    すぐにまたこの荊州(けいしゅう)へ帰ってこれます。


劉琮:…そうでしょうか…。


蔡夫人:さ、日も暮れたし、今日はここで野営(やえい)にしますよ。


劉琮:は、はい…。

   

ナレ:野営の支度を終えて食事を済ませたあと、劉琮(りゅうそう)は一人、満天の星空

   を眺めていた。


劉琮:…はぁ…。


蔡夫人:どうしたのです? 星空を眺めて。


劉琮:今まで住んでいた荊州(けいしゅう)が懐かしくて…。


蔡夫人:お前は将来、荊州(けいしゅう)を治めていく人間です。いつまでもそのような

    女々(めめ)しい態度ではなりませんよ。


劉琮:そう、ですね…。


蔡夫人:さ、まだまだ旅はこれから。もうお休みなさい。


劉琮:!? あ、あれはなんでしょう、母上?


ナレ:劉琮(りゅうそう)が指差した先には、土煙を上げて迫る于禁(うきん)ら五百の騎兵の姿があった。


于禁:者共、かねてからの指図通り、一人も生かすな!

   皆殺しにせよ!!


劉琮護衛1:ぐわっ!!


劉琮護衛2:な、何者だ!? ぅげぇあッ!


蔡夫人:ひーーーッ、ひ、人殺し!!


劉琮:う、うわああああ!?


于禁:恨むなら降伏を決断した自分達を恨むのだな!

   お覚悟めされよ、蔡夫人(さいふじん)!

   はァッ!!


蔡夫人:ギャッ!!


劉琮:は、母上ぇ!!?


蔡夫人:りゅ、う…そ……ッ。


于禁:劉琮(りゅうそう)殿、あなたを生かしておけば後(のち)の災いの元となるゆえ、そのお命、

   貰い受ける!


劉琮:い、い、いやだ…たすけ…


于禁:【↑の語尾に被せて】

   はあッ!!


劉琮:あ、が……ッ…。


于禁:よし、あとは誰の仕業か分らぬよう始末し、引き上げよ!


ナレ:生い茂る草は紅く染まり、月も血に煙(けぶ)る。

   悲鳴絶叫は野山を駆け、水に響き、風にこだました。

   運の尽きこそ哀れである。

   劉琮(りゅうそう)・蔡夫人(さいふじん)以下一人の生き残りもなく、殺戮劇は幕を降ろした。


曹操軍部将:司空(しくう)閣下、于禁(うきん)将軍がお目通りを願っております。


曹操:うむ、通せ。


于禁:司空(しくう)閣下、ただ今戻りましてございます。


曹操:ご苦労。

   して、首尾は?


于禁:は、蔡夫人(さいふじん)・劉琮(りゅうそう)とその一族郎党、ご命令通り始末して参りまし

   た。


曹操:…よし、それでよい。

   下がってしばらく休息した後、隆中(りゅうちゅう)へ向かえ。


于禁:は? 隆中(りゅうちゅう)…でございますか?


曹操:そうだ。

   劉備(りゅうび)の新たな軍師である諸葛亮(しょかつりょう)とやらが住んでいた所だ。

   …彼奴(きゃつ)だけは許せん!

   兵を率いて行き、草の根を分けても彼奴(きゃつ)の一族を捕えて来るのだ!


于禁:ははっ!


ナレ:数日ののち、于禁(うきん)は兵を率いて隆中(りゅうちゅう)へ向かった。

   諸葛亮(しょかつりょう)の庵を遠目に見ると、配下へ命を下した。


于禁:あれか。

   よし、者ども、行けッ!!

   一人残らず捕えるのだ!


   【二拍】


曹操軍部将:于禁(うきん)将軍! 中には誰もおりませぬ!


于禁:何ィ!? どういうことだ!


曹操軍兵士1:もぬけの殻です! どうやら既に逃げたようです!


于禁:ぬうう、どこへ行ったか! 村人どもに問いただせ!


曹操軍部将:ははっ! お前達、行けィ!


曹操軍兵士2:はっ!


ナレ:兵達は八方に散り、しらみつぶしに村人達に問いただしたり、

   すべての家屋(かおく)に押し入って捜索の手を伸ばしたが、諸葛亮(しょかつりょう)とその

   家族のわずかな痕跡(こんせき)さえも見つけることはできなかった。


曹操軍兵士1:駄目です!

       あらゆる場所を探しましたが、何の手がかりもありません

       !


曹操軍兵士2:どの村人に問いただしても、いきなり出かけては数カ月は

       帰ってこないとの一点張りで…。


曹操軍部将:むむむ…将軍、いかがしましょうか。


于禁:【溜息】

   …これ以上は何の手がかりも得られまい。

   引き上げるぞ!


曹操軍部将:ははっ! お前達、もう良い! 行くぞ!


ナレ:于禁(うきん)達は空しく引き揚げると、曹操(そうそう)の前へ報告に出た。

   曹操(そうそう)は、于禁(うきん)が何の成果もあげられなかった事より、諸葛亮(しょかつりょう)の用意周到(よういしゅうとう)さに

   激怒した。


曹操:ぬうううおのれ諸葛亮(しょかつりょう)め、なんという小面憎(こづらにく)い奴か!!

   余(よ)の手が及ぶ事まで見通しているとは…!


   【二拍】


   …えぇいまぁよい。これ以上はかかずらっておれん。

   于禁(うきん)、そちも劉備(りゅうび)追撃の任に加われ!

   二日後に出発するのだ!


于禁:ははっ!


ナレ:有能な人材には女性に恋するがごとく惚れ込み、情熱を傾ける性質の曹操(そうそう)で

   あったが、それとは裏腹に、冷酷非情かつ残虐な処置を取る事も多かった。

   たとえ優秀な人物でも敵と睨まれれば助からない。

   ましてや用がない人間と判断されれば尚更である。

   だが、その陰陽両面の極端な差が、彼と言う英傑における一面の魅力なの

   かもしれない。

   曹操(そうそう)はいよいよ追撃に本腰を入れ、劉備(りゅうび)達の身には刻一刻と危機が迫るので

   あった。



END



本来、劉琮や蔡夫人が曹操の手で殺されるのは演義のみの話で、正史では曹操にそのまま仕えたとある。

演義では曹操を悪役に据えている為か、こういった書き換えがしばしば目立つ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。