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苦手な方はご注意ください。

三国志演義

三国志演義・曹操の南進~荊州の末路~

作者: 霧夜シオン

はじめに:この一連の三国志声劇台本は、

     故・横山光輝先生著 三国志

     故・吉川英治先生著 三国志

     北方健三先生著 三国志

     王欣汰先生著 蒼天航路

     Wikipedia

     各種解説動画

     正史・三国志

     羅貫中著 三国志演義

     の三国志系小説・マンガや各種ゲーム等に加え、

     【作者の想像】

     を加えた台本となっています。

     またこの作品でこのキャラが喋っていた台詞を他のキャラが

     喋っているという事も多々あります。

     なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ

     て変換表示できない)場合、誠に遺憾ながらカタカナ表記と

     させていただいております。

     また、役の性別転換は基本的に禁止とさせていただきます。

     名前のない武将たち(例:〇〇軍部将や〇〇軍兵士など)

     が性別不問なのは、過去の歴史においていないわけではない

     、いたかもしれない、という考えに基づくものです。


     ある程度ルビは振っておりますが、一度振ったルビは同じ、

     または他のキャラに同じのが登場しても打っていない場合

     がありますので、注意してください。


     上演の際はしっかり漢字チェックを行い、

     【決してお金の絡まない上演方法】でお願いいたします。


     長くなりましたが、以上の点をご理解いただけた上で

     演じてみたい、と思われた方はぜひやってみていただけれ

     ばと思います。


三国志演義・曹操そうそうの南進~荊州けいしゅうの末路~


作者:霧夜シオン


所要時間:約20分


必要演者数:7~8人

     (6:1)

     (7:1)


※これより少なくても一応可能です。時間計測試読の際は人で兼ね役しました。


はじめに:この一連の三国志声劇台本は、

     故・横山光輝先生著 三国志

     故・吉川英治先生著 三国志

     北方健三先生著 三国志

     王欣汰先生著 蒼天航路

     Wikipedia

     各種解説動画

     正史・三国志

     羅貫中著 三国志演義

     の三国志系小説・マンガや各種ゲーム等に加え、

     【作者の想像】

     を加えた台本となっています。

     またこの作品でこのキャラが喋っていた台詞を他のキャラが

     喋っているという事も多々あります。

     なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ

     て変換表示できない)場合、誠に遺憾ながらカタカナ表記と

     させていただいております。

     また、役の性別転換は基本的に禁止とさせていただきます。

     名前のない武将たち(例:〇〇軍部将や〇〇軍兵士など)

     が性別不問なのは、過去の歴史においていないわけではない

     、いたかもしれない、という考えに基づくものです。


     ある程度ルビは振っておりますが、一度振ったルビは同じ、

     または他のキャラに同じのが登場しても打っていない場合

     がありますので、注意してください。


     上演の際はしっかり漢字チェックを行い、

     【決してお金の絡まない上演方法】でお願いいたします。


     長くなりましたが、以上の点をご理解いただけた上で

     演じてみたい、と思われた方はぜひやってみていただけれ

     ばと思います。



●登場人物


曹操そうそう・♂:あざな孟徳もうとく

     漢の相国しょうこく曹参そうしんが末裔を名乗る。人相見に「治世の能臣、乱世の

     奸雄かんゆう」と評された、兵法、政治、果ては詩にまで名を残す三国志版

     の覇王にして”破格の英雄”。

     人材収集癖があり、惚れこむと例え敵でも味方にせずには

     おかない性質。風雲に乗じて漢の皇帝・献帝けんていを擁し、丞相じょうしょうの地位に就

     く。自分に刃向かう者を朝敵の名のもとに次々と従わせ、あるいは

     滅ぼしていく。四十代後半~五十代。


荀攸じゅんゆう・♂:字は公達こうたつ

     曹操そうそうの腹心にして、王を補佐する才能を持つじゅんイクの甥

     。

     自身も知謀に優れ、参謀筆頭として様々な献策を用いて曹操そうそうを補佐

     する。


劉曄りゅうよう・♂:あざな子陽しよう

     曹操そうそう軍の参謀陣の一人。官渡かんとの戦いなどで曹操そうそうに数々の献策を行う

     。また今回のように曹操をいさめる場面もみられる。


于禁うきん・♂:字は文則ぶんそく

     後にの五将軍に数えられる、厳格な性格の人物。

     李典りてんと似た立ち位置でいることもあるが、今回は割と不名誉な役回

     り。


蔡瑁さいぼう・♂:あざな徳珪とくけい

     荊州けいしゅうの豪族の中でも最大の勢力を誇る蔡一族の当主。

     自分の妹を亡き劉表りゅうひょうに嫁がせて荊州における強大な権力と発言力を

     手中にしている。

     曹操そうそうの南進に際して、劉表りゅうひょうの遺言を書き変えて妹の蔡夫人さいふじんが生んだ

     劉琮りゅうそうに後を継がせ、戦わずして降伏する道を選ぶ。


劉綜りゅうそう・♂:荊州けいしゅうの前領主、劉表りゅうひょうの次男。母は後妻の蔡夫人さいふじん。聡明な性質であっ

      たが、母や叔父が曹操そうそうへの降伏を決断した為に、否応なく従うことと

      なる。

      正史では殺されたという話は無く、その後も曹操そうそうに仕えて優遇された

      とある。


蔡夫人さいふじん・♀:蔡瑁さいぼうの妹。亡き荊州けいしゅうの前領主、劉表りゅうひょうに後妻として嫁いで劉琮りゅうそう

      をもうける。

      前妻の子で長男の劉琦りゅうきを邪魔に思い、兄の蔡瑁さいぼうと様々な手段を取る。

      劉表りゅうひょうが亡くなり曹操そうそうが攻めてくると降伏を決断し、身の安全を図ろ

      うとする。


劉琮りゅうそう護衛1・♂♀不問:劉琮りゅうそう一族の護衛その1。彼らにかかわったばかりに

            不幸な最期に。


劉琮りゅうそう護衛2・♂♀不問:上記その2。


曹操軍部将・♂♀不問:今回は于禁うきんの配下固定。


曹操軍兵士1・♂♀不問:上記その2。


曹操軍兵士2・♂♀不問:上記その3。


ナレーション・♂♀不問:雰囲気を大事に。


※演者数が少ない状態で上演する際は、被らないように兼ね役でお願いします。


・キャスト例:

曹操:(41)

荀攸・曹操軍部将:(10+5)

劉曄・劉琮護衛2:(15+1)

于禁:(18)

蔡瑁・劉琮護衛1・曹操軍兵士1:(11+1+2)

劉琮・曹操軍兵士2:(16+2)

蔡夫人・ナレ:(13+14)


――――――――――――――――――――――――――――――――――



ナレ:劉備りゅうび軍が曹操そうそう軍第一陣を破って民達と共に樊城はんじょうへ入った頃、

   曹操そうそうはすでに荊州けいしゅうへほど近い、宛城えんじょうまで進軍してきていた。

   これまでとは違い、南方を版図はんとに加えるまでは退かぬと決意したみずか

   の進軍である。

   だがそこへ、先鋒せんぽうを率いていた曹仁そうじんの大敗北が報じられる。


曹操:…今ごろ曹仁そうじん新野しんやへ入った頃か…。

   もいい年だ。南方攻略は必ず成し遂げねばならんな…。


劉曄:も、申し上げます司空しくう閣下!


曹操:騒がしいぞ劉曄りゅうよう

   何をそんなに慌てているのだ?


劉曄:我が軍の先鋒せんぽう隊十万、敵軍師・諸葛亮しょかつりょうの策にかかり、

   壊滅したとの事にございます!


曹操:な、何だと!!?

   信じられん、十万の大軍が敗れるとは…!

   いったい、今度はどういう策を使ったのだ!


劉曄:はっ。

   まず曹仁そうじん将軍は新野しんやまで一息に進軍、その際に天候が荒れ、

   大風おおかぜが吹いて参ったとの事。

   同時に日暮れを迎えた為、全軍を新野しんやの城内に入れて休息を取ってい

   たところ、城ごと敵の火計にかかったそうです。


曹操:ぬうう、それだけの規模となるとすぐには用意できん。

   おそらく最初からそうするつもりであったのだろう。


劉曄:撤退途中、伏兵に悩まされながら白河はくがと申す河までたどり着いたと

   ころ、上流で水をせき止めていた関羽かんうの水計にかかり、

   ここでも多くの兵を失ったとか。


曹操:なんだと…そこまで読んでいたというのか…!?


劉曄:さらにそこへ下流に潜んでいた張飛ちょうひの隊が挟み撃ちに襲いかかり、

   絶体絶命の中、きょチョ殿の奮戦で辛くも死地を逃れたそうです。


曹操:くっ…それで曹仁そうじん達はこの宛城えんじょうへ向かっているのだな。


劉曄:はい、司空しくう閣下に会わせる顔もないが、よろしくご披露ひろう願いたいと…。


曹操:そうか。

   …しかし…ぬぅぅぅぅ……!


劉曄:一度ならず二度までも…諸葛亮しょかつりょうとやら、侮れませぬな…。


曹操:おのれェ許せん!!

   全軍、進軍を開始せい!

   このままではの威信にかかわるわ!!


劉曄:!ッ司空しくう閣下!

   しばらく、しばらくお待ちください!


曹操:なんだ、劉曄りゅうよう


劉曄:報告によれば、劉備りゅうび新野しんやの民を手懐てなづけて全員を連れ、

   樊城はんじょうへ移ったとの事です。


曹操:なんだと…さすがは劉備りゅうびと言うべきか…。

   英雄の資質…それがにとって脅威きょういなのだ。


劉曄:司空しくう閣下の民への情け深さは、決して劉備りゅうびなどに劣るものではありませぬ。

   しかし荊州けいしゅうの民達はまだそれを知りませぬ。

   そこへいきなり大軍で乗り込めば、民はますます司空しくう閣下を恐れてしまうで

   しょう。


曹操:確かにその通りだ。

   いかに領土を手に入れても、そこに住む民がいなければ意味がない。

   そちに何か思案はあるか?


劉曄:はっ。

   まずは応じないことを承知で劉備りゅうび和睦わぼくの使者をつかわすのです。

   しかしあえてそうする事で、司空しくう閣下の民を愛する意思を示すことができま

   す。  


曹操:なるほどな。

   では使者を誰にすればよいか?


劉曄:それは、徐庶じょしょをおいてほかにはございませぬ。


曹操:なに、徐庶じょしょだと!? バカを言え!

   あれを劉備りゅうびの元へ使者にやったら二度と帰って来んぞ!


劉曄:いえ、違います。

   劉備りゅうび徐庶じょしょの交わりは、すでに天下に知れ渡っています。

   それは司空しくう閣下もご存じのはずです。


曹操:うむ…わかっておる。


劉曄:ゆえに、徐庶じょしょが閣下のご信頼を裏切って戻ってこなければ、

   逆に天下の物笑いとなります。


曹操:ふうむ…そうか、確かにそれは一理ある。

   よし、徐庶じょしょをこれへ呼べ!


劉曄:ははっ!! 


ナレ:やがて呼びだされた徐庶じょしょめいを受け、劉備りゅうびの元へ使いした。

   徐庶じょしょからの言葉もあったが諸葛亮しょかつりょうは即座に曹操そうそうの真意を看破かんぱ

   和睦わぼくは不成立となる。

   すぐに襄陽じょうようへ移動した劉備りゅうび達であったが、亡き父の後を継いだ幼い

   劉琮りゅうそうに代わって国政を取り仕切る蔡瑁さいぼう一族にこばまれ、

   さらに南へ逃避行を続けた。

   いっぽう曹操そうそうからになった樊城はんじょうへ入る。

   そこへ荊州けいしゅうから降伏の使者が謁見えっけんを願い出てきた。


荀攸:我が君、失礼いたします。


曹操:む、公達こうたつか。

   いかがした。


荀攸:荊州けいしゅうから正式な降伏の使者として蔡瑁さいぼう張允ちょういんと申す者達が参り、

   司空しくう閣下に謁見えっけんを願い出ております。


曹操:ほう…荊州けいしゅうにも先の見える者がおるか。


荀攸:蔡瑁とその一族は荊州でも有力な豪族とのこと。

   利に聡いとの噂ですが…。


曹操:そうか。

   まぁ良い、通せ。


荀攸:ははっ。


ナレ:曹操そうそうは一段高い所に座を構えると、威厳を正して二人を通させる。

   彼の前に出た蔡瑁さいぼう張允ちょういんは卑屈ともとれるびた態度でひざまずいた。


荀攸:司空しくう閣下、使者を連れて参りました。


曹操:荊州けいしゅうの使者よ、遠路大儀である。

   曹操そうそうだ。


蔡瑁:ははっ、曹司空そうしくう閣下におかれましてはご機嫌うるわしゅう。

   国主こくしゅ劉琮りゅうそうの代理としてまかり越しました蔡瑁さいぼうあざな徳珪とくけい

   隣に控えますは張允ちょういんでございます。


曹操:うむ、に降伏したいとの事だが、偽りはないか?


蔡瑁:はい。

   劉琮りゅうそうをはじめ、我ら荊州けいしゅうの臣民は漢王室に逆らう気はみじんもござりませ

   ぬ。

   それゆえ城を開き、太守たいしゅ印綬いんじゅをお返しし、曹司空そうしくう閣下に降伏いたします。

   なにとぞ受けいれて頂ければ幸いに存じます。


曹操:うむ。両名ともその態度、殊勝である。

   そち達に尋ねるが、荊州けいしゅうの軍馬、兵糧ひょうろう、軍船の数はおよそどれほどある

   か?


蔡瑁:はっ。

   騎兵八万、歩兵二十万、水軍十万、また軍船は七千艘ななせんそうほどあり、

   金銀兵糧きんぎんひょうろうの大半は江陵城こうりょうじょうに蓄え、その他、各地の城にも約一年余りず

   つの軍需物資ぐんじゅぶっしは常備しております。


曹操:よろしい、は満足である。

   その忠誠心を認め、亡き劉表りゅうひょうの世継ぎである劉琮りゅうそうには、いずれ正式な

   荊州けいしゅう太守たいしゅに任じてつかわす。


蔡瑁:ははーっ。


曹操:また蔡瑁さいぼう、そちには我が軍の水軍大都督すいぐんだいととく張允ちょういんには副都督ふくととくとして働い

   てもらう。

   期待しておるぞ。


蔡瑁:えっ、ま、まことでございますか!?

   ありがたき幸せに存じます!


曹操:正式な入城はおって通達する。それまでに城の明け渡しの準備を滞りなく行

   うように。

   大儀たいぎであった、下がって良い。


蔡瑁:ははーっ。

   それではあらためて、襄陽城じょうようじょうにてお待ち申し上げております。


ナレ:蔡瑁さいぼう張允ちょういんは、自分の国の降伏をまるで己の幸運のように、

   喜び勇んで帰って行った。

   筆頭参謀ひっとうさんぼうである荀攸じゅんゆうが、その様子をなかば憐れむような表情で見送って

   いるのが、曹操そうそうの目にとまった。


曹操:…公達こうたつ、そちには何が見える?


荀攸:は、己の分を越えた重き位に酔うているのが、いささか哀れに思え

   たのでございます。


曹操:ほう?

   彼らは水軍の知識に秀でている。

   それゆえの抜擢ばってきだが、そちは不服か?


荀攸:いえ、我が軍の兵士は北国の山育ちの者がほとんどです。

   彼らをして水軍を統括させ、呉の孫権そんけんに対抗しようというお考えは

   分かります。


曹操:ふふふ、案ずるな。

   あの二人が取るに足らん小物こものである事はも十分に承知しておる。

   しんに欲しいのは、あ奴らの水軍の指揮戦術、

   船の構造やその扱いの知識よ。


荀攸:はい、それまでの水軍都督すいぐんととくの地位とも知らず…哀れなものです。

   まぁ、自分の国が降伏したというのにああして喜ぶようでは、

   程が知れるというものですが…。


曹操:うむ。

   用が済んだらいつでも首にしてしまえば良い。

   後釜あとがまには…そうだな、于禁うきんもうカイにでもやらせるとしようか。


荀攸:そうですな。

   大都督殿だいととくどのにはそれまで、せいぜい頑張っていただくと致しましょう。


曹操:それにしても、と同じ目で見ておるとはな。

   さすがは公達こうたつよ。


荀攸:恐れ入ります、司空しくう閣下。


曹操:さて、は少し疲れたゆえ休息する。

   ふふふ…いざとなれば踏み潰す事も辞さなかったが、

   一戦にも及ばす降伏とは…事は順調に運んでおるわ…ははははは。


ナレ:曹操主従そうそうしゅじゅうの間でそのような会話がなされているとも知らず、得意の絶頂に

   ひたっている蔡瑁さいぼうらは襄陽城じょうようじょうへ戻ると、すぐ劉琮りゅうそう蔡夫人さいふじんの前へ報告に

   出た。


蔡瑁:ただいま戻りましてございます。


蔡夫人:おお兄上、ご苦労様でした。

    して、降伏の使者の件はいかがでしたか?


蔡瑁:曹司空そうしくう閣下は大変なご機嫌で、いずれ劉琮りゅうそう様を荊州けいしゅう太守たいしゅに任じてやろう

   と仰せられました。


蔡夫人:まあ、まことでございますか。


蔡瑁:我ら二人も水軍の都督ととくに任じてくださり…これにて万々ばんばんざいにございま

   す。


蔡夫人:劉琮りゅうそうや、これで我が家も安泰あんたい…降伏して正しかったのです。


劉琮:母上……私は、何かが間違っているような気がしてなりません。


蔡瑁:劉琮りゅうそう様、何をおっしゃられますか。

   そのお考えは甘いですぞ。


蔡夫人:そうです劉琮りゅうそう

    降伏した者がこれほどの扱いを受ける事など無いのですよ。


劉琮:それは…そうかもしれませんが…。


蔡瑁:では、入城の日までに城の明け渡し準備をせねばなりませぬゆえ、

   これにて。


ナレ:それから数日の後、曹操軍そうそうぐんは堂々と襄陽城じょうようじょうへ入城し、蔡夫人さいふじんの手から荊州けいしゅう

   の太守たいしゅの証を受け取った。

   蔡瑁さいぼう以下、旧劉表配下きゅうりゅうひょうはいかの諸将も帰順を誓い、そのうち何人かは爵位しゃくいを与え

   られ、荊州けいしゅう曹操そうそうの占領下となった。


曹操:うむ、大体はこんなところか…。

   おおそうだ、劉琮りゅうそうよ。

   そなたは青州せいしゅうへつかわす。

   監察官である刺史ししに任じよう。


劉琮:わ、わたくしは官爵に望みはありません。

   ただいつまでも、亡き父の墓のあるこの荊州けいしゅうにいとうございます。


曹操:いや、青州せいしゅうは都に近い。成人のあかつきには、朝廷に奏請して官人かんじんとする用

   意ゆえ、黙って行くがよい。


劉琮:は…はい…。


蔡夫人:司空しくう閣下の寛大なるご恩、謹んで御礼を申し上げます。


曹操:うむ。数日この国に名残なごりを惜しんだ後、出立しゅったつするとよかろう。

   皆、下がって良いぞ。


   【三拍】


   …于禁うきんを呼べ。


   【三拍】


于禁:お呼びでございますか、司空しくう閣下。

   于文則うぶんそく、まかり越しました。


曹操:うむ、近くへ。

   …劉表りゅうひょうの息子、劉琮りゅうそう青州せいしゅうにやる話はすでに聞いておるな?


于禁:はい。

   そして成人後は官人かんじんにすると…。


曹操:確かにそう言った。


   【声をおとして二拍】


   …だが、劉琮りゅうそうにとって将来的に用のない男だ。

   青州せいしゅうへわざわざ行かせることもあるまい。

   …あとは、分かるな?


于禁:!! は、ははっ…!

   (司空しくう閣下、何と非情なお方よ…!)


曹操:荊州けいしゅうを出はずれたところで追いつくようにするとよかろう。

   …一人も残すな。


于禁:承知いたしました。


ナレ:于禁うきん劉琮りゅうそう出立しゅったつして数日後、屈強な五百の兵を従えて後を追った。

   名も知れぬ山と川、何と呼ぶかもわからぬ土地を、劉琮りゅうそう蔡夫人さいふじんを乗せた

   車は青州せいしゅうへ向けて進んでいた。


劉琮:母上、やはり青州せいしゅうへ行かなければいけないのですか?


蔡夫人:曹司空そうしくう閣下もおっしゃっていたでしょう。

    成人したら荊州けいしゅう太守たいしゅにしてくださると。その為の用意ですよ。


劉琮:でも…知らない土地に行くのは嫌です…。


蔡夫人:大丈夫、大人になるのはあっという間です。

    すぐにまたこの荊州けいしゅうへ帰ってこれます。


劉琮:…そうでしょうか…。


蔡夫人:さ、日も暮れたし、今日はここで野営やえいにしますよ。


劉琮:は、はい…。

   

ナレ:野営の支度を終えて食事を済ませたあと、劉琮りゅうそうは一人、満天の星空

   を眺めていた。


劉琮:…はぁ…。


蔡夫人:どうしたのです? 星空を眺めて。


劉琮:今まで住んでいた荊州けいしゅうが懐かしくて…。


蔡夫人:お前は将来、荊州けいしゅうを治めていく人間です。いつまでもそのような

    女々(めめ)しい態度ではなりませんよ。


劉琮:そう、ですね…。


蔡夫人:さ、まだまだ旅はこれから。もうお休みなさい。


劉琮:!? あ、あれはなんでしょう、母上?


ナレ:劉琮りゅうそうが指差した先には、土煙を上げて迫る于禁うきんら五百の騎兵の姿があった。


于禁:者共、かねてからの指図通り、一人も生かすな!

   皆殺しにせよ!!


劉琮護衛1:ぐわっ!!


劉琮護衛2:な、何者だ!? ぅげぇあッ!


蔡夫人:ひーーーッ、ひ、人殺し!!


劉琮:う、うわああああ!?


于禁:恨むなら降伏を決断した自分達を恨むのだな!

   お覚悟めされよ、蔡夫人さいふじん

   はァッ!!


蔡夫人:ギャッ!!


劉琮:は、母上ぇ!!?


蔡夫人:りゅ、う…そ……ッ。


于禁:劉琮りゅうそう殿、あなたを生かしておけばのちの災いの元となるゆえ、そのお命、

   貰い受ける!


劉琮:い、い、いやだ…たすけ…


于禁:【↑の語尾に被せて】

   はあッ!!


劉琮:あ、が……ッ…。


于禁:よし、あとは誰の仕業か分らぬよう始末し、引き上げよ!


ナレ:生い茂る草は紅く染まり、月も血にけぶる。

   悲鳴絶叫は野山を駆け、水に響き、風にこだました。

   運の尽きこそ哀れである。

   劉琮りゅうそう蔡夫人さいふじん以下一人の生き残りもなく、殺戮劇は幕を降ろした。


曹操軍部将:司空しくう閣下、于禁うきん将軍がお目通りを願っております。


曹操:うむ、通せ。


于禁:司空しくう閣下、ただ今戻りましてございます。


曹操:ご苦労。

   して、首尾は?


于禁:は、蔡夫人さいふじん劉琮りゅうそうとその一族郎党、ご命令通り始末して参りまし

   た。


曹操:…よし、それでよい。

   下がってしばらく休息した後、隆中りゅうちゅうへ向かえ。


于禁:は? 隆中りゅうちゅう…でございますか?


曹操:そうだ。

   劉備りゅうびの新たな軍師である諸葛亮しょかつりょうとやらが住んでいた所だ。

   …彼奴きゃつだけは許せん!

   兵を率いて行き、草の根を分けても彼奴きゃつの一族を捕えて来るのだ!


于禁:ははっ!


ナレ:数日ののち、于禁うきんは兵を率いて隆中りゅうちゅうへ向かった。

   諸葛亮しょかつりょうの庵を遠目に見ると、配下へ命を下した。


于禁:あれか。

   よし、者ども、行けッ!!

   一人残らず捕えるのだ!


   【二拍】


曹操軍部将:于禁うきん将軍! 中には誰もおりませぬ!


于禁:何ィ!? どういうことだ!


曹操軍兵士1:もぬけの殻です! どうやら既に逃げたようです!


于禁:ぬうう、どこへ行ったか! 村人どもに問いただせ!


曹操軍部将:ははっ! お前達、行けィ!


曹操軍兵士2:はっ!


ナレ:兵達は八方に散り、しらみつぶしに村人達に問いただしたり、

   すべての家屋かおくに押し入って捜索の手を伸ばしたが、諸葛亮しょかつりょうとその

   家族のわずかな痕跡こんせきさえも見つけることはできなかった。


曹操軍兵士1:駄目です!

       あらゆる場所を探しましたが、何の手がかりもありません

       !


曹操軍兵士2:どの村人に問いただしても、いきなり出かけては数カ月は

       帰ってこないとの一点張りで…。


曹操軍部将:むむむ…将軍、いかがしましょうか。


于禁:【溜息】

   …これ以上は何の手がかりも得られまい。

   引き上げるぞ!


曹操軍部将:ははっ! お前達、もう良い! 行くぞ!


ナレ:于禁うきん達は空しく引き揚げると、曹操そうそうの前へ報告に出た。

   曹操そうそうは、于禁うきんが何の成果もあげられなかった事より、諸葛亮しょかつりょう用意周到よういしゅうとうさに

   激怒した。


曹操:ぬうううおのれ諸葛亮しょかつりょうめ、なんという小面憎こづらにくい奴か!!

   の手が及ぶ事まで見通しているとは…!


   【二拍】


   …えぇいまぁよい。これ以上はかかずらっておれん。

   于禁うきん、そちも劉備りゅうび追撃の任に加われ!

   二日後に出発するのだ!


于禁:ははっ!


ナレ:有能な人材には女性に恋するがごとく惚れ込み、情熱を傾ける性質の曹操そうそう

   あったが、それとは裏腹に、冷酷非情かつ残虐な処置を取る事も多かった。

   たとえ優秀な人物でも敵と睨まれれば助からない。

   ましてや用がない人間と判断されれば尚更である。

   だが、その陰陽両面の極端な差が、彼と言う英傑における一面の魅力なの

   かもしれない。

   曹操そうそうはいよいよ追撃に本腰を入れ、劉備りゅうび達の身には刻一刻と危機が迫るので

   あった。



END



本来、劉琮や蔡夫人が曹操の手で殺されるのは演義のみの話で、正史では曹操にそのまま仕えたとある。

演義では曹操を悪役に据えている為か、こういった書き換えがしばしば目立つ。

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