三国志演義・曹操の南進~荊州の末路~
はじめに:この一連の三国志声劇台本は、
故・横山光輝先生著 三国志
故・吉川英治先生著 三国志
北方健三先生著 三国志
王欣汰先生著 蒼天航路
Wikipedia
各種解説動画
正史・三国志
羅貫中著 三国志演義
の三国志系小説・マンガや各種ゲーム等に加え、
【作者の想像】
を加えた台本となっています。
またこの作品でこのキャラが喋っていた台詞を他のキャラが
喋っているという事も多々あります。
なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ
て変換表示できない)場合、誠に遺憾ながらカタカナ表記と
させていただいております。
また、役の性別転換は基本的に禁止とさせていただきます。
名前のない武将たち(例:〇〇軍部将や〇〇軍兵士など)
が性別不問なのは、過去の歴史においていないわけではない
、いたかもしれない、という考えに基づくものです。
ある程度ルビは振っておりますが、一度振ったルビは同じ、
または他のキャラに同じのが登場しても打っていない場合
がありますので、注意してください。
上演の際はしっかり漢字チェックを行い、
【決してお金の絡まない上演方法】でお願いいたします。
長くなりましたが、以上の点をご理解いただけた上で
演じてみたい、と思われた方はぜひやってみていただけれ
ばと思います。
三国志演義・曹操の南進~荊州の末路~
作者:霧夜シオン
所要時間:約20分
必要演者数:7~8人
(6:1)
(7:1)
※これより少なくても一応可能です。時間計測試読の際は人で兼ね役しました。
はじめに:この一連の三国志声劇台本は、
故・横山光輝先生著 三国志
故・吉川英治先生著 三国志
北方健三先生著 三国志
王欣汰先生著 蒼天航路
Wikipedia
各種解説動画
正史・三国志
羅貫中著 三国志演義
の三国志系小説・マンガや各種ゲーム等に加え、
【作者の想像】
を加えた台本となっています。
またこの作品でこのキャラが喋っていた台詞を他のキャラが
喋っているという事も多々あります。
なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかっ
て変換表示できない)場合、誠に遺憾ながらカタカナ表記と
させていただいております。
また、役の性別転換は基本的に禁止とさせていただきます。
名前のない武将たち(例:〇〇軍部将や〇〇軍兵士など)
が性別不問なのは、過去の歴史においていないわけではない
、いたかもしれない、という考えに基づくものです。
ある程度ルビは振っておりますが、一度振ったルビは同じ、
または他のキャラに同じのが登場しても打っていない場合
がありますので、注意してください。
上演の際はしっかり漢字チェックを行い、
【決してお金の絡まない上演方法】でお願いいたします。
長くなりましたが、以上の点をご理解いただけた上で
演じてみたい、と思われた方はぜひやってみていただけれ
ばと思います。
●登場人物
曹操・♂:字は孟徳。
漢の相国・曹参が末裔を名乗る。人相見に「治世の能臣、乱世の
奸雄」と評された、兵法、政治、果ては詩にまで名を残す三国志版
の覇王にして”破格の英雄”。
人材収集癖があり、惚れこむと例え敵でも味方にせずには
おかない性質。風雲に乗じて漢の皇帝・献帝を擁し、丞相の地位に就
く。自分に刃向かう者を朝敵の名のもとに次々と従わせ、あるいは
滅ぼしていく。四十代後半~五十代。
荀攸・♂:字は公達。
曹操の腹心にして、王を補佐する才能を持つ荀イクの甥
。
自身も知謀に優れ、参謀筆頭として様々な献策を用いて曹操を補佐
する。
劉曄・♂:字は子陽。
曹操軍の参謀陣の一人。官渡の戦いなどで曹操に数々の献策を行う
。また今回のように曹操をいさめる場面もみられる。
于禁・♂:字は文則。
後に魏の五将軍に数えられる、厳格な性格の人物。
李典と似た立ち位置でいることもあるが、今回は割と不名誉な役回
り。
蔡瑁・♂:字は徳珪。
荊州の豪族の中でも最大の勢力を誇る蔡一族の当主。
自分の妹を亡き劉表に嫁がせて荊州における強大な権力と発言力を
手中にしている。
曹操の南進に際して、劉表の遺言を書き変えて妹の蔡夫人が生んだ
劉琮に後を継がせ、戦わずして降伏する道を選ぶ。
劉綜・♂:荊州の前領主、劉表の次男。母は後妻の蔡夫人。聡明な性質であっ
たが、母や叔父が曹操への降伏を決断した為に、否応なく従うことと
なる。
正史では殺されたという話は無く、その後も曹操に仕えて優遇された
とある。
蔡夫人・♀:蔡瑁の妹。亡き荊州の前領主、劉表に後妻として嫁いで劉琮
をもうける。
前妻の子で長男の劉琦を邪魔に思い、兄の蔡瑁と様々な手段を取る。
劉表が亡くなり曹操が攻めてくると降伏を決断し、身の安全を図ろ
うとする。
劉琮護衛1・♂♀不問:劉琮一族の護衛その1。彼らにかかわったばかりに
不幸な最期に。
劉琮護衛2・♂♀不問:上記その2。
曹操軍部将・♂♀不問:今回は于禁の配下固定。
曹操軍兵士1・♂♀不問:上記その2。
曹操軍兵士2・♂♀不問:上記その3。
ナレーション・♂♀不問:雰囲気を大事に。
※演者数が少ない状態で上演する際は、被らないように兼ね役でお願いします。
・キャスト例:
曹操:(41)
荀攸・曹操軍部将:(10+5)
劉曄・劉琮護衛2:(15+1)
于禁:(18)
蔡瑁・劉琮護衛1・曹操軍兵士1:(11+1+2)
劉琮・曹操軍兵士2:(16+2)
蔡夫人・ナレ:(13+14)
――――――――――――――――――――――――――――――――――
ナレ:劉備軍が曹操軍第一陣を破って民達と共に樊城へ入った頃、
曹操はすでに荊州へほど近い、宛城まで進軍してきていた。
これまでとは違い、南方を版図に加えるまでは退かぬと決意した自ら
の進軍である。
だがそこへ、先鋒を率いていた曹仁の大敗北が報じられる。
曹操:…今ごろ曹仁は新野へ入った頃か…。
余もいい年だ。南方攻略は必ず成し遂げねばならんな…。
劉曄:も、申し上げます司空閣下!
曹操:騒がしいぞ劉曄。
何をそんなに慌てているのだ?
劉曄:我が軍の先鋒隊十万、敵軍師・諸葛亮の策にかかり、
壊滅したとの事にございます!
曹操:な、何だと!!?
信じられん、十万の大軍が敗れるとは…!
いったい、今度はどういう策を使ったのだ!
劉曄:はっ。
まず曹仁将軍は新野まで一息に進軍、その際に天候が荒れ、
大風が吹いて参ったとの事。
同時に日暮れを迎えた為、全軍を新野の城内に入れて休息を取ってい
たところ、城ごと敵の火計にかかったそうです。
曹操:ぬうう、それだけの規模となるとすぐには用意できん。
おそらく最初からそうするつもりであったのだろう。
劉曄:撤退途中、伏兵に悩まされながら白河と申す河までたどり着いたと
ころ、上流で水をせき止めていた関羽の水計にかかり、
ここでも多くの兵を失ったとか。
曹操:なんだと…そこまで読んでいたというのか…!?
劉曄:さらにそこへ下流に潜んでいた張飛の隊が挟み撃ちに襲いかかり、
絶体絶命の中、許チョ殿の奮戦で辛くも死地を逃れたそうです。
曹操:くっ…それで曹仁達はこの宛城へ向かっているのだな。
劉曄:はい、司空閣下に会わせる顔もないが、よろしくご披露願いたいと…。
曹操:そうか。
…しかし…ぬぅぅぅぅ……!
劉曄:一度ならず二度までも…諸葛亮とやら、侮れませぬな…。
曹操:おのれェ許せん!!
全軍、進軍を開始せい!
このままでは余の威信にかかわるわ!!
劉曄:!ッ司空閣下!
しばらく、しばらくお待ちください!
曹操:なんだ、劉曄。
劉曄:報告によれば、劉備は新野の民を手懐けて全員を連れ、
樊城へ移ったとの事です。
曹操:なんだと…さすがは劉備と言うべきか…。
英雄の資質…それが余にとって脅威なのだ。
劉曄:司空閣下の民への情け深さは、決して劉備などに劣るものではありませぬ。
しかし荊州の民達はまだそれを知りませぬ。
そこへいきなり大軍で乗り込めば、民はますます司空閣下を恐れてしまうで
しょう。
曹操:確かにその通りだ。
いかに領土を手に入れても、そこに住む民がいなければ意味がない。
そちに何か思案はあるか?
劉曄:はっ。
まずは応じないことを承知で劉備に和睦の使者を遣わすのです。
しかしあえてそうする事で、司空閣下の民を愛する意思を示すことができま
す。
曹操:なるほどな。
では使者を誰にすればよいか?
劉曄:それは、徐庶をおいてほかにはございませぬ。
曹操:なに、徐庶だと!? バカを言え!
あれを劉備の元へ使者にやったら二度と帰って来んぞ!
劉曄:いえ、違います。
劉備と徐庶の交わりは、すでに天下に知れ渡っています。
それは司空閣下もご存じのはずです。
曹操:うむ…わかっておる。
劉曄:ゆえに、徐庶が閣下のご信頼を裏切って戻ってこなければ、
逆に天下の物笑いとなります。
曹操:ふうむ…そうか、確かにそれは一理ある。
よし、徐庶をこれへ呼べ!
劉曄:ははっ!!
ナレ:やがて呼びだされた徐庶は命を受け、劉備の元へ使いした。
徐庶からの言葉もあったが諸葛亮は即座に曹操の真意を看破、
和睦は不成立となる。
すぐに襄陽へ移動した劉備達であったが、亡き父の後を継いだ幼い
劉琮に代わって国政を取り仕切る蔡瑁一族に拒まれ、
さらに南へ逃避行を続けた。
いっぽう曹操は空になった樊城へ入る。
そこへ荊州から降伏の使者が謁見を願い出てきた。
荀攸:我が君、失礼いたします。
曹操:む、公達か。
いかがした。
荀攸:荊州から正式な降伏の使者として蔡瑁、張允と申す者達が参り、
司空閣下に謁見を願い出ております。
曹操:ほう…荊州にも先の見える者がおるか。
荀攸:蔡瑁とその一族は荊州でも有力な豪族とのこと。
利に聡いとの噂ですが…。
曹操:そうか。
まぁ良い、通せ。
荀攸:ははっ。
ナレ:曹操は一段高い所に座を構えると、威厳を正して二人を通させる。
彼の前に出た蔡瑁、張允は卑屈ともとれる媚びた態度で跪いた。
荀攸:司空閣下、使者を連れて参りました。
曹操:荊州の使者よ、遠路大儀である。
余が曹操だ。
蔡瑁:ははっ、曹司空閣下におかれましてはご機嫌うるわしゅう。
国主、劉琮の代理としてまかり越しました蔡瑁、字は徳珪、
隣に控えますは張允でございます。
曹操:うむ、余に降伏したいとの事だが、偽りはないか?
蔡瑁:はい。
劉琮をはじめ、我ら荊州の臣民は漢王室に逆らう気はみじんもござりませ
ぬ。
それゆえ城を開き、太守の印綬をお返しし、曹司空閣下に降伏いたします。
なにとぞ受けいれて頂ければ幸いに存じます。
曹操:うむ。両名ともその態度、殊勝である。
そち達に尋ねるが、荊州の軍馬、兵糧、軍船の数はおよそどれほどある
か?
蔡瑁:はっ。
騎兵八万、歩兵二十万、水軍十万、また軍船は七千艘ほどあり、
金銀兵糧の大半は江陵城に蓄え、その他、各地の城にも約一年余りず
つの軍需物資は常備しております。
曹操:よろしい、余は満足である。
その忠誠心を認め、亡き劉表の世継ぎである劉琮には、いずれ正式な
荊州の太守に任じてつかわす。
蔡瑁:ははーっ。
曹操:また蔡瑁、そちには我が軍の水軍大都督、張允には副都督として働い
てもらう。
期待しておるぞ。
蔡瑁:えっ、ま、まことでございますか!?
ありがたき幸せに存じます!
曹操:正式な入城はおって通達する。それまでに城の明け渡しの準備を滞りなく行
うように。
大儀であった、下がって良い。
蔡瑁:ははーっ。
それではあらためて、襄陽城にてお待ち申し上げております。
ナレ:蔡瑁、張允は、自分の国の降伏をまるで己の幸運のように、
喜び勇んで帰って行った。
筆頭参謀である荀攸が、その様子を半ば憐れむような表情で見送って
いるのが、曹操の目にとまった。
曹操:…公達、そちには何が見える?
荀攸:は、己の分を越えた重き位に酔うているのが、いささか哀れに思え
たのでございます。
曹操:ほう?
彼らは水軍の知識に秀でている。
それゆえの抜擢だが、そちは不服か?
荀攸:いえ、我が軍の兵士は北国の山育ちの者がほとんどです。
彼らをして水軍を統括させ、呉の孫権に対抗しようというお考えは
分かります。
曹操:ふふふ、案ずるな。
あの二人が取るに足らん小物である事は余も十分に承知しておる。
余が真に欲しいのは、あ奴らの水軍の指揮戦術、
船の構造やその扱いの知識よ。
荀攸:はい、それまでの水軍都督の地位とも知らず…哀れなものです。
まぁ、自分の国が降伏したというのにああして喜ぶようでは、
程が知れるというものですが…。
曹操:うむ。
用が済んだらいつでも首にしてしまえば良い。
後釜には…そうだな、于禁や毛カイにでもやらせるとしようか。
荀攸:そうですな。
大都督殿にはそれまで、せいぜい頑張っていただくと致しましょう。
曹操:それにしても、余と同じ目で見ておるとはな。
さすがは公達よ。
荀攸:恐れ入ります、司空閣下。
曹操:さて、余は少し疲れたゆえ休息する。
ふふふ…いざとなれば踏み潰す事も辞さなかったが、
一戦にも及ばす降伏とは…事は順調に運んでおるわ…ははははは。
ナレ:曹操主従の間でそのような会話がなされているとも知らず、得意の絶頂に
ひたっている蔡瑁らは襄陽城へ戻ると、すぐ劉琮と蔡夫人の前へ報告に
出た。
蔡瑁:ただいま戻りましてございます。
蔡夫人:おお兄上、ご苦労様でした。
して、降伏の使者の件はいかがでしたか?
蔡瑁:曹司空閣下は大変なご機嫌で、いずれ劉琮様を荊州の太守に任じてやろう
と仰せられました。
蔡夫人:まあ、まことでございますか。
蔡瑁:我ら二人も水軍の都督に任じてくださり…これにて万々歳にございま
す。
蔡夫人:劉琮や、これで我が家も安泰…降伏して正しかったのです。
劉琮:母上……私は、何かが間違っているような気がしてなりません。
蔡瑁:劉琮様、何をおっしゃられますか。
そのお考えは甘いですぞ。
蔡夫人:そうです劉琮。
降伏した者がこれほどの扱いを受ける事など無いのですよ。
劉琮:それは…そうかもしれませんが…。
蔡瑁:では、入城の日までに城の明け渡し準備をせねばなりませぬゆえ、
これにて。
ナレ:それから数日の後、曹操軍は堂々と襄陽城へ入城し、蔡夫人の手から荊州
の太守の証を受け取った。
蔡瑁以下、旧劉表配下の諸将も帰順を誓い、そのうち何人かは爵位を与え
られ、荊州は曹操の占領下となった。
曹操:うむ、大体はこんなところか…。
おおそうだ、劉琮よ。
そなたは青州へつかわす。
監察官である刺史に任じよう。
劉琮:わ、わたくしは官爵に望みはありません。
ただいつまでも、亡き父の墓のあるこの荊州にいとうございます。
曹操:いや、青州は都に近い。成人のあかつきには、朝廷に奏請して官人とする用
意ゆえ、黙って行くがよい。
劉琮:は…はい…。
蔡夫人:司空閣下の寛大なるご恩、謹んで御礼を申し上げます。
曹操:うむ。数日この国に名残を惜しんだ後、出立するとよかろう。
皆、下がって良いぞ。
【三拍】
…于禁を呼べ。
【三拍】
于禁:お呼びでございますか、司空閣下。
于文則、まかり越しました。
曹操:うむ、近くへ。
…劉表の息子、劉琮を青州にやる話はすでに聞いておるな?
于禁:はい。
そして成人後は官人にすると…。
曹操:確かにそう言った。
【声をおとして二拍】
…だが、劉琮は余にとって将来的に用のない男だ。
青州へわざわざ行かせることもあるまい。
…あとは、分かるな?
于禁:!! は、ははっ…!
(司空閣下、何と非情なお方よ…!)
曹操:荊州を出はずれたところで追いつくようにするとよかろう。
…一人も残すな。
于禁:承知いたしました。
ナレ:于禁は劉琮が出立して数日後、屈強な五百の兵を従えて後を追った。
名も知れぬ山と川、何と呼ぶかもわからぬ土地を、劉琮と蔡夫人を乗せた
車は青州へ向けて進んでいた。
劉琮:母上、やはり青州へ行かなければいけないのですか?
蔡夫人:曹司空閣下もおっしゃっていたでしょう。
成人したら荊州の太守にしてくださると。その為の用意ですよ。
劉琮:でも…知らない土地に行くのは嫌です…。
蔡夫人:大丈夫、大人になるのはあっという間です。
すぐにまたこの荊州へ帰ってこれます。
劉琮:…そうでしょうか…。
蔡夫人:さ、日も暮れたし、今日はここで野営にしますよ。
劉琮:は、はい…。
ナレ:野営の支度を終えて食事を済ませたあと、劉琮は一人、満天の星空
を眺めていた。
劉琮:…はぁ…。
蔡夫人:どうしたのです? 星空を眺めて。
劉琮:今まで住んでいた荊州が懐かしくて…。
蔡夫人:お前は将来、荊州を治めていく人間です。いつまでもそのような
女々(めめ)しい態度ではなりませんよ。
劉琮:そう、ですね…。
蔡夫人:さ、まだまだ旅はこれから。もうお休みなさい。
劉琮:!? あ、あれはなんでしょう、母上?
ナレ:劉琮が指差した先には、土煙を上げて迫る于禁ら五百の騎兵の姿があった。
于禁:者共、かねてからの指図通り、一人も生かすな!
皆殺しにせよ!!
劉琮護衛1:ぐわっ!!
劉琮護衛2:な、何者だ!? ぅげぇあッ!
蔡夫人:ひーーーッ、ひ、人殺し!!
劉琮:う、うわああああ!?
于禁:恨むなら降伏を決断した自分達を恨むのだな!
お覚悟めされよ、蔡夫人!
はァッ!!
蔡夫人:ギャッ!!
劉琮:は、母上ぇ!!?
蔡夫人:りゅ、う…そ……ッ。
于禁:劉琮殿、あなたを生かしておけば後の災いの元となるゆえ、そのお命、
貰い受ける!
劉琮:い、い、いやだ…たすけ…
于禁:【↑の語尾に被せて】
はあッ!!
劉琮:あ、が……ッ…。
于禁:よし、あとは誰の仕業か分らぬよう始末し、引き上げよ!
ナレ:生い茂る草は紅く染まり、月も血に煙る。
悲鳴絶叫は野山を駆け、水に響き、風にこだました。
運の尽きこそ哀れである。
劉琮・蔡夫人以下一人の生き残りもなく、殺戮劇は幕を降ろした。
曹操軍部将:司空閣下、于禁将軍がお目通りを願っております。
曹操:うむ、通せ。
于禁:司空閣下、ただ今戻りましてございます。
曹操:ご苦労。
して、首尾は?
于禁:は、蔡夫人・劉琮とその一族郎党、ご命令通り始末して参りまし
た。
曹操:…よし、それでよい。
下がってしばらく休息した後、隆中へ向かえ。
于禁:は? 隆中…でございますか?
曹操:そうだ。
劉備の新たな軍師である諸葛亮とやらが住んでいた所だ。
…彼奴だけは許せん!
兵を率いて行き、草の根を分けても彼奴の一族を捕えて来るのだ!
于禁:ははっ!
ナレ:数日ののち、于禁は兵を率いて隆中へ向かった。
諸葛亮の庵を遠目に見ると、配下へ命を下した。
于禁:あれか。
よし、者ども、行けッ!!
一人残らず捕えるのだ!
【二拍】
曹操軍部将:于禁将軍! 中には誰もおりませぬ!
于禁:何ィ!? どういうことだ!
曹操軍兵士1:もぬけの殻です! どうやら既に逃げたようです!
于禁:ぬうう、どこへ行ったか! 村人どもに問いただせ!
曹操軍部将:ははっ! お前達、行けィ!
曹操軍兵士2:はっ!
ナレ:兵達は八方に散り、しらみつぶしに村人達に問いただしたり、
すべての家屋に押し入って捜索の手を伸ばしたが、諸葛亮とその
家族のわずかな痕跡さえも見つけることはできなかった。
曹操軍兵士1:駄目です!
あらゆる場所を探しましたが、何の手がかりもありません
!
曹操軍兵士2:どの村人に問いただしても、いきなり出かけては数カ月は
帰ってこないとの一点張りで…。
曹操軍部将:むむむ…将軍、いかがしましょうか。
于禁:【溜息】
…これ以上は何の手がかりも得られまい。
引き上げるぞ!
曹操軍部将:ははっ! お前達、もう良い! 行くぞ!
ナレ:于禁達は空しく引き揚げると、曹操の前へ報告に出た。
曹操は、于禁が何の成果もあげられなかった事より、諸葛亮の用意周到さに
激怒した。
曹操:ぬうううおのれ諸葛亮め、なんという小面憎い奴か!!
余の手が及ぶ事まで見通しているとは…!
【二拍】
…えぇいまぁよい。これ以上はかかずらっておれん。
于禁、そちも劉備追撃の任に加われ!
二日後に出発するのだ!
于禁:ははっ!
ナレ:有能な人材には女性に恋するがごとく惚れ込み、情熱を傾ける性質の曹操で
あったが、それとは裏腹に、冷酷非情かつ残虐な処置を取る事も多かった。
たとえ優秀な人物でも敵と睨まれれば助からない。
ましてや用がない人間と判断されれば尚更である。
だが、その陰陽両面の極端な差が、彼と言う英傑における一面の魅力なの
かもしれない。
曹操はいよいよ追撃に本腰を入れ、劉備達の身には刻一刻と危機が迫るので
あった。
END
本来、劉琮や蔡夫人が曹操の手で殺されるのは演義のみの話で、正史では曹操にそのまま仕えたとある。
演義では曹操を悪役に据えている為か、こういった書き換えがしばしば目立つ。